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風車は力強く回転を繰り返し規格外の強風は坂を駆け抜けてゆく  作者: 黒十二色
フェスタ_柳瀬那美音(幼馴染の昔話)
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フェスタ_那美音-6

 三人は、マツリの家の前に来た。


 サハラは、多少ビクビクしていた。


 何となくこわかったから。何がこわいのか、サハラ自身にもよくわからなかったが、とにかく何かがこわかった。


 きっと「深入りしたくなかった」……というのが正直なところだろう。


 いくらマツリでも、まさか自分を傷つけて死のうとするとは思っていなくて、そういう人に近付くのを「こわい」と思っていた。


 ただ、「逃げるべきじゃない」とも思っていた。


 サハラには迷いがあった。


 マツリを助けたかった。だけど、一人じゃこわい。


 だから、マリナとカオリに、それとなく相談した。


 二人の意見を聞いて、自分の行動を決定しようと思ったのだ。


 そして、マツリの家の前に来た。


「……マ、マツリー」

 サハラは、家の前から、名前を呼んだ。


 しかし、返事が無い。


「居ないのかにゃ?」とカオリ。


「いや、居る」サハラ。


「え?」


「あの辺に、マツリちゃんの居そうなオーラが」


 言ってサハラは、二階の窓を指差した。


「出てくる気、無いのかな」マリナ。


「出て来なさそうなオーラが、あの辺に」サハラ。


 言って再び、二階の窓を指差した。


 そこは、確かにマツリが居る部屋だった。


 マツリはサナの帰りを待って、サナの部屋に閉じこもっていた。


 サナが来ない限り、外には出ないつもりでいた。


「二人とも、ここで待ってて」とマリナ。


「ふぇ? 何する気にゃん? マリナっち」


「ちょっとー」


 そう言って、マリナは走り去って行った。





 ごーろごーろごーろ。


 しばらくして、怪しげな音を立てながら、マリナは戻ってきた。


「や、おまたせ」


 マリナは、二メートルくらいの身長のロケットを坂に立てながら言った。


「ど、どうしたの? そのロケット」


 目を丸くしてサハラが訊いたところ、マリナは誇らしげに、


「昔、パパがくれたの。失敗作だからって」


「そうなんだ……」とサハラ。


「ロマン! 溢れるロマンだにゃん!」


「よくわかんないけど、ロマンなの?」


「ロマンなんだにゃん」


「とにかく、いい、サハラ、カオリ。閉じこもったマツリを引っ張り出すのは大変らしいの」


「ああ、うん。サナさんもそう言ってたね」


「だから――」


「「だから……?」」


「壁を吹っ飛ばそうと思って」


「なるほど、さすがマリナ――って、納得できるか!」


「ダメかな、やっぱ」


「キケンでしょ。マツリが死んじゃったらどうするの!」


「じゃあ、発破用のダイナマイトを壁に仕掛けて――」


「それもダメでしょ!」


「高枝切りバサミを使えば――」


「枝を切りなさいよ!」


「じゃあ、この巨大ハンマーでちょっと壁壊してくる」


 マリナは言って、マツリの家のベランダまでよじ上ると、どこからか取り出した巨大ハンマーを、力強く振った。腰の回転を使ってしっかり振った。


 ブン、ガシャーン! バキバキッ!


 壁に、穴が空いた。


 言葉を失う、二人。


 マリナはハンマーを地面に投げ落とした。


 ドスンという重たい音がする世界で、今度は軍手をはめた。


 そして、バキバキバキッと壁を引っ張って豪快にぶっ壊した。


 ――驚いたマツリの顔が見えた。


「マツリ!」


 サハラが彼女の名を口にした。


「あっ……」


 マリナは地面、サハラとカオリの居る場所に素早く降り立って。


「やはー! マツリー!」

 とマツリに手を振りながら挨拶。


「やはー!」「やはー」と、下の二人も続いた。


 マツリは(うつむ)いて、何も応えなかった。


「こらー。『やはー』って言われたら『やはー』って返すのが、あたしたちの流儀でしょ?」


 カオリは、不真面目に笑いながらも、真面目な口調でそう言った。


「……怒って……ないの……?」


 カオリにも暴力を振るった記憶があった。


「怒ってないにゃん」カオリ。

「わたしは怒る理由ないっしょ」マリナ。

「あたしも」サハラ。


 マリナは、軍手をはめた手をマツリの方へと伸ばす。


「マツリが寂しいんじゃないかと思って、迎えに来たよ」


「あたしは、いいよ……放っておいて」


「放っておけないよ!」


「サハラ……」


「前にも言ったよね。『殴るなら、あたしたちを殴れ』って! だから、マツリに暴力振るわれたとしたって。それは、あたしたちがそんなことを言ったせいなのよ」


 サハラの言葉に、マリナもウヌウヌと頷いて、


「自分を責める必要なんて、全然ないっしょ」


 カオリもファイティングポーズで、


「いつでもかかってくるにゃん!」


「えっと…………」


「さぁ、殴りに来なさい、マツリ!」マリナ。

「マナカの痛みを、あたしたちにも!」サハラ。

「ばっちこーい!」カオリ。


「どうして……」


 マツリが、ベランダに出てきた。


「親友だからっしょ」


「仲間だにゃん」


「幼馴染だからよ」


「あたし……そっちに居ても、いいの?」


「良いよっ!!!」


 揃った声。三人分の声。


「……っ!」


 タンッ!


 そんな軽快な音を立てて、二階からマツリが飛んだ。


 アスファルトに着地したのだが、バランスを崩し、ロケットに手をついた。


 その時、ロケットが倒れた。


 ゴロゴロゴロゴロ。


 ロケットが勢いよく転がる音。


 ドゴッ!


 ロケットが、マツリの家の塀に激突した音。


 ドオオオオオオン!


 爆発した音。


 激しく爆ぜた地面が爆風に乗って、四人を襲った。


「きゃああああ!!!!」


 全員、怪我した。


「な……何やってんだい! あんたたち!」


 薄れる意識の中、四人の視界には、


 坂の上からカオリの母親、すなわち穂高華江が駆け寄ってくるのが見えた。


 まつりは、思う。


 ――関わりたかった。


 でも不器用な上井草まつりには、その方法が難しい。


 戸部達矢がこの街に居る現在、上井草まつりの幼馴染に対する軽度の暴力は、最大限の愛情友情コミュニケーションなのである。


 ともあれ――。


 まつり、サハラ、マリナ、カオリ。


 四人は……入院して、同じ病室でわいわいやっていた。


 病院には既にサナはいなくて、マナカにも会うことはなかった。


 マナカの両親が、少しでもまつりに近づけないように個室にマナカを入れて誰にも面会させないようにしたからだった。




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