上井草まつりの章_3-1
朝、俺は寮の、自分の部屋に居た。自分の部屋で、あるモノを作っていた。
「さて、それでは行くか!」
俺は、早速行動に移すことにした。何をするかと言えば……簡単に言えば卑怯なことである。
昨日正面から向かって行って悟ったよ。
「あれはバケモノだ、勝てるわけない」
スキのない構え。一つ一つの打撃の重さ。急所を的確に狙う動作の正確さ。何よりも、速さ。一万回やり合っても勝てるわけがない。ライオンに捕食されるウサギみたいな感じ。
しかし、俺はウサギではない。
知恵を巡らせてライオンを狩ることさえできる人間なのだ。
既に上井草まつりが不器用であるという情報も入手済み。
となれば、彼女を負かすためには女の子らしい繊細で細かな勝負を挑むしかない。
そして、今、準備が完了した。
「ふふふ……完璧だぜ……」
俺はあるものを手に取り、不敵に笑った。
朝、ホームルーム前。
「まつり」
俺は、上井草まつりに話しかけた。
「あぁ? 何だ、負け犬か」
「ふ、まだ一敗しただけだ。シーズンは長いんだよ。プロ野球だって140試合以上あるだろう。その初戦を落としたチームが優勝したケースがいくつあるか」
まぁ、いっぱいあるだろう。
「要するに、何の用なわけ?」
「昨日は種目が悪かった」
「はぁ?」
そう、殴り合いで勝ち目は無いのだ。
「じゃあ何させようっての?」
そして俺は、今朝から準備していたブツを取り出す。
「あやとりだ」
「あやとり……」
「英語で言うと、キャッツクレイドル!」
「まぁ、良いけど、どうやって勝負するのよ」
その、まつりの言葉に、はっとした。
あやとりのヒモを二人分作ることに夢中で勝負の方法を考えていなかった。
「…………じゃあ、先に何か複雑なのを作った方が勝ち! お前が負けたらみどりにちょっかいを出さない、良いな?」
まつりは不器用とのことだからな。
「はぁ」
と、まつりは気の無い返事をしたところで、俺はスタートの合図。
「よーいドン!」
さて、どうする、確か、色々あったよな。
ハシゴとか……ってやり方知らないんだけど、どうしよう……。
「はい、東京タワー」とまつり。
「はやっ! そしてできてるっ!」
俺は、まだ指に紐を掛けたばかりなのに!
ていうか、今思い出したけど、俺もかなり不器用だった!
「そんなバカな! 貴様、不器用なはずでは!」
「はぁ?」
「そ、そうか、友達がいなくて、一人遊びには長けているということかっ!」
「何が言いたいんだキミは!」
俺は、まつりのあやとり作品に二度ほどチョップをかましながら、
「こんなんナシだ。ちょいさー、ちょいさー」
「何がしたいんだお前はぁー!」
ばっこーん!
そして、顔面を殴られ、俺の体は宙を舞った。
後、床にうつ伏せに倒れる。だが、殴られるのはもう二度目。俺は打たれ強さには自信があるんだ。簡単には壊れない骨格を持った奇跡の男でもある。一度俺を気絶させた攻撃には耐性がつくのだ!
ゆえに、もう上井草まつりの攻撃で気絶することはない。
より苦しいことになりかねない気もするが。
とにかく、そう、俺の肉体は主人公でありながら脇役じみているというわけだ!
不死身の俺は立ち上がって言う。
「あやとりでの勝負のはずが、貴様は俺を殴った。反則負けで良いな?」
「良いわけあるかぁー!」
バコン!
蹴り飛ばされた。痛かった。