フェスタ_おりえ-5
闇。
闇闇闇。
闇しかなかった。
無明の闇で、ひとりきり。
「ふふふっ」
まるで宇宙に居るみたい。いや、星明りもないから、宇宙の外に出ちゃたみたい。
精神が、少しずつ壊れていくような感覚があった。
視聴覚の喪失は、ここまで人の精神を蝕むものか……。
ここに、あとしばらく居たら完全に精神は崩壊し、人でないものになってしまう恐怖があった。闇の恐怖よりも、今はその恐怖の方が勝つ。
しかし、光ってのは一体何なんだろうな。ついさっきまでそこにあったはずなのに、すぐに消えてなくなってしまう。この部屋に入るとき、確かに光も一緒に入ったはずだった。しかしどうだ、今は何の光も無い。これが意味するのは、光というのは、光を生み出し続けるものがごく近くに存在しないとそのポテンシャルを引き出せないということである。光は物質に吸収されて分解されているのかもしれない。
光って何だ? 正体は波だっていう話をどこかで聞いた。でも何よりも言いたいのは、何でここに光は無いんだということ。そう、それが一番の謎だ。俺の居るこの場所に光が無いのはおかしい。
光、光がほしい。
人のそばにはいつも何かしらの光があるべきだ。
と、そんなわけのわからない思考を展開させていた時だった。
ズゴゴゴゴゴゴ。
目の前の鉄扉が開いた。
小さな手と細い腕で重たい扉を開いてくれたのは、
「…………」
俯いた穂高緒里絵であった。
「おおお……光……光じゃぁ!」
それは、俺が、待ち望んだ、光。
まぶしいほどの。
しかし、喜ぶ俺とは対照的に、おりえの顔色は冴えなかった。
冴えないどころか……。
「ぐすん……」
泣いてるっ?
「どどどど、どうした? おりえ」
「あーん、たつにゃーん」
「何だよ、どうした……」
「ふられた~」
「ふら……れた……?」
「Dくん……昔いた街で好きな人が待ってるからって……。すんませんっすって……」
「そ……そうか、とりあえず、こんな場所に居ても気が滅入るだろ、ほら、あれだ、外はお祭りの準備で賑やかだろ、外に出て……」
「お祭りなんて、もう知らにゃい……。あたし、そんな気分になれにゃい」
「そ……そうですか……」
そして、しばらく沈黙が続いた後、おりえは、
「たつにゃんのせいでフラれたぁ」
とかまぁ、わけのわからんことを言ってきた。
でも、
「それは……すまん……ごめん……」
「さいてーさいてー……たつにゃん、さいてー」
「ごめん、ごめんな」
少しでも気休めになるなら、俺がいくらでも謝ってやろうと思った。
しかし、なんというか、こう、間の悪いことに……。
おりえじゃない女性の声がした。女としては、少し低めで、ちょっぴりドスのきいた声。
「何……泣かせてんの?」
上井草まつりッ!?
おりえの背後には、光を背負ったまつり様の姿!
「ふぇーん……」
泣いてる。確かに。
えっと……俺、泣かしてる……ように見える。確かに。
「キミ……泣かしたな……」
「ま、まつり、いや、これは違う……」
「泣かれてごめんって言ってるってことは、キミがおりえを泣かしたってことだろうがぁ!」
そうとは限らないだろうが。
現に俺の前に現れた時には、既におりえは泣いていた!
「まつり史上、最大級の怒りが、今、ここ」
俺史上最大級のピンチも今、ここ……。
「あたしの幼馴染を泣かせた罪は重い! ギルティ! ギルティ! ギルティ! さあ達矢、『強制かざぐるまシティ永住刑』と『風車緊縛ぐるぐるの刑』どっちか選べ!」
「どっちも嫌に決まってんだろ!」
「へぇ、じゃあ、三つ目の選択肢ってことか」
「何だよそれ……」
「やめてぇ! あたしのために、あらそわないでー」
「あたしと戦って、死ぬってことよ!」
俺の悲鳴が闇に響き渡った。
ゲームオーバー……というやつである。
【フェスタ_おりえルート おわり】




