フェスタ_利奈っち-6
ガシャン!
牢屋の檻、その目の前の格子のドアが、閉じられる音が、激しく響き。しばらく反響した。
何という立派な檻。
脱出なんてできそうもなかった。
まつりは、鍵を閉めながら言う。
「すまんな、達矢。今、豪華な独房の方には不良Aってヤツが入ってるんだ。こっちのしょぼい檻で我慢してくれ」
「いや、ていうか、俺は何も……」
「泣いてたろうが! 利奈が!」
「利奈っちが泣いたのは俺のせいじゃない!」
「往生際が悪いぞ達矢!」
「いや……実際そうなんだって……」
「とにかく、しっかり反省しやがれ!」
言い残して、まつりは去っていく。
暗い部屋に、残される。
やがて、まつりの上履きの裏が床を打つ音も消えた。
しかし、そのまま静寂かと思いきや、誰かの声が静けさを破った。
「新入りっすか?」
向かいの檻に、人影があった。
「誰だ、お前」
「オレは、Dってんです」
「俺は達矢だ」
俺は男子生徒Dくんに向けて名乗った。
「そうっすか。達矢さんも、上井草まつりに逆らってぶちこまれたクチっすか? 何やってぶちこまれたんすか」
「何もしてないはずなんだがな……」
「めぐりあわせが悪かったってわけっすね」
「まぁ……そうなんだろうな……」
「オレもそうっす。オレは穏便に話し合おうと思ったのに仲間が上井草まつりに攻撃仕掛けちまって……その巻き添えでこのザマです」
「何で攻撃なんて仕掛けたんだ? お前の仲間は」
「そこに上井草まつりが居たから……ってところじゃないっすか?」
そんな、山があったらのぼる、みたいな対象なのか。
「まぁ、いろんなヤツに恨み買ってそうだもんなぁ、まつりは」
「それもありますけど、きっと、強くなりたいんすよ。格闘家としてのまつり姐さんは、実際、尊敬できるレベルっす」
目標みたいなもんか。だとすると、まじで山があったらのぼる的なことだったらしい。
「オレは、こうして牢獄に入るのは二十回目くらいっすから、ここでの過ごし方でのアドバイスくらいはできると思います」
牢獄二十回って……どんだけだい。
「どうしても退屈で精神崩壊しそうになったら、時の流れを観るんすよ」
「何だそれ」
「しばらくずっと一人きりでココに居ればわかるっす。でも、今回はオレという話し相手が居るから大丈夫っすね。オレが太鼓判押しときます。『話せる相手さえ居れば大丈夫だ』って」
「そうかい……」
「バナナ、食います?」
「どうしたんだ、バナナなんて」
「上井草まつりからの差し入れっす」
「毒とか入ってないよな」
「大丈夫っす。上井草まつりは毒殺なんて卑怯なマネは嫌いっすから」
「そうなのか。まぁ確かに、そんな気もするなぁ」
「んじゃ、投げますよ」
「おう」
そして、男子生徒Dは、檻から手を出し、黄色いバナナを俺の檻に向かって投げた。
俺はそのバナナをキャッチ――
――できずっ!
ぱしっ。
俺の手に弾かれたバナナは、地面に落ちた……。
俺にもDくんにも届かない場所に……。
「…………」
当然の沈黙である、
「なんていうか……すまん、Dくん」
「いえ……オレのコントロールが悪かったっす」
「いや……俺のミスで……」
「センパイは悪くないっす! オレの責任っす!」
「いや……なんていうか……お前、いいやつだな」
「とんでもない。極悪人っすよ。いいやつに見えたとしても、偽善者っす。ただ、何にしても、センパイは立てるもんっすから!」
「そ、そうか……」
何というか、体育会系のノリというやつか……。
あれ、でもこいつ、制服から察するに三年生だから後輩ってわけでもないよな。
まあいいか。
「バナナのことは、もう無かったと思って忘れましょう」
「そ、そうだな」
ただ一つ、地に落ちたバナナ。
「…………」
バナナは何も言わなかった。当たり前である。
「それじゃ達矢さん。オレ、瞑想するんで、寂しくなったら話しかけてくださいっす」
「お、おう……」
Dくんは座禅を組んだ……。
とても静かな時間が流れる。
暇だ……。