フェスタ_那美音-3
ある日のこと。自習中の教室での出来事。
この過疎の村では、幼い子は皆同じ学校に通っていて、学年が違う子供も同じ教室で勉強していたのだが。
「スカートなんて穿きやがってぇ!」
そんな声と共に、不良な男子生徒がスカートをめくった。
「きゃ」
めくられたのは、浜中紗夜子。
マナカである。
「ふへへっ」
スカートめくり……。
子供らしいことではあるが、そういったことをやってはいけなかった。
特に、マツリの前では。
「何してんだ! てめぇ!」
言って、次の瞬間、男子生徒は吹っ飛ばされた。
最大限に怒ったマツリに殴り飛ばされたのだ。
マツリは、乱暴をやめないでいた。
力はどんどん強くなっても、ストレスに弱いままだった。
その暴力で、事実上学校を支配していた。
そんな状況でも、リーダーのサナはマツリを野放しにしていた。
というよりも、野放しにせざるを得なかった。そのころにはもう、サナだけは町の外にある優秀な高校に通い始めていたし、マツリに関わりたくないと思っていた。
簡単に言えば、サナは、弱すぎる妹から距離を置きたがった。
そこで、サハラたちは、マツリが暴れる現状を重くみて、『幼馴染同盟』というものを発足させて、マツリに向かって、
「他の人を殴りたくなったら、あたしたちを殴って」
と言っていたのだが。
そんなこと忘れたかのように怒り狂ったマツリは、男子生徒への攻撃をやめようとしない。
「ま、マツリ! やめて!」
スカートをめくられた被害者であるマナカの静止すら耳に入らないほど、マツリは怒っていた。止めようと入った人々も、全員蹴り飛ばされた。怒りに我を忘れるとか、キレるとかいうのは、まさにこのことかといった有様。
怪我をした人も多く居た。
原因は、ほんの小さなこと。本当に、小さな……。
「やめるにゃん!」
カオリは、マツリを止めようと、マツリに飛び掛かったが、
怒れるマツリは、無差別攻撃モード。
カオリすらも突き飛ばした。
「はにゃっ――」
カオリは床に頭を打って気を失った。
教室は、騒然として、後、静まり返った。
「何してんだって訊いてんだよ!」
「ひぃ……」
スカートめくりの不良は、恐がっていた。
「マツリ!」
マナカが、マツリを押さえつけようとした。
――自分のスカートをめくった犯人とはいえ、殴ったりすることはない。それをするなら、マツリじゃなくて自分自身だ。このままでは、この男の子が死んじゃう。
マナカはそう思って、後ろから羽交い絞めにしようとした。
しかし、マナカの力ではマツリを抑えられない。
それどころか、マツリは、マナカも突き飛ばした。
……その……突き飛ばした場所が悪かった。
教室の引き戸。
マナカは、利き腕の左腕を出っ張った部分に強打した。
そして、地面に落ちる時に、悪い角度で左肩を強打した。
「――――っ!」
教室の床に倒れる。
「うぅぁ……」
呻いた。
まだ、終わらなかった。
「うわぁああ!」
まつりは、男子生徒を投げ飛ばした。男子生徒の体は机をガガガガッと動かしながら、その机の上を滑り、そして――
ドシャッ!
……マナカの上に落ちた。
左肩の上に。
「っっはっ!」
痛みで、涙が弾けた。
この瞬間、マナカの左肩は完全に壊れた。
「あぁぁ……」
苦し気なその声に、マツリはようやく我に返った。
――また、やってしまった。
マツリはこの時の暴力によって、自分という存在に対する嫌悪感を一層強めることになった。
怪我をした人の数は、九人。
大暴れだった。
隣のクラスのサハラやマリナたちがそれを知ったのは放課後。
サナが知ったのは、もう少し後。
サハラも、マリナも、サナも、信じられなかった。
マツリが、マナカやカオリを怪我させたなんて。
そして、マナカがかなりの大怪我したなんて。
病院に行ったマナカは、
「もう野球はできないんだな」
そう思った。