フェスタ_紗夜子-3
紗夜子を起こす時間が来た。
「紗夜子。時間だぞ」
「んっ……あ……おはよ」
目覚めた。
「うぅっ……あぁ……」
と、深呼吸を伴った欠伸一つ。
「そういや紗夜子、おりえのオブジェは完成したのか?」
「うん」
「そうか……」
「そんなことより……やらなきゃ……」
「やる? 何を?」
「パスタソース、作っておかなきゃ」
「あぁ、それで三時間で起こしてくれって言ってたのか」
「うん。作らないと間に合わないから」
「パスタってのは、そんなに大変なものか?」
「あたりまえでしょ! パスタなめんな!」
なんか、おこられた……。
「すまん……」
とりあえず謝る。
「よっし、気合入れなきゃ!」
なんか、紗夜子らしくないぞ。
このやる気の満ち方は。
紗夜子といえば、もっと不健康で、バカで、目が死んでる感じのダメな子なはず――
「たっちー……なんか失礼なこと考えてない?」
「見破られただと?」
「どうせ、わたしが元気すぎておかしいとか、そういうことでしょ?」
「な、何故わかるんだ?」
まさかこいつ……エスパー?
「宇宙の大いなる意思が、そう言ってるような気がするの」
さてはこいつ……おかしな子だな……。
「そうっすか……」
そんな言葉しか出ない。
「でもね、たっちーの目は正しいかもしんない」
「どういうことだ」
「元気の出るおまじないを発見したの」
「何だそれ」
「見てて」
紗夜子は言うと、すくっと立ち上がった。
そして、風呂あがりに牛乳を飲む時のごとく腰に左手を当てつつ、
「ハンガリー……アーンド……」
と言いながらゆっくりと右腕を天井に伸ばし、
次にピースサインを作りながら、その右手を眼前に素早く持ってきて、そして言うのだ。
「イターリアー☆!」
えっと……何それ……。
高校生女子がプリクラに写る時にキメるポーズみたいだな……。
「ハンガリーとイタリアがどうかしたのか?」
「右腕の柄が、そういう感じでしょ」
見ると、確かに……国旗みたいに赤、白、緑が並んでるな……。
「何となく元気が出る感じしない?」
「すまん……なんというか、共感できん」
変な子だな、と心底思った。