フェスタ_利奈っち-2
学校に来た。
来る途中の急な坂で、利奈はこう言った。
「学校ついたら、さっさと空き教室を探そう」
当然、俺は、そんなもんあるわけねぇだろと言って、一瞬口論になりかけたが、
「行ってみればわかるっしょ」
という利奈の言葉に頷いて、早歩きで坂を上ってきたのだった。
そして、学校に着いて、色々と教室をめぐってみたところ、やはりと言うべきか、空いている教室など無かった。
利奈は、次々と扉を開けては、その教室が空室でないという事実を突きつけられていた。
「ここも?」
「ここも?」
「ここもっ?」
「ここまで……っ?」
「がーん。空いてる教室が、無い……?」
廊下に膝と手をついていた。
「お前、バカだろ」
「あぁん! 達矢の言った通りになったぁ」
嘆いていた。
「仕方ないな……」
何にもできないのは可哀想だし、何とか足掻いてみよう。
こういう場合は、まずは権力を使う。
身近で強力な権力といえば、生徒会長!
「志夏に、頼みに行こう」
「会長さんに?」
「ああ」
と、歩き出そうとした時だった!
「私に何か用かしら。たっちゃん!」
風のように、どこからか志夏が出現した。
「お、おう……志夏……」
「何か、困ってるみたいね」
「よくわかったな。困ってるって」
「神だから」
「そうですか」
「で、何?」
「ん、あぁ、それは、えっとだな、俺じゃなくて利奈がな」
「宮島さん? どうしたの? そんなところで落胆ポーズして……」
志夏の問いに、利奈が以下のように悲痛に叫んで答えた。
「教室が、教室が無いんです!」
「え? あっ……もしかして……そういうこと?」
「志夏、そういうことってのは、どういうことだと思ってるんだ?」
俺が訊くと、
「だから、ほら、言いにくいけど、宮島さんって、図書館登校してるでしょ。だからほら、いざ学校に来てみたら教室に居場所がなくて……」
「なるほど、『ここはわたしの居場所じゃない!』ってわめいてる……って感じか?」
「そう、そんな感じ」
「ちがっ……」
「いいのよ、否定しなくて。辛いわよね……かわいそうに」
「なっ!」
「そうだったのか……そんな辛い思いをしているとは思わず、普通に接しちゃってごめんな、利奈っち」
俺はそう言って、あわれみを見せた。
「もっと腫れ物に触るように扱わなくちゃいけなかったですか……」
本子さんまでそう言って、可哀想なものを見るような目を向けている。
「何でそういう話になっちゃってんのよ……ちがうっしょ!」
「強がっちゃって」志夏。
「悲しいな」俺。
「人間って、悲しい生き物なんですよ、達矢さん」本子さん。
「うぅ……君たち、ひどくないかな……」
「冗談よ。半分は」
と志夏。半分本気なんだ。
俺は全部冗談のつもりだったんだけどな。
「そうだ。さあ、利奈っち。さっさと用件を伝えろ。志夏だって忙しいんだぞ」
「まぁそうね。どうしたの、宮島さん」
「実は、こう……文化的な展示をしたいんですけど、空いてる教室がなくて……」
「そんなの自業自得じゃないの」
そう、志夏の言う通り。場所なんて何とかなるわ、とか思ってた利奈っちが悪い。
「そうなんですけど……何とかなりませんか」
「何とかなるけど、条件があるわ」
「じょ、条件……?」
「キスの天婦羅とかなら買ってくるぞ。志夏は好きだろ? キス天」
「たっちゃん、今ちょっとマジメな話してるんだから、黙って」
「あ、はい……すみません」
「やーい、おーこらーれたー」
小学生か。この幽霊め。
「でね、宮島さんにお願いがあるの」
「な、何かな」
「いつか、ずっと先、遥か未来になっても良いから……この街に、神社を建てて」
「神社?」
「そう、神様を、祀る場所。神様が、帰って眠ることのできる、家を」
「そんなの、約束できない……」
「じゃあ、宮島さんのために展示場所を確保してあげるなんてできないわね」
志夏はぷいっと顔をそむけてみせた。
「ちょ、ちょっと待って! それ困る!」
「図書館にでも展示しとけばいいじゃないの」
「あんなとこ誰も来ないもん! 寂しいっしょ! そんなの!」
「じゃあ、神社を建てて」
「そんなの、わたしには――」
「だから、言ってるでしょ。何年かかっても、何百年かかっても、何千年かかっても、何億年かかってもいいからって」
「そっ……でも、そんな簡単に約束して、できなかった時は……」
「祟るけどね。神だから」
「ほほう、祟るとは……本子と気が合いそうですねぇ」
「ふふふ、そうね」
幽霊と自称神さまは仲良しそうに笑いあった。
「うぅ……わかった……。神社ね……つくる。でも、すっごく時間かかるかもしれないけど……」
「いいのよ。いつかで良いの。約束してくれれば」
「あ、うん。約束……」
こうして、誓いが生まれた。
文化祭の展示場所を確保することを交換条件に、宮島家は町に神社を建てると約束したのだ。
「というわけで、たった今、空き教室三つ確保したから、好きに使うと良いわ」
「ありがとう、会長さん」
「いいわ。そのかわり、約束、ね」
「う、うん」
「楽しみにしてるからね」
「が、がんばります!」
こうして、宮島利奈は、何とか展示場所を確保したのであった。




