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上井草まつりの章_3-2

 チャイムが鳴った。休み時間になったのだ。


 俺は、授業中に教師の話そっちのけで考えた次の対決方法を携え、席を立った。


 あやとり勝負の様子から考えるに、上井草まつりはかなりの負けず嫌いと推測される。


 となれば、やはり勝負を挑むという選択は正しいと思う。正しいはずだ。


 ついでに、勝てばみどりにモイストしないという約束を取り付けることも出来るだろうから、まさに一石二鳥。


「まつり」


 俺はまた、まつりに話しかける。


「またお前か」


 顔をしかめられた。


「賭けをしようじゃないか」


「どんなだ」


 俺は、二枚のトランプを取り出した。


「ここに、二枚のカードがある。何の変哲も無いトランプだ。絵柄は、スペードのエースとジョーカー。ジョーカーを引けばお前の負け。お前が見事スペードのエースを引き当てればお前の勝ちだ!」

 言って、まつりの机の上に二枚のカードを置いた。


「さぁ、どっちを取るっ!?」


「……どっちもジョーカーだろ」


 見破られただと!


「そ、そそそ、そんなことはない」


「…………」


 ぺらぺらっ。


 まつりさんの長い指が、二枚のカードを同時に捲った。


 二枚ともジョーカーなのは言うまでもない。


「OH……これは、どうしたことだ」


 わざとらしく言った。


「イカサマすんなぁー!」


 どかーん!


 殴られ、またしても宙を舞った。





 昼の休み時間になった。


 いやはや、まさか知恵まで兼ね備えているとは恐れ入った。


 さすがに二回もぶっ飛ばされて、体が痛い。痛いが、俺は死なない。丈夫だからな。


 いくらまつりが規格外のパワーを所持していても、規格外の丈夫さを持つ俺を病院送りにすることはできない。まつりが最強の矛を持っているとしたら、俺は最強の盾を持っているということでもある。そう、それは確信した。つまりは、俺は何も恐れる必要は無いということだ。


「やい、まつり」


 俺はまた、まつりに話しかける。


「何だよ」


 俺は、どこからか調達したリンゴ二つをまつりの前にごとりと置いた。


「料理対決だ!」


「はぁ?」


「このリンゴ一個。先に全ての皮をむいた方が勝ち。はじめっ!」


 俺は言った。そして、果物ナイフを取り出し、皮をむきはじめる。


 もちろん、まつりにはナイフがない。これでまつりは皮をむくことができない!


 さあ、どうする……上井草まつり!


「…………」


 すると、まつりは無言でリンゴを掴み上げ……そして――


 バチン!


 握りつぶした!


 果汁、舞う。


 俺の全身、リンゴ汁まみれになる。


 うっそぉ……。


 えっと、握力いくつー?


「ははは……甘い匂いするな」


「食い物を粗末にするなぁー!」


 ばごーん!


「はぐぁ!」


 一瞬でナイフを奪われリンゴを握りつぶした手でぶっ飛ばされた。


 いや、ちょっとまて……食い物を粗末にしたのは、お前だろう……俺は食べる気マンマンだったっての……。


「ったく……刃物持ち込むの禁止だっての」


 何やら風紀委員みたいなことを言うまつり。


 俺はゆらりと立ち上がり、


「お前……リンゴをムダにして――」


 と言い掛けて、


「何か文句あるかぁー!」


 どごーん!


 飛んだ。


「スタッフが美味しくいただきましたぁああ!」


 がしゃーん!


 机に突っ込んだ。やれやれ……三連敗だぜ。


 と、そこへ、


「戸部くん……もうやめなよ」


 みどりが来た。そして弱気なことを言っている。


「そうだ、みどり。まつりの弱点って知らないか?」


「聴こえてんだよ、阿呆がぁー!」


 ばこーん。


「ぎゃあああ!」


 またぶっ飛ばされた。


 ドサッ。


 床に落ちたが、立ち上がる。


「ふっ、効かぬっ!」


 ふらつきながら、俺は言った。


「何なの……もう……」


 言って、教室の外へと出て行こうとする。


「おーい! どこ行くんだー!」


 しかし返事が無い。


 教室の外に出て、姿が見えなくなった。


「まつりー! トイレかぁー!」


 すると、ダダダダダっと戻ってきて、


「死ねぇえええ!」


 ずごーん!


「ポヴッ」


 謎の奇声を上げて、俺は吹っ飛んだ。


「トイレ行って何が悪いかぁ!」


 まつりは叫び、そして、去った。


 くっ……打撃に耐性がついて意識が途切れない分、痛みが苦痛だぜ……。


「大丈夫? 戸部くん」


 みどりが心配してきた。


「まあな。死んではいないぞ」


「それは見ればわかるよ。ピクピクしてるもん。陸に上がった金魚みたいに」


 ピチピチ跳ねてない金魚は瀕死じゃないっすか。


「まぁ、大丈夫だ」


 俺は言って、けろっとして立ち上がった。どういう仕組みか不明だが、回復スピードも上がってきたぜ。この町の風が、そうさせるのだろうか。なんてな。


「それにしても丈夫だよね。あれだけまつりちゃんに殴られてるのに、骨も折れてないみたいだし……」


「そうさ。丈夫さだけは取り得なんだ。骨密度とかは色んな世界最高を集めている酔狂な雑誌に載るくらいかもしれんぜ」


 根拠は無いし、そんなデータは無いが。


「というか、実は俺の大半がカルシウムで構成されている可能性もある」


「戸部くんは、そういうのにツッコミを入れて欲しいわけ?」


「欲を言えば、そうだ」


 すると……


「サンゴ礁かよっ」


 ぽすん。手の甲で叩かれた。


 ツッコミだ。感動のみどりからの初ツッコミだぁ!


「っていうか珊瑚礁ってそうなの? カルシウムなの?」


「たぶん」


 そうなのか。


「真珠かよっ」ぽすん。


「真珠も?」


「たぶん」


 へぇ……。


「貝殻とかかよっ」ぽすん。


「貝殻もそうなのか?」


「たぶん」


「なんか、だいたい海のものだな」


「じゃあ……牛乳かよ」ぽすん。


「おお、牛乳はカルシウム豊富だと評判だものな」


 と、その時――


「みどりに何やらせてんだぁー!」


 ばこーん!


 俺の体は床を離れ、宙を舞った。


 そして、プロペラのごとく回転し、びたーんと仰向けに床に落ちる。


 どしゃっと。


「でも、牛乳が必ずしも体に良いとは限らないんですよ。……ってちょっと、戸部くん、聞いてる?」


「おらぁ、みどりが聞けって言ってんだろ!」


 言って、倒れた俺の脇腹を蹴ったまつり。


「はぼぉ!」


 なにこの不良。なおも蹴りは止まない。


 ていうか、いたい、いたいっ、超痛いんですけど!


 しかもトイレ行った上履きだろ、それ。踏むようにして蹴るなよ! きたないよ!


「いい、戸部くん。大事なのは、牛乳じゃなくて、牛乳を含めたバランスの良い食事と、運動とか、あと日光とかなんだけど……」


「しねっ、しねっ」ばこん、ばこん。


「……こまかく言えばそれはビタミン…………吸収率が……マグネシウム……体質的に適合するかどうか……」


 途切れ途切れに聴こえるみどりの声。


 ばこん、ばこん。その間、ずっと蹴られてる俺。


「……そもそも骨を強くするためにはカルシウムだけではどうにもならないっていうか、本当のこと言うと牛乳にそこまで多くカルシウム入ってない……って戸部くん……?」


「ぐはぁ……げふぅ……」


「ちょ、ちょっと、まつりちゃん、やりすぎだって。やりすぎ……見せられないことになってるぅ!」


「いましね、すぐしねぇ!」


 びし、ばし。


 連発しちゃいけない言葉を発しながら、俺を蹴飛ばし続けるまつり。


「まつりちゃんやめて、やめてってば!」


 やばいー。しぬー……。


 俺の視界は、暗転した。



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