フェスタ_那美音-7
やがて、全員が病院を退院した。
まつりは何とか立ち直ることができたのだが、相変わらずマナカがボロボロだった。
野球を失ったショックからか、心を閉ざしてしまい、誰とも会いたがらず、家に閉じこもるようになってしまった。
快活だったあのマナカが。
しばらくずっと、両親以外に会わない日々が続き、見かねた両親は無理矢理マナカを寮に入れ、集団生活をさせようとしたのだが……。
結局マナカは部屋の外に一歩も出ようとせず、飲まず食わずの生活のおかげで、また入院することとなった。
その後退院したマナカを今度は無理矢理登校させたのだが……。
まつりに会っただけで、恐がった。
「ぅぅ……」
元々小さな体を、さらに小さく丸めていた。
教室で、まつりが、マナカに近付いた時だった。
まつりは、普通に挨拶を交わして、これまで通り仲良くやれたらなんて、都合のいいことを考えながらも、謝りたい気持ちを強く持っていた。
怯えた。
その姿を見て、まつりの心が波立った。
自分のせいだと思った。でも、自分のせいだと思いたくなかった。
矛先は、マナカのスカートを捲った男子へと向いた。
「おらぁあああ!」
まつりは、また暴れた。
「うわぁ、な、何だよ!」
「てめぇがぁ!」
「何だよ! 今日は何もしてないだろ!」
のちの不良Aくんは、焦って距離をとる。しかしまつりは逃がさなかった。
ガタタン!
ガタン!
まつりに蹴られた椅子や机が、教室中を激しく動いて、男子生徒は宙を舞った。
まつりは自分の家に駆け逃げて、またしばらく篭った。
マナカはマナカで、この出来事も新たなトラウマとなり……学校に行くことなどできなくなってしまった。
誰も信じることができなくなり、親にすら怯えるようになった。
そして、マナカの親も……マナカを捨てて街の外へと出て行った。「浜中家の恥だ」という言葉をマナカの心に刻み残して……。
壊れてしまった、世界。
それからマナカが理科室に住むようになるまで、二年の月日を要した。
マナカは、まつりに謝りたかった。「こわがってしまって、ごめん」と。
まつりは、マナカに謝りたかった。どんな言葉をかければ良いのか、思い浮かばなかったけど。
その後、サナが居なくなって、残された五人の幼馴染の関係は、大きく変化した。
それは、もう、以前の関係とは全く別。
カオリ……おりえは、無理矢理にでもまつりを集団の中心にしたがった。自分を支える存在が欲しかった。
マリナ……利奈は、母親にまつりとの付き合いをしばらく禁止され、まつりという支えを失ったように感じて、図書館に逃げ場を求めるようになった。
サハラ……みどりは、まつりの近くについて、いつも彼女を助けられるように備えた。
マナカ……紗夜子は、しばらく淀んだ日々を過ごした後、あるきっかけを掴み、何かを創作することで、自分の存在価値を求め始めた。
まつりは……相変わらず暴れている。
それなりに楽しい世界。
でも、きっと、もっと楽しい世界があったはずだって、それは全員が思っている。
未だ、まつりとマナカは再会していないし、まつりとサナも再会を果たしてはいない。
☆
「そして今、サナが此処に居るのです」
長い説明を終えた本子ちゃんは、変なポーズを決めて言った。
那美音は、左腕で頭をかいた。
左腕に装備した紫色のリストバンドが、妙に目を引いた。
「そんな過去が、あったんですか」
俺は小さな声でそう言った。自分の心中が複雑になってしまって、そんな言葉しか吐けなかった。
「本子ちゃんの妄言じゃないの? 幽霊の言うことなんて簡単に信用できないわね」
「あ、今の暴言ですか! 祟りますよ!」と、本子ちゃん。
利奈は、那美音に向かって言う。
「まつりなら、たぶんゲームのイベントに居ますよ。サナさん。さっきあれに出て五十人抜きくらいしてくるって言ってたから」
「訊いてないのよ、そんなこと」
「う……ごめん……」
「でも……そうね、あの格闘ゲームは、あたしも得意だからね。姉の威厳でも見せてみようかしら」
「サナさん……」
いい感じに話が一段落したところで、俺は本子ちゃんに話しかける。
「ところで本子さん。俺のことは占ってくれないの?」
「いいですよ。えっとですね……今日、しにます」
「ええええっ? 何その暴言!」
「残念ですが、本当です」
「……まじで?」
「というか、この街が死ぬ日なので、思い残すことのないようにした方がいいですよ」
「ちょっと……何でそんなマジっぽいトーンで喋ってるの、本子ちゃん」
利奈が無理に笑顔を作りながらも青ざめた顔で言った。
「ですから、マジだからって言ってるじゃないですかー」
ふわふわと言った幽霊だった。
そしてこの日、本当に街は崩壊した。
【フェスタ_那美音ルート おわり】