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フェスタ_利奈っち-1

「さぁ、誰を手伝うの? たっちゃん!」


「宮島利奈ってのはどうだろう」


 俺はそう言った。


「名誉図書委員の宮島さんね」


「ん? 図書室なんて、この学校にあったっけ?」


「学校には無いわよ。でも、図書館があるのよ。この街のどこかに」


「あぁ、この街に来る前に、多少調べて来たからわかるぞ。図書館があるってこと自体はな」


「そんなもの調べて、どうしようってのよ。こう言ったら失礼だけど、読書なんてするような感じじゃないわよ。たっちゃん」


「何を言っているんだ。図書館が読書するところ? バカ言っちゃいけねぇ」


「じゃあ図書館の場所なんて調べてきてどうするのよ」


「サボリスポットの有力候補としてリストアップしていたことは言うまでもない」


「不良ねぇ」


「へへ、まぁな」


「でも……そっか。図書館でサボるっていうのなら……うん、宮島さんとは気が合うかもね」


「どういう意味だ?」


「あぁ、でもどうかしら。今の宮島さんは、宮島さんだけの宮島さんじゃないからなぁ」


「志夏って、意味わかんないこと言うの好きだな」


「神だから」


「神……ねぇ……」


「ま、とにかく宮島さんなら図書館に居ると思うから、行ってみたら?」


「あぁ、わかった」


「いってらっしゃーい」


 俺は生徒会室を後にした。


 図書館へ向かう。


 さっきも志夏に言ったように、家で調べて来たからな。どこらへんにあるかくらい理解してる。すぐに外観も内装すらも思い浮かんだくらいだ。





 図書館の前に立つ。


 あの自動ドアをいくつか抜ければ、すぐに図書館があって、左腕に腕章をつけた女の子が、椅子に座って本に囲まれているという光景が待っているはずだ。


 そして、自動ドアを抜けて図書館に入ってみると、想像していた光景とは、少し違った。


「…………」


 確かに、左腕に『図書委員』と書かれた腕章をつけている宮島利奈がそこに居たが、椅子に座ってもいなければ、本に囲まれているというわけでもなかった。


 利奈っちは、古風な泥棒のように、風呂敷を背負っていた……。


 何、この、変な子。


「ど、どろぼう……?」


「へ?」


「さては、貴様、伝説の女泥棒だな!? 他に二人くらい仲間が潜んでいるんだろう! そしてカードか何かを投げてくるという……」


「マンガよみすぎだから。君さ、よくバカだって言われるっしょ」


「何だと……俺のどこがバカだ」


「バカな雰囲気でてるし」


 出会ったばかりだというのに失礼な子だな。いやしかし、まぁいいか。そんなことよりも、この子が何をしてるんだか気になる。


「で、何してんだ、お前」


「えっと……達矢、だっけ?」


「ああ、戸部達矢だ」


「利奈っちです」


「知ってるが……」


「図書館に何か用?」


 こっちが質問していたはずなんだけども。とはいえ、もう何してたかなんて、どうだっていいか。


「いや、図書館に用事なんてないんだがな……利奈っちのこと手伝おうと思って」


「え? 何で? まつりにでも命令されたの?」


「いや、まつりじゃなくて、志夏だな。志夏に言われて」


「会長さんに言われた……ってことは、不可避の命令なのね……っ」


「よくわからんが、そういうもんなのか?」


「逆らってはいけない権力というものがあるっしょ」


「じゃあ、利奈っちは、もしや、まつりとかにも逆らえないのか?」


「そんなわけないっしょ! 逆らうとかじゃなくて、そもそもまつりとわたしは対等なのよ!」


「へぇ……」


「あれ、関心なさそうね」


「まぁな。別にまつりのことなんてどうだっていい。今は、俺は利奈っちのことしか眼中にないんだぜ」


 利奈っちの手伝いをすると決めたからな。


「んなっ――」


「ん? どうかしたか?」


 どうしてか、利奈は顔を赤くしていて、


「わっ……わたしのこと……好きなの?」


 いきなり何言ってんだこいつ。


「俺、一言でもそんなこと言ったか?」


「え……わたしの聞き間違い……?」


 何か、そういうようなことを言ったのかもしれんが、そういう意味で言ったんじゃないので、言わなかったのと一緒だろう、と思う。


 と、そんな会話を交わしていると、


「待った待ったぁあ!」


 どこからか声がした。


「むむむっ、この声は、本子ちゃん!」


「本子! 見・参!」


「…………」


 唖然とした。


 あれは、どう見ても幽霊。


 何で幽霊が利奈っちの周囲をフワフワ浮いてんだ?


 しかも、まるで自己を主張したがるように、目立つように飛んでるぞ……。


「かわいいっしょ?」


 利奈っちは、幽霊を指差して、自慢するように言った。


 いや、えっと。


 なんて返したら良いんだろうか……。


 言葉に困っていると、


「本子ちゃん。達矢くんが本子のこと可愛くないってよ!」


 利奈が言った。


「ホントですか! (たた)りますよ!」


 何なの、この変な子。


 幽霊の方も、人間の方も、何かおかしい。


「何なんだ一体……」


「あっ、こんなことしてる場合じゃなかった! わたしは忙しいんだから、達矢なんかに構ってる暇は無いわっ」


「忙しい? なら手伝うぞ?」


 言うと、まるで本の幽霊の本子さんは、俺に対抗するかのように、


「本子も手伝います。達矢さんだけに任せられません」


「でも、余計なことして壊されても嫌だし……」


「そんなこといわずに!」


 と、本子さん。


「そうだぞ、利奈の手伝いをしなかったら、俺は何のために生まれて来たのか、その理由がわからなくなるくらいのレベルだ。だから俺は手伝わなくてはならない」


「えっと……君の人生、それで良いの?」


「どういう意味だ?」


「いや、まぁ……いいけど……」


「それで、利奈っちは何をしようとしているんだ?」


 訊くと、利奈は背負っていた風呂敷を背中から外し、近くにあった図書館の机の上に中身を広げた。そして自慢げな顔である。


「これは……巻物?」


 大量の古風な巻物がそこにあった。


「そう、まずこれが一つ」


「てことは、あれか。博物館的な?」


「そう。博物館的な」


 なにやら、古めかしい文書の展示がしたいらしい。


 それの何が面白いのか、俺にとってはちょっとした疑問ではあるが、まさに文化祭っぽいと言えば、限りなく文化祭っぽくもある。


「あとね――」


「ん? 他にも何かやる気なのか?」


「うん。これは単なる貴重書物の展覧だけどね、これとは別に街の歴史の研究もやりたいの」


「そうっすか……」


「あとね――」


「まだあんの!?」


「武器展覧」


「武器って何すか……」


「文化っぽいっしょ!」


「そ、そうだな……」


「あと――」


「なおもまだ? そんなにいっぱい、一日で終わるのか?」


 しかし利奈は、俺の言葉など耳に入っていないようで、続ける。


「パパの作ったロケットを展示するの」


「ロケットって……すさまじいパパを持ってるんだな……」


「すごいっしょ。ロケットとか、いかにもお祭りっぽいっしょ!」


「い、言われてみれば、そう思うが……」


「まぁ、こんくらいかな」


「いや、お前……こんくらいかなって……結構大変なんじゃないか?」


「どこが?」


「利奈っちの言ってるのを総合するとだな……どんな武器かは知らんが、武器を展示する。貴重な書物を展示する。街の歴史を展示する」


「うん」


 利奈の相槌。


「そして、どんな大きさか知らないが、利奈パパのロケットを展示する」


「うん」


「……明らかに、キャパシティオーバーだろ。だいたい、どこに展示するんだ? 場所は押さえてあるのか?」


「まだ」


「計画性なさすぎだろ」


「え、そうかな」


「そうだろ……」


「だって、場所なんて、どうにかなるんじゃないかな」


「どうにかなるとしても、そんなに多くのもの展示したとして、誰がその展示物を運ぶんだよ」


「皆に手伝ってもらおうと思って」


「皆ってのは、誰だ?」


「みどりとか、まつりとか、カオリとか」


「全員フェスティバル実行委員じゃねぇか」


「言われてみれば、そうだね……」


 これは、言っておいてやらねばなるまい。


 そいつらの助けを得るのは無理であると。


 高確率で、無理であると。


「たとえば、みどり。みどりは、実行委員でもあるし、クラスでも中心人物だ。三年二組は、みどりを中心に回っていると言っても過言ではない」


 利奈は、眉間にしわをよせて首を傾げ、考え込み、頷いた。


「次に、まつり。あいつは、校内で知らないものが居ない程の凶暴な女で、しかも学校の風紀を乱す奴には一切の容赦はしない。あいつ自身が一番乱れてるような気もするがそれはとりあえず置いておいて、だ」


 利奈は相槌をうつ。


「そんな奴が、祭りでハメを外す連中を取り締まらないわけがないだろう。校内を徘徊して不良どもとドンパチやるに決まってる」


 たしかに、とでも言うように、口をぱかりと開けた。


「あと、カオリ……つまり穂高緒里絵だが、あいつに手伝ってもらったとして、戦力になるか? むしろ大事な宝とか壊されるのがオチだぞ」


 利奈は二度ほど頷いた後、また考え込むように俯いたが、数秒して顔を上げ、


「……達矢って、この街に来たばっかじゃなかったっけ? 何でそんなに詳しいのよ」


「何となく、そんな気がするだけだ……何故だかわからんが……」


「でも……そっか、言われてみれば、わたしの友達の手伝いは期待できないかも」


「そうだぞ。他の誰かも忙しいに決まっている。一日で文化祭の準備をするわけだからな。ハードワークで苦しむ人々ばかりだと思うぜ」


「言われてみれば、文化祭っていうと、街全体が徹夜みたいな感じになるっぽい気がするわね……」


「ようやく気付いてくれたか。ぎりぎり理解力のある子で良かったぜ」


「でも、武器展覧したいし、貴重書物も、街の歴史も、パパロケッツも展示したい!」


 前言撤回。こいつは思ったより強情だ。


「乱立しすぎだろ、どう考えても。少しは現実的になるんだ、利奈っち」


「だって……」


「絞るんだ。絞ってこそ、良いものができるだろう。雑巾だって、絞られているからこそ雑巾として親しまれているんだぞ!」


 俺はカッコつけたポーズと共に言った。


 が、


「雑巾のたとえは、よくわからない」


 一蹴された。


「いや、まぁ……それは言った俺自身もよくわからない……が、とにかく、だ。今のまま全部やろうとした利奈っちが、近い未来に『あーん、終わらないーっ』って言って泣きそうになってる未来が俺には見える!」


 そんなアホな子だとは思いたくないが、そんな予感がするのである。


「そして、最後には現実逃避して、読書に走るんだ」


 と、その時――


「はいはいっ。本子は占いがしたいですっ!」


 本子ちゃんがそう言った。


「本子ちゃん、迷走させようとすんな……」


「どうすれば……どうすればいいの!?」


 利奈は上ずった声でアイデアを求めてきたが、それは先刻から言っているように、


「だから、どれか一つに絞ってやらないと、絶対に終わらない。何一つ完成しないと俺は断言できる。俺の予感がそう告げているのだ!」


「君の予感は信用できるの?」


「さぁな……」


 まぁ実績は特に無い。


「本子の予感ではですね、本子と一緒に占い部屋をやるのが良い結果になると出てます」


「うるさいっ、幽霊っ!」と俺は言った。


「なっ……」


「こ、こら、達矢……幽霊を刺激するなよぅ。こわいよぅ」


「……達矢さん。祟りますよ?」


「祟りがこわくて、利奈っちの手伝いなどできるかっ!」


「ちょっと君それどういう意味かなぁ!」


「え、いや、特に意味は……」


「今の言い方じゃあ、まるでわたし自体が悪霊とか悪霊よりもっと悪い存在みたいっしょ!」


 まぁ、学校に行かないで図書館登校してるなんて、学生的には幽霊みたいなもんだろ。ほら、部活動に顔出さない子を幽霊部員とかって言うしな。と、思ったけれど、これは口に出さないでいてあげよう。繊細な子だったらキズついちゃうからな。


「とにかく! 全部やるのっ! やりたいこと全部やるのよっ! できるように頑張るのが人間ってもんっしょ!」


「本子は幽霊ですよ」


「いや、あの、知ってるから!」


 利奈は幽霊にツッコミを入れた。何をコントみたいなことやっとるんだろう、人間と幽霊で。


 俺はフゥを呆れを混ぜた溜息を吐くしかない。言っても聞かないなら説得は諦めよう。こうなったら乗りかかった舟である。


「で、まずは何するんだ? 利奈っち」


 俺が訊くと、利奈は意外そうな顔で、


「手伝ってくれるの?」


「さっきからそう言ってるだろうが。何を聞いてんだお前は」


「そっか、ありがと」


 利奈は笑ってそう言った。


「本子も手伝います! 占いがやりたいですけど!」


「本子ちゃんの占いって当たるの?」


「当たるも八卦、当たらぬも八卦。場合によっては、占った結果の方に現実を合わせてしまえば良いのです」


「すげえアブナイ思考してんな……」


「幽霊ですからっ!」


「でも、本子ちゃんは良い幽霊だよ。可愛いし」


「可愛いか可愛くないかが善悪の基準なのか?」


「いや、なんかこう、雰囲気がね、やさしい」


「ほらっ! わかる人にはわかるもんなんですよ!」


「ねー」「ねー」

 笑いあっている。仲良しだった。


「さて、それじゃあ……これをどこに運べば良い?」


 俺は机に置かれていた大量の巻物を手に取った。


「学校!」


 いや、だから、学校のどこだ……。




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