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フェスタ_志夏-1

「さぁ、誰を手伝うの? たっちゃん!」


「いや……」


「まさか……私を手伝いたいとか言うつもり?」


 なるほど、その手があったか。


「そうさ」


「あら、それは嬉しいわね」


 あんまり嬉しくなさそうに、志夏は言った。


「なんだか嬉しくなさそうだな」


「そんなことはないんだけどね。意外で」


「そっか」


「そうよ」


「で、俺は何をすれば良いんだ?」


「では、まずコレを着てもらうわ」


 言って、志夏が差し出したのは――


 えっと……まじ?


「何すかこれ」


「犬のきぐるみ」


 やっぱそうだよな……。


 どう見ても犬のきぐるみだ。


 いきなりコスプレさせようとしてきただと……。


「訊いていいか?」


「何?」


「志夏は……何をやる気なんだ?」


「刺激が欲しいんじゃないかと思って」


「いや……あの……俺、この街に来たばっかで、刺激とかそういうの別に求めてな――」


「うるさい。着なさい」


「えっと……」


 着たくない。


「着ない場合、たっちゃんは志夏を甲子園に連れて行かないとダメだゾ」


「だから、誰のつもりだ、このやろう」


「犬がダメなら、メイドにでもなる?」


「誰がなるものか!」


「あ、いいのかな。私は、たっちゃんの弱味をいっぱい握ってるんだよ」


「何だよそれ。何度も言うように、俺はまだこの街に来て日が浅いぞ」


「そんなものはもう、関係ないでしょ。私には、たっちゃんの知らないたっちゃんが見えてるの」


「意味わかんねーぞ」


 すると志夏は、「こういうことよ」とか言いながら、ボイスレコーダーを取り出した。


『俺はホモじゃあ!』


 なんか、俺の声で身に覚えのないカミングアウト。


「どう? これでもまだ私に逆らえる?」


「すげぇな、それ。どうやって作ったんだ? 俺の声で」


「違うわよ。たっちゃんが言った台詞なのよ」


「いやいやいや、言ってない言ってない言ってない」


「でしょうね。この台詞を言ったのは、今のたっちゃんとは違うたっちゃん」


「意味がわからん」


「わからなくてもいいわ。とにかくコスプレをすれば良いのよ」


「はっきり言わせてもらいたい。お前、おかしいだろ」


 ガツンと言ってやった。


「あらひどい。出会ったばかりの女の子に向かって、いきなりそんなこと言う? 普通じゃないわね」


 全然こたえて無い様子である。何なんだ一体。


「で、着るの? 着ないの? 着るの? 着るんでしょ? 着なさいよ」


「……あのさ、思うんだけど……志夏ってとことんキャラが安定しない子だよな」


「質問に答えなさいよ」


「えっと」


「私は『キャラが安定しない子』っていうキャラで安定してるの。そんなこともわからないの?」


「何で怒ってるんだよ」


「ちなみに、さっきの着ろよ着なさいよみたいなのは、上井草まつりさんの真似をしてみたのよ」


「そうっすか」


「とにかく、着てよこれ」


「嫌だっつってんだろ」


「へぇ、逆らうの。私に。つまり神に対する反逆をするんだ」


「つくづく言いたい。何なの、この変な子」


 そして、志夏が言った。


「上井草さーん! 仕事よー!」


 すると、


「あいよっ!」


 一度出て行ったはずの上井草まつりが再び戻ってきた!


「おらぁ! 達矢ぁ! コスプレしやがれ!」


「な、なんだお前」


「着ないと殺す!」


 すごい目でにらまれた。


 凶暴な目。


 今にも俺を狩りそうな。


「……はい、着ます」


 負けた。


 こいつは、俺のことなら平気で殺すくらい殴る気がしたのだ。


 身の危険には敏感。なんかある意味では犬のコスプレをするに相応しい気さえしてくる。


 というわけで、俺は犬のきぐるみを素早く身に纏った。


「ありがとう、上井草さん」


「まぁね。それじゃ、あたしはこれで」


 言って、去ろうとした時――


「待って」


 ガシッと、まつりの腕を掴んだ志夏。


「な、何よ……」


「上井草さんはコレ」


 言って、差し出したのは、お姫様みたいなヒラヒラフワフワした服だった。


「…………冗談でしょ……」


「姫になぁれ☆」


「いやいやいやいや、むりむりむりむり! 似合わない。こんなんあたし似合わないからゼッタイ!」


「ははは、確かに。まつりに姫なんて似合わねぇな――」


 俺がそんな言葉を漏らした刹那――


「うおらぁああ!」


 ドゴン!


 あぁ、何か懐かしい感じ。


 天井に突き刺さるのは初めてのはずなのに、何だかおふくろの味みたいに懐かしい感じ。


 この目の前が真っ暗で、衝撃で星が舞っている感じも、何故か懐かしいんだ。


 そう、俺の上半身は今、天井に突き刺さった。


「キミにそういうこと言われると、何故か腹立つんだけど! 殴り飛ばしたいくらいに!」


 いや、お前、すでに殴り飛ばしてるから……。


「ま、とにかく……着てちょうだい」


「い、嫌だぞ。そんな衣装、あたしゼッタイ――」


「ふふふ、これでも言えるかしら。浜中さん、入って」


「は、はまなか……だとっ!? まさか……ッ」


「しなっち? 何か呼んだー? 電波受信したんだけど……って、やぁ、マツリ」


「やぁ……って……えっと……どうすれば……」


「着ればいいんだよ。それ」


「そうよ。その姫系ファッションに身を包むしか、上井草さんに選択肢はない!」


「あぁ~……うぅ~あぁ~……」


 まつりは悩み声を上げた後……。


「そう、それで良いのよ。良い子ね」


 どうやらお姫様になったらしい。


 俺の視界は真っ暗なままで見えやしないが。


「きれいだよ、まつり」紗夜子の声。


「うっせぇ、殴るぞ……」


「わたしに向かってそういうこと言える立場なのかなあ」


「あぅ。えっと……そのぅ……ご……」


「ご?」


「ごご……ごぉー……ぅぅ……うんと……あー」


「何?」


「……ごめん……な、さい」


 謝っていた。


 珍しいな。横暴と自分勝手を極めてるとさえ陰口を叩かれるほどの人物である上井草まつりが謝るとは。


「さぁ、皆も着替えた着替えた!」


「「「「はーい」」」」


 皆?


 みんなってのは誰のことだ……。


 何人か分の声がしたよな、今。


 何なんだ一体……。



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