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フェスタ_紗夜子-1

「さぁ、誰を手伝うの? たっちゃん!」


「紗夜子にするか」


 俺はそう言った。


「浜中さんか。それじゃ、居る場所はわかってるわよね」


「え……。俺は紗夜子とは今日が初対面だぞ。そんなヤツの居る場所が何でわかるわけあるんだよ」


「じゃあ今、たっちゃんの頭に思い浮かんだ場所を言ってみてよ」


「……理科室?」


「あってるもの」


「何でだ!?」


 不思議すぎる。何で俺は会ったばかりの人間の居場所がわかったんだ……?


 もしやそこには、運命的な何かがあるとでも言うのか!


「ま、とりあえず理科室に行ってみたら?」


「ああ、そうだな」


「いってらっしゃい」


 俺は生徒会室を後にした。





 で、理科室前に立ったところで、


 ガラッと扉が開き、浜中紗夜子が姿を現した。


 制服にエプロン姿の。


 そして、何かいい匂いする。香ばしくて、トマトっぽい感じだ。


 イタリア料理みたいな。


「よお、紗夜子」


「たっちー。何してるの、こんな所で」


「いや、あれだ、お前のこと手伝おうと思ってな」


「お手伝い……かぁ……。何かあるかな、手伝うこと」


「ふむ、とりあえず聞きたいのは、紗夜子は今、何してんだ?」


「仕込み」


「仕込み?」


「パスタの」


「パスタ……?」


「食べる?」


「たべます」


「どうぞ」


 俺は理科室内に導かれ、足を踏み入れた。


「何これ」


 到底理科室とは思えない部屋が、そこにはあった。


 理科室のはずのその場所は、トマトと香草を中心としたイタリアンな匂いに包まれていて、その上、床には緑のカーペット。窓には赤のカーテン。


 白いクロスが掛けられたテーブルがいくつも並んでいた。


 微妙に落ち着けない内装のオシャレなレストラン……みたいな。


 ともかく理科室にあるまじき光景だった。


「座って」


「お、おう……」


 言われるがまま、席に着く。


 俺を席に案内した紗夜子は、店の奥へと引っ込んだ。


 数十秒の間、店の内装やらを見たり、並んだ調味料の小瓶をいじくったりしながら待っていると、紗夜子の足音が近付いてきた。


「メニューは何に致しますか、ご主人様!」


「えっ、この店そういうとこなの?」


 言って、振り返ると、


「そういうところって?」


 メイドが居た。


 何この展開……。


 何故紗夜子が細身のメイドさんに……。


「…………」


 じっと見つめてみる。


 やばぁい……なにこれぇ……。


 ちょうかわいい。


「ご注文をお願いします。ご主人様!」


 達矢、しあわせ。


「どうかしましたか、ご主人様……?」


「好きです!」


「そのようなメニューはございません!」


「すみません!」


「では、トマトっぽいやつ持って来ますね、ご主人様」


「お、おう……紗夜子たんのおまかせコースで頼む」


「かしこまりました! ご主人様!」


 左手の親指を立てた紗夜子は言って、キッチンへと消えた。


 キッチンっていうか、理科準備室だけどな。


 いやしかし、ともかく……あれはこれはそれだろうか、もしやアツアツのパスタをフーフーして冷ましてくれる的なイベントに胸を高鳴らせまくりんぐ!


 多少日本語が崩壊気味だが、そんなことは気にしていられない。


 落ち着け。


 落ち着――


 いや、落ち着いてなどいられるか!


 人はいつか、落ち着けない瞬間に出会う!


 それが今!


 ナウ!


 メイドさん大好き!


 そして――!


「おまたせしましたー」


 キッチンから戻ってきたようだ!


「…………」


 どきどき……。


 俺は机に視線を固定して平静を装う。


 少しでも興奮を悟らせないためであることは言うまでもナッシング。


 そして、コトリと目の前にパスタが置かれた。


「冷たいカッペリーニ丸ごとトマト入り」


 おい……冷たいパスタじゃフーフーできないじゃないか。


 しかも、紗夜子の服装を見ると、


「えぇー……」


 制服姿に戻ってるぅ……。


「紗夜子……何故……何故メイドをやめた……?」


 俺は、小さく低い声で言った。


「あれは、ウェイトレスさん用のなの。だから試しに着てみただけ。可愛かった?」


「ずっと着てそばに居て欲しかった」


「恥ずかしいからやだ」


「そう言わずに!」


「無理。わたし似合わない。胸ないし」


「それがそれでそれはそれで最高だそれ!」


 ていうか似合ってた!


 すごい似合ってたから!


「……何語?」


「あ、いやすまん……取り乱した……」


「わたしの幼馴染にもね、どこの言葉かわかんない言葉使う人居るよ。いい匂いがしそうな名前の子なんだけどね」


「そうか……。楽しそうな幼馴染が居るんだな」


「うん」


 紗夜子はこくりと頷いた。


「他にもね、砂漠に植物が生えてる感じの名前の幼馴染とか、海っぽい名前の幼馴染とか、皆でわいわいしてそうな楽しそうな名前の幼馴染とか」


 何やら色々居るらしい。


「って、あぁそんなことよりも、パスタ食べてパスタ。冷めちゃう」


「既に冷めてんだが」


「あ、そっか」


 へらへらしながら頭をかいていた。


 冷たいパスタだと言って出したのは紗夜子だろうに。


「まぁいい。どれ……」


 俺は、パスタを口にした。


「うまっ」


 思わずそんな声が出た。


 なんという美味。


「よかった」


「何故こんな美味いもんが存在するんだ世の中ってのはよ!」


「てへへー。大袈裟だよー。そんなー」


 照れていた。こころなしか違和感。なんだか、もっと無表情で無感動なヤツだった気がするのだが、こんなに笑う子だっただろうか。


 いや、今日はじめて会ったばかりのはずなのに、こんなことを感じるのもおかしい気もするが、何となく、何となくもっと、この冷たいパスタのようにクールな子だった気がしたのだ。


 って、そんなことは、どうでもいい。とにかく今は、パスタが美味い!


「うまい、うまいぞぅ!」


 俺が、がつがつパスタを食べていると、


「あ、そうだ。準備しなきゃっ」


 不意に紗夜子は言って、またキッチンへと消えた。


 もしや……またメイドになってくれるのでは……。


 とか思ったのだが、出てきた紗夜子は制服姿で、残念。


 紗夜子は何やら木製の看板を持って廊下に出て、それを置いた。


 看板には『パスタ屋★はまなか』と書かれていた。


 どうやら、パスタを出すお店をやるらしい。


 そりゃな。


 こんなに美味しいものを出す店を文化祭に参加させないテはない。


 ましてメイドが接客するとなれば尚更。


 と、その時、俺は気づいた。


 ウェイトレスさん用の服があって、それを紗夜子が着ないということは、紗夜子以外の誰かがその服を着ることになるんだよな。


 つまり……つまりだ、紗夜子の店を手伝う誰かが、あのメイド服を着用し接客するということに違いない。


 それは……それは素晴らしい!


 俺は、パスタを完食し、確かめるべく訊いた!


「紗夜子。誰が手伝うんだ?」


「はい?」


「ウェイトレスさんとか、雇うんだろ」


「あぁ……ええと……未定」


「なっ……じゃあ、やっぱり紗夜子があの服を着るのか?」


「やだよ」


「じゃあ、誰がメイドさんになるんだ!」


「そんなにあの服気に入ったんなら、たっちーが着る?」


「何を言ってるんだ。俺が着ても誰も喜ばないだろうが!」


「何でそんなに興奮してるの?」


「パスタが美味かったからだ!」


 中途半端に誤魔化した。


 少々の沈黙の後、紗夜子は表情無く「へぇ」と言った。


「とにかく、あの(うるわ)しきメイド装備を着こなせる人間をこの場に連れてこなければなるまい!」


「あ、そういうことなら、誰が手伝いに来てくれても良いように、色んなサイズで作ってあるよ。メイド制服」


「そいつぁ、さすが紗夜子だと言わざるをえないな!」


「これ、体の大きな男子用。たっちーにはこれね」


 紗夜子はどこからか取り出したメイド服を手渡してきた。


 ん?


 え?


 なに、これ。


 俺にこれを渡して……俺にどうなれと言うんだ……。


「…………まさか……」


「着てみて」


 やはり!


「断る!」


「どうして?」


「普通の男ならこんなん着ない!」


「可愛いのに」


「服はな……。確かに服は可愛いかもしれん。しかし、俺はメイドになれる美少年タイプではない!」


「でも、たっちーがわたしのこと手伝うって言ったら、自然とそういうことになるんだよ」


「何でそうなる!」


「宇宙の摂理なんだよ」


「無駄に壮大!?」


「とにかく、わたしは、パスタ屋なの! メイドさんになんてならないの! 料理人のプライドなの!」


「そっ――……プライドじゃぁしょうがないじゃねぇか……」


「だから……わたしのこと手伝おうって人が、たっちーの他に一人も現れなかったら、たっちーはその服を着て接客をするの」


 ビシッと左手で指差してきた。


「なっ!」


「決定事項なの」


「ちょっ、ちょっと待て」


「待たない」


「え、いや、えっと……誰かお前のこと手伝いたがるヤツに心当たりとかあるのか?」


「ないよ。誰にも手伝って欲しいって言ってないし、それに忙しいのは、わたしだけじゃないんだから、わたしの友達でヒマなのたっちーくらいだよ」


「じゃあ、俺ピンチじゃん」


「そうなの?」


「そうだろ……。どう考えても……」


 女装しなければならなくなるなんて、ピンチ以外のなにものでもない。


 それこそ、男のプライドという問題が……。


 どうしたらいいんだ……。


 普段ならここで、『やっぱり紗夜子を手伝わない』という選択肢も出現するはずなのだが、どういうわけか、そういうルートが出ない。


 何故。


 神様が俺に女装をしろしろと言っているかのようだ……。


 俺はただ、男用メイド服を抱えて佇んでいるしかなかった。


 と、そこへ――テンション高めの女子が一人来た。


「やっはー!」


 その子は甲高い声で挨拶しながらパタパタと駆け寄ってきた。


 あれは確か……さっき生徒会室に居た中の一人……。


 穂高緒里絵とかいったか……。


「カオリ? どうしたの?」


「どうもこうもないにゃん。マナちゃんにあたしのこと手伝って欲しいにゃん」


「へ? 手伝う?」


 紗夜子は右手を自分の髪の中に滑り込ませながら言った。


「そうだにゃん」


「何を?」


「オブジェ」


「何それ」


「門を入ったらすぐに目に入るところに、『風』をモチーフにした、おしゃれなオブジェをセーサクして欲しいって言われたの」


「誰に」


「会長さん」


 てことは、志夏か。


「しなっちかあ。しなっちが言ったなら、やらないとね」


「でも、正直めんどいにゃん」


「少しだけなら、手伝えるけど……」


「本当? やっぴー」


「というわけで、ちょっと、カオリを手伝うから、たっちーはそこで待ってて」


「え……いや……えっと……」


「はれ? たつにゃん? こんな所で何してるにゃん?」


 いきなり超馴れ馴れしいな……。


「いや、紗夜子の手伝いをしてるんだにゃん」


 って、何で俺もにゃんとか言っちゃってるんだにゃん……。


「……たつにゃんが持ってるのって……女の子が着る服だよね……。メイドさんが着る……」


「あ、ああ……」


「マナちゃん。もしかしてセクハラされたの?」


「え? 全然」


 何言い出してんだ……。


 俺はセクハラなどしない、紳士だというのに。


「たつにゃん! 正直に告白しなさい! またセクハラしたの!? その服を無理矢理マナちゃんに着せようとして、セクハラしたの? また!」


「おいこら、『()()』って何だ。人聞き悪いな!」


「うにゅ……何となく、昔されたような気分になった」


「さっき初めて会ったばっかなのに、できるわけねぇだろ」


 何なの、この見た目に似合わずヒドイ子……。


「たっちー。お留守番、お願いしていい?」と紗夜子。


「えー……」


「お留守番か、メイド装備決定か――」


「留守番します」


「お願いねっ。さてカオリ。そのオブジェはどこで作るの?」


「体育館だにょ」


「何か持ってくものある?」


「わかんにゃい」


「……じゃ、とりあえず、美術室寄ろっか」


「うむにゅん……」


 会話を交わしながら、去っていった。


 留守番……って言っても……やることなさそうなんだが……。




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