フェスタ_紗夜子-4
夜になった。
紗夜子は学校に泊まるらしい。
まぁ、文化祭直前の夜だからな。
学校に泊まるなんてのは、よくある話で……。
紗夜子は夜を徹してパスタソース作りに興じるつもりらしい。
さっきからイタリアンな良い匂いがしていて、俺は腹を減らしていた。
「たっちー。お腹減ってない?」
キッチンから紗夜子が出てきた。
「素晴らしいタイミングだな、紗夜子。まさに絶妙」
「宇宙からの電波が、たっちーの空腹を告げたの」
「そうか、宇宙電波には感謝しないとな」
「ふふっ」
笑っていた。
そして、
「これ、味見してみて」
パスタが置かれた。
見るからに美味しそうである。
「おう」
食べる。
「うまぁああああああああ!」
夜の学校に、そんな声が響いた。
「ハンガリー……アーンド、イターリア☆!」
キッチンから、そんな声が漏れ聞こえてきた。
「さぁ、仕上げだ!」
俺はといえば、まどろみの中でそんな言葉を耳にしたのだった。
時間を確認してみる。
どうやら早朝のようだ。
ということは、今日がフェスティバルの本番ということになる。
って、今思い出したんだが、このままじゃ俺、メイド服で接客することになるじゃんか。
やばい。そんな醜態を衆目に晒すわけにはいかない。いかないが、俺はこの街に来たばかりの身。この街に身代わりを頼める知り合いなど居ないのだ!
と、その時――!
ガララッと音がして、理科室の扉が開いた。
「マーナちゃーーーーん!」
穂高緒里絵。
またこいつか……。
そして俺は閃いた。
この子に、メイドになってもらえば良いじゃないか!
「あれ? たつにゃん。マナちゃんは?」
「紗夜子はまだ忙しいみたいだ。そんなことよりおりえ」
「何だにゃん?」
「メイドにならないか?」
「お断りだにゃん」
即答だった。
「よく考えろ! メイドになればお前みたいなドジっ娘は大人気だぞ」
「失礼だにゃん」
「あぁ、すまん……だが、頼む! メイド服を着てくれ!」
「セクハラ?」
「そんなつもりは毛頭ない!」
と、そんなタイミングで、
「ふぅ、終わったぁ」
紗夜子が、キッチンから出てきた。
終わった……ということは、どうやら、仕込みが完了したらしい。
「紗夜子、きいてくれ。おりえがメイドになってくれないんだ」
「そうなの? カオリのためのメイド装備も作ってあるのに……」
「それどころじゃないにゃん!」
「何だよまたか。今度は何だ」
「どうしたの?」と紗夜子。
「実は……フェスタで使う風船の飾りを会長さんに頼まれたのを忘れてて……」
「忘れてただぁ? じゃあお前が悪いんじゃねぇか」
「ちがうにゃん!」
「いや、何が違うんだよ……」
「マナちゃぁん、助けてにゃん……」
この娘……もしかしてかなりダメな子なんじゃないか……?
「はぁ、仕方ないなぁ」
優しい紗夜子はそう言った。
「これっきりだからね。わたしだって、やりたいことあるんだから、もうこれっきり手伝わないからね」
「うむにゅん……わかったにゃー……」
おりえは俯きながら呟いた。
ごめん……とかは言わないんだな。