フェスタ_フミーン-1
「さぁ、誰を手伝うの? たっちゃん!」
「ふむ、やはりここは、同じ男子ということで、風間史紘を手伝うことにしよう」
すると志夏は、いかにもつまんなさそうに、
「面白くないわよ。風間くんは」
「え……」
なんか、いきなり風間くんを否定してきたぞ……。
「まぁ、今回はそれでもいいわ。特別に私が許可します」
何様だよこいつ……。
あぁ、いや、生徒会長さまか……。
「風間くんなら、隣の生徒会準備室よ。行ってみたら?」
「あ、おう……」
「いってらっしゃい」
そして俺は、生徒会室を後にして、数歩歩いて、生徒会準備室という部屋に入った。
風間史紘が居た。
「よう、フミーン」
とりあえず即興で作ったあだ名で話しかける。
「あれ、達矢さん。何してるんですか、こんな所で」
「いや、志夏がさ、誰かを手伝えって言うから、フミーンを選んだんだよ同じ男子だからな」
「そうですか……」
と、その時――!
『俺はホモじゃあ』
背後から俺の声に限りなく似てる声がした。
しかも、何かすげぇこと言ってたけど……!
振り返って見ると、生徒会準備室の扉のところに、生徒会長・伊勢崎志夏の姿があった。
ペンの形をしたボイスレコーダーを右手に。
志夏は俺に姿を見せた後、風のようにすぐに姿を消した。
あの音源……どこで手に入れたんだ……。
俺は志夏の前であんなこと言った記憶が無いんだが。
いや、志夏の前じゃなくてもあんなことを言ったことは断じてないぞ!
俺はホモじゃあない!
そして、再びフミーンの方を見ると……距離を置かれていた……。
「ぼ、ぼぼぼぼ、僕は、そういうアレないですから! そういうアレしないで下さい!」
「いや、待て……俺は別に……」
「いきなりカミングアウトされて、びっくりですよ! 何なんですか、達矢さん!」
「誤解だ! 俺はホモじゃない!」
「あの……戸部くん……。何があったの……?」
これは別の声。女の子の声。
「ッ!!」
振り返ればそこには、笠原みどりが、目を逸らしつつ、頬を赤らめて立っていた。
「ホモ……なの?」
ちらちらと、上目遣い気味に、俺と床を交互に見ながら。
「ちがうんだ。ちがうんだ!」
「必死になって否定してるのがすごく怪しいけど……」
「実はですね、みどりさん。先ほど達矢さんが同性愛者であることをカミングアウトしてきてですね……」
「違うっての! 違うっての!」
「そ、そういうのも、いいんじゃないかな」
何言ってんのこの娘……。
「あの……なんていうか……意外と戸部くんが受けなのかな」
ダメだこの子……何とかしないと……。
「俺は今、誤解されている」
「達矢さん、ホモじゃない証拠を見せてください。たとえば、好きなアイドルとかは?」
アイドル……か。
「ええと、なんつったかな、何とかひろみ……とかいったか」
アイドルというにはちょっと古いけど。
「やっぱりホモじゃないですか!」
何でそうなる!
どんなひろみを想像したんだ!
「と、ところでみどりは、何しに来たんだ?」
「え、えっと……クラスの出し物でオバケ屋敷やることになったんだけど、その小道具を取りに……ってそんなことよりも今は戸部くんの話!」
「そんなに重要か! 俺がホモかどうかが!」
「重要ですよ!」とフミーン。「もしもホモだったら二人きりにはなりたくないわけですよ!」
「何だ……何でこんなことになってるんだ……」
「普通、好きなアイドルって言ったら、女の子を答えるじゃないですか! RUNちゃんとか、RUNちゃんとか、RUNちゃんとか! なのに!」
「誰だ、RUNちゃんて」
「「この非国民!」」
何か、二人に揃った声でおこられた。
「そしてホモ!」
何なのこの女の子……。
そんなに俺をホモに仕立て上げたいの?
「それじゃ、あたしはこれで!」
「ちょっ! 待ってくださいよ、みどりさん! 僕とホモを二人きりにするんですか!」
「ごゆっくりたのしんで! ばいばい!」
笠原みどりは、言って、取りに来た小道具も持たずに生徒会準備室を飛び出して行った。
「やめてくださぁい! 襲わないでください! 落ち着いてください達矢さぁん!」
お前が落ち着けと言いたい。
「いや……何もしないから……」
「何かする人は決まってそう言うんですよォ!」
「あぁもう……」
沈黙。
しかし、この静かな時間は心地悪かったので、俺から静寂を破る。
「で、俺は何をすればいい?」
「何もしないでください!」
「いや、それじゃここに来た意味が……」
「やっぱり、そういうアレなことが目的で来たんじゃないですか! うわー、うわー。最ッ悪だ」
「お前なぁ! そろそろ怒るぞ!」
俺が少し語気を強めて言った時、
「うわぁああ!」
悲鳴、
すぐに、
ガラッ!
「…………」
笠原みどりが、扉を開ける音がした。
「…………」
「あ、戸部くんが、せめなんだ」
「いい加減にしろ!」