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風車は力強く回転を繰り返し規格外の強風は坂を駆け抜けてゆく  作者: 黒十二色
フェスタ_柳瀬那美音(幼馴染の昔話)
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フェスタ_那美音-1

※フェスタ達矢ルート1日目の途中から。

 俺は誰も手伝わねぇ!


 誰にも縛られたくなかった俺は、そう言って、志夏の「誰かを手伝いなさい」という命令を拒否したのだが、意外なことに志夏はすんなりと「勝手にしなさい」と言ってきた。許可されたのだ、誰も手伝わないことを。


 というわけで、俺は賑やかな文化祭というイベント。通称『ウィンドミルフェスティバル!』の中をブラブラしていたのだが。


 一通り、校舎の一階をのぞいた後、二階へ行った時、俺はその女に出会ったんだ。


 その日、俺は、彼女と彼女の幼馴染にまつわる昔話を聞いた。


  ★


 校舎二階は、部活の出し物でもなく、クラスの出し物でもない。


 やりたい人が自由に色々やっている感じだ。


 たとえば教師たちによるクイズイベントだとか、パソコン同好会主催のゲーム大会だとか。


 その中で、目に留まったのが……。


『本子の占い』


 という看板。


 本子って誰だ……。


 気になったが、入ってみる気にはならんな……と思ったその時だった。


 ドンッ。


 俺の肩に、誰かがぶつかった。


「あ、すんません」謝る。


「あ、こちらこそ」

 女の人だった。


 どっかで……見たことあるような……ないような。


 そして、その時、突然に、


「やばっ、こっちへ!」


「え?」


 本当に突然だった。俺は女の人に突然手を引っ張られ、『本子の占い』の部屋へと入った……。


 何なんだ一体。


「あ、いらっしゃいませー」


 室内には、何か、変なのが浮いていた。


 三頭身の幽霊みたいのが、宙にフワフワ浮いてるんだが、何だこれ……。


「ふぅ、あやうく見つかるところだったわ」


 俺をこの部屋に連れ込んだ女の人はそんなことを言った。


 はっきり言って、意味がわからない。状況が把握できない。


「何なんすか、一体……」


 俺が呟くと、


「あたし、柳瀬那美音」


 名乗ってきた。変な女だ。


「変な女とは、ご挨拶ね。会ったばかりなのに。名前は?」


「戸部達矢っす」


「へぇ、()()戸部達矢くん、か」


 あの……って何だ。俺そんなに有名人なのか?


 この街に来たばかりだってのに……。


「達矢くんが達矢くんだったとすると、本当に危ないところだったわ」


「何がっすか」


「ちょっと面倒なヤツに見つかるところだったのよ。まぁ、その危機は去ったけどね」


 なんか……スパイみたいなこと言ってるな。


「なっ……何ですって? なかなかカンが良い子のようね」


「はぁ?」


 うわーすげー変な人だな……これ……。


 と、その時、「あのぅ……」というどっかで聞いたような声が聴こえてきた。背後から。


 振り返ってみると、そこには!


「うわ……」


 ゆったりした黒衣に身を包んでフードをかぶった背の高い女の子が居た。なんか毒薬とか煮てそうな悪い魔法使いみたいな格好だ。


「お客さん……かな」


 えっと、黒髪で長身の、この子は確か……。


「えっと……宮島利奈さんか」


 昨日、生徒会室で一度だけ顔を合わせた。


 すると、那美音が言った。


「ってことは……もしかして、マリナ?」


「は?」


 知り合いなのだろうか……。


「え、まさか……サナ……さん?」


 何なんだ一体。いや、サナさんてのが、那美音のことで、マリナってのが利奈のことだってのはわかるが……。


「感動の再会ですね」本子さん。


「そうなのか?」


 俺は幽霊に話しかけた。


 って、幽霊に話しかけてるこの状況も、何かおかしいだろ……。


「うん。サナさんは、えっとね……まつりの――」


 利奈が語ろうとしたその時だった――。


「うえっへい、待つんだ利奈っち。それを語るのは、本子の役目だと思うますです」


「は? え? 何で、本子ちゃん」


「そして本子は語り出したのです。遠い昔の、出来事を……」


 幽霊がナレーションしてる……。


 何なんだこの空間は……。


 変だぞ……。


「ゴーゴー!」


 三人、俺と利奈と那美音。俺たちは戸惑いながらも幽霊の言葉に耳を傾けた。


  ☆


 強い風が吹く村。


 広がる花畑と、いくつか並ぶ、古い四枚羽の風車。


 まだ発電用の白い風車の建っていないその村で、人々は暮らしていた。


 那美音を中心とした幼馴染六人の中の五人は、それぞれあだ名を持っていた。


 サナ、マナカ、カオリ、マリナ、サハラ。


 マツリだけが、あだ名をもらえないでいた。


 ……もう、何年前になるだろうか。


 上井草那美音……。あだ名はサナ。


 サナは、子供。小学生だった。


 サナには、同じく小学生の妹が居た。


 マツリという名前の、生意気な妹。


 でも那美音自身は、マツリを可愛い妹だと思っていた。


 マツリは那美音を尊敬していたし、那美音は、気に入らないこととか色々あったりしても、何だかんだ言っても、マツリを気にかけていた。


 きょうだい、だから。





「合言葉は?」

 そう言ったのはマツリで、


「やはー」

 そう返したのはマリナ。


「うむ、入ってよし」


 街の南側には、穂高家が管理する広大な敷地に、花畑や森林が広がっていた。


 穂高家の敷地と言っても、そこは穂高家の仕事場。穂高家の人間ですら勝手に入ることは許されておらず、その門をくぐるには大人の許可が必要だった。


 その一角に、勝手に秘密基地を作ったのは、サナ。


 正確に言うと……


 サナと、カオリと、マナカの三人。


 今の呼び名で言うと、


 那美音と、緒里絵と、紗夜子の三人である。

 上井草家、穂高家、浜中家。

 かつては村の主導権を激しく争った三つの家系であったが、それはもう遥か過去の話。


 子供たちも、顔を合わせる機会が多く、自然に仲良くなっていた。


 三人が遊ぶ時は、いつもこの秘密基地が集合場所になっていたが、今日は、そこに、マツリとマリナがやってきていた。


 マツリは言うまでもなく上井草まつり。


 マリナは宮島利奈のあだ名であった。


 秘密基地……というだけあって、この場所はサナたち三人の秘密の場所であったのだが、


 サナがうっかりマツリに秘密基地が存在するという事実を教えてしまったがために、マツリがここに来ることになったのだ。


 サナは「マツリは秘密基地には入っちゃダメ」と言いつけておいたが、当然そんなものを守るマツリではないのであった。


 ところで、秘密基地には、マリナとマツリの他に、もう一人居た。


「やはー」


 これは、サハラ。


 今の、笠原みどりである。


 彼女は、サナのお気に入りだった。


 マツリと同い年であったが、事実上仲間はずれにされているマツリよりもサナに近い立場だったかもしれない。


 言ってみれば、軍団の副隊長のような立場として扱われていた。


 サナの妹であるマツリはいつも、それが気に入らなかった。


 マツリとしてはサナに一番近い所に、立っていたかったのだ。


 そこで、今回の秘密基地侵入事件である。


 サナから秘密基地があることを耳にしたマツリは、さっそくサハラを暴力で脅し、場所を吐かせたのだった。


 いきなり拳を向けられて、「従う」以外の選択肢を排除されたサハラは、渋々ここにマツリとマリナを案内した。


 そして、サハラが合言葉を(脅迫されて)教えて、マツリとマリナがその合言葉の練習をしていたところ……というのが今の場面。


 ちなみに、マリナはマツリの子分である。


 と、そこへ――


 人影一つ。


 冷たい目をしたサナが登場した。


 凍りつく三人。


「ち、ちがうんだよ、サナ。これは、あたしが誘ったんじゃなくて……」


 サハラが慌てて言い訳をして、


「わ、わたしも……自分の意思じゃなくて」


 マリナも続いた。


 そんなもんだから、マツリは、「うぇええ!?」と焦って二人を責めたいと思いながらも姉の前でそんなことできないとも思ったり。


 サナは、溜息を一つ。


「わかってる。マツリ。帰りなさい」


「え、あたし――」


「言い訳なんていらない。さっさと帰りなさいよ!」


「お、おねえちゃん……」


 と、そこに姿を現したのは……。


「あれ、マツリ」

 浜中紗夜子と、


「うにゅ?」

 穂高緒里絵だった。


 多少ややこしいけども、大まかに彼女らの幼馴染関係を説明すると。


 サナとマナカとカオリが対等。


 その中でもサナが最も年長者でありリーダー格。


 補佐役にサハラ。


 つまり、マナカとカオリは、むしろマツリやマリナよりも年下なのだが、サナとは対等な関係だった。


 サナの妹のマツリは、マリナを手下にして連れ回したり、サハラを手下にしようとしたりしていた。


 サナは、サハラに向かって(さと)すように、


「サハラ、マツリの言うことなんて聞かなくてもいいのよ。何かあったら、あたしに言ってくれれば、マツリなんて懲らしめるから」


「う、うん……でも……」


 サナは、サハラを信用していた。


 わかりやすく言うと、サナが組織のトップとすれば、サハラはその補佐役。ナンバーツーに位置する。サハラの主な役割は、自由奔放なマナカやカオリの見張り役。


なお、マツリとマリナの二人は、サハラとは仲が良かったが、最終決定権を持つサナに認めてもらえず、基本的に仲間に入れてもらえないでいた。理由は、マツリがバカで乱暴なのと、サナが「妹と遊ぶのなんて子供みたいだから嫌だ」と嫌がったからだった。


「あたしは、仲間に入れてほしいだけなのに」


 マツリが言った。


 マリナとサハラとカオリとマナカ。四人は、次々にリーダーの顔を見た。


「ダメ!」


 サナは叱るようにそう言った。


「うあぁん、あたしも仲間に入れてよぅ」


 泣いた。


 マツリは困ったらすぐ泣くのだ。


 しかし泣かせたサナは、「マツリが可哀想」などとはカケラほども思っていなかった。マツリが「とりあえず泣く」のは常套手段だったから。


 大して泣くようなことじゃなくても、大きな声でわんわん泣いて、構ってもらおうとする。その子供らしさが、気に入らなかった。


 姉として厳しく接する……なんて気持ちではなく、ただ単純に気に入らないだけ。


 ――マツリは、いつものように泣いているだけ。親にオモチャをねだる子供のように、ただ周りを困らせるだけ。


 サナは、マツリのその行動をいつも否定したがるのだった。


 結局、それはマツリに厳しく接するという結果になるのだが。


「うああああん」


「泣いたってダメ!」


「サナ、いいじゃん。一緒に遊ぶにゃん」


 カオリが優しさを発揮したところ、


 泣きやんだ。調子よく泣き止むあたりに、計算高さを感じて、サナはまたイラついた。


「サナの妹だったら、いいじゃん」


 そう言ったのは、マナカだった。


 ちなみに、マナカはサナの年下で、実はマツリよりも年下である。


 だけど、何故だか偉そう。


 つまり、無意識的に、それぞれの立場は、年齢がどうのこうの、というよりも、家柄で決まっていたように思われる。


 浜中家の、跡取り、マナカ。

 穂高家の、三女、カオリ。

 上井草家の長女、サナ。


 気高く育てられた彼女らの心には、プライドという名の巨大な生き物が育っていた。だから、年上のマツリやマリナと比しても対等以上の場所に自分を位置づけていられたというわけだ。


「でも……」

 サナは難色を示し続けるが、


「仲良くしなきゃいけないんでしょ。わたしたち」

 マナカは胸に手を当ててそう言って、


「そうだにょ。マツリだってサナと遊びたいから此処に来たんなら、その愛に嘘は無いんだにゃん!」

 カオリは何故かバンザイしながら言った。


 サナとマナカとカオリは、基本的には対等であるが、やはりサナがリーダーだった。この時点で、上井草、穂高、浜中の三家の力関係は、上井草家を上位に置くことは決まっていたのだ。


 それはすなわち、サナが村のトップに君臨する予定であることに他ならず、村の人々は相応の教育をサナに課していたわけだ。


 強く、賢く、おおらかに。


 長く続いた三家の争い。


 その泥沼の混乱に終止符を打った村の、平和の象徴。


 それが、上井草家の長女・那美音だったということ。


「うん、なんか、可哀想だよ」

 サハラも言った。


 皆して、泣きやんだマツリを憐れむ。


 その中で、マリナは引っ込み思案な上に、マツリの手下でしかなかったので、何も言えないでいた。


「皆がそう言うなら、いいけど……」


 サナは渋々皆の意見を受け入れることにした。


 サナは、家と外を分けたかった。実は家の中でのマツリを甘やかしている自分を、マナカにもサハラにもカオリにも見せたくないということなのだが。しかし、やはり、皆が「良い」と言うのなら仕方が無い。


 それは、村の総意に「ノー」と言うことと同じようなものだ。


 サナには、まだ、そこまでの決断力を生むための自信や経験も無かったし、皆の意見に耳を貸さない傲慢さも自分勝手さも無かった。だから、


「わかった。マツリ、そのかわり乱暴なことはしないで、おとなしくするんだよ」


 その条件と引き換えに、マツリを仲間に入れた。


 こうして上井草まつりは、皆の仲間に入れてもらえることになったのだった。




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