上井草まつりの章_3-3
俺は、がばっと起きた。
周囲を見渡すと、また保健室だった。キレイな髪をした女子が見えた。
「戸部くん……何で生きてるの……」
みどりだった。
「第一声がそれですか、みどりさん」
俺も、何故生きているのか不思議なんだぜ。
まぁ、あれだ。神様のおかげだとでも言っておこう。
「普通、まつりちゃんにあんなに蹴られたら少なくとも集中治療室行きだよ?」
「ああ、今までで最大級に痛かった」
超痛かった。いくら丈夫でも、あのまつりレベルの攻撃を何発ももらうと気を失うようだ。
「でも、その割には無傷って……戸部くん、何者なの?」
「実は、宇宙人なんだ」
「へぇ」
それきり、沈黙。
あの、「へぇ」だけっすか……ツッコミは……。
「そ、それで、今は、何時間目だ? 放課後か?」
俺は訊いた。
「ううん。まだ昼休み中」
「我ながら驚異の回復力だな」
「だけど、見てられないよ。一方的じゃないの……」
「いや、そんなことはない。互角だった」
「どこがだ」ぽすん。
手の甲で叩いてきた。ツッコミだ! 少し弱いが、良いツッコミだ!
ていうか、女の子のツッコミなら何でもうれしいっ!
俺は感激してみどりの手を取りつつ、
「やってくれる気になったのか、ツッコミ!」
みどりは手を振り解いて引っ込めつつ、
「いや、そういうわけじゃないけどさ」
そうか。まあ、そうだとは思ったが。
「気にするな、殴られてでもまつりに向かっていくのは、俺がやりたいからやってるだけだ。髪の毛ばっさばっさされるのが嫌なんだろ」
「それは、そうだけど……」
「ま、とにかく大丈夫だから、心配するな」
すると、みどりは呟くように、
「ありがとう」
「ところで、みどり」
「何」
「まつりの弱点って何?」
「うーん、何だろう。まつりちゃんの苦手なことは戸部くんの方が苦手な気がする……」
「それでも良い。とにかく何か無いか?」
「あると言えばあるけど……」
「何だ?」
「何でそんなにキラキラした目で……」
「だって、勝ちたいだろうが!」
「そんな、思い切り言われても……」
「いいから、教えてくれ」
するとみどりは観念したように溜息を一つ吐いて、
「ある意味、野球は苦手と言えるのかな……あとコーヒーをブラックで飲めないって」
と言った。
野球と、コーヒーか。
「野球は俺もできねえからパスだ」
「じゃあ、コーヒーだけになるかな……」
「よし。コーヒーだな……」