フェスタ_おりえ-4
俺は、おりえに連れられて、校舎の一角に来た。
一見、何の変哲も無い廊下に見えるが……。
「たつにゃん……ここからは気をつけて。赤外線センサーがいっぱいあるから――ってアウチ!」
ずべんっ。
おりえは転んだ。
何してんだ、こいつ……。
いきなり何もないところで転んだぞ……。
「やはぁ……ころんだにゃん……」
「大丈夫か?」
「はっ! しまった! ここは赤外線センサーエリアの真っ只中! どうしようたつにゃん! 見つかっちゃったにゃん!!」
『ぴゅーい、ぴゅーい。侵入者発見。侵入者発見。ぴゅーい、ぴゅーい』
なんかチープな音の警報が鳴っていた……。
「はわわわわーっ。どうするにゃん! どうするにゃん!」
慌てていた。可愛い。
って、かわいいとかそんな場合じゃないか……。
ここは、逃げる場面じゃないか?
「おい、おりえ、逃げるぞ。ここは出直すんだ」
「でも、Dくん……」
「俺たちまで捕まったら、助けるどころじゃなくなるだろうが」
そう、世間で言うところの「ミイラ取りがミイラ」になってしまう。
「冷静になれ穂高緒里絵! 安易に突っ込まず我慢するんだ!」
「うむにゅん、わかったにょ……」
おりえが頷き呟いたその時――
「くぉらああああああああ!」
廊下なのに砂煙を舞わせながら、上井草まつりがやって来てしまった!
「そら来た! 逃げるぞ!」
俺がおりえの手を引っ張った時、
「わにゃんっ!」
こけっ。
また転んだ。
この子は……ほんとにもう……。
「ええい、仕方ない! こうなれば俺だけでも逃げる! 後で助けに来るからな! おりえ!」
俺は咄嗟にそう判断した。
「ぅえ!? そんにゃ!」
つまり、おりえを犠牲にして逃げようというのだ。
我ながら卑怯な男である。
「たつにゃーーーん! 待ってぇええ!」
「オラァ、待て達矢ぁあああああ!」
その声に、一度振り返る。
振り返った瞬間!
俺の視界には、衝撃の光景が広がっていた。
「はにゃーん」
そう、それは、なんだろう。おりえロケットとでも言うのだろうか……。何と、穂高緒里絵が、空中を飛んで俺に向かって来ているではないか!
「えぇええ! 何それえええ!」
そして――
ドムン
おりえは俺に直撃した。鈍い音がした。
まさか人間一人を投げ飛ばして武器にするとは……。
上井草まつり……恐ろしいヤツ……。
「うにゃ~……やらっちゃ~」
おりえの下敷きになった俺。
「…………」
まつりは倒れる俺たちを腕組みで見下ろしていた。
「おい、独房に何の用だ」
「まつりがそう言った時、俺の視界にはまつりの紫色の下着が――」
「しねぇええ!」
ばこーーーん!
「はぐぁあ!」
俺はやられ声をあげながら吹っ飛んだ。
まるで一番重い球に弾かれたボウリングのピンみたいに、おりえもろとも弾け飛んだ。
「あぁん? 何の用だって訊いてんだろうが、言ってみろよコラ」
今度は穂高緒里絵の胸倉を吊って言っている。
「ごめんにゃさい、まつり姐さん……たつにゃんは悪くないんだにゃん……あたしが……」
「ん……? カオリが自分から非を認めて他人のせいにしないってことは……」
まつりは呟き、素早く首を回し、俺の方を見た!
「キミ! おりえのこと脅したな!」
「――何でそうなるのっ!」
「血祭りだオラァ!」
そして、おりえを雑に投げ置いたまつりが俺に向かってダッシュしてくる!
俺は逃げるを選択しようとした。
しかし、今日のまつりからは逃げられない。まるで、ロールプレイングゲームのボスのごとく、逃げようとしてもそれはシステム的に不可能なのだ!
あぁ、また俺はこの女の暴力の餌食になるのかっ。
まつりが右腕を振り上げようとしたその時――
その腕に、おりえがまとわりついた!
「ん? 何よ、カオリ」
おりえのおかげで、命が助かった。
まつりは、おりえを廊下に降ろす。
「ちがうにゃん! あたしは、Dくんを……」
「D? あぁ……そっか、カオリは、そっか……面会しに来たの?」
「ううん、こっそり脱獄させに来たの」
「なんだってぇ?」
さすがおりえ……。
風紀委員に面と向かって堂々と脱獄計画の告白とは。
「カオリ、牢屋入りする?」
「やだにゃん」
拒んだ。そりゃそうだ。
「あぁ、えっと、あたしが言ってるのは、Dくんと同じ部屋に入るかってこと」
「入る」
即答した。
どういうことだ。
「でも、その代わりに、達矢が酷い目に遭うけどいい?」
え……何いってんの、この女……。
「かまわにゃい」
「――おいぃ! おかしいだろ!」
「少なくとも独房入りは免れないわね」
「平気だにゃん」
「こらぁ! それお前が言うことなの!?」
「最初から考えてたにゃん。たつにゃんがDくんのかわりに独房に入れば何の問題もないにゃん」
「フフッ、確かに」
「お前らおかしいだろ!」
「お前……だと? 会ったばかりの人間にその呼び方は失礼だろう。しねよ」
いや……しねとか言う方が失礼だろ……どう考えても。
「じゃあカオリ、これ牢の鍵ね。今日は特別だかんね。お祭りだから許可してるんだよ。わかるよね」
「うむにゅん。ありがと、まつり姐さん!」
言って、おりえはステテテッと駆けて行った。
「さ、達矢。キミはこっち来い」
「え? あの……まつり様、どこに……?」
「こっちだっつってんだろうが!」
そして、カチャリと音がして、俺の腕に掛けられたのは……。
手錠。
「って、ててて、手錠ォゥッ!?」
「今日のあたしは機嫌が良い」
俺の腕を引っ張って歩く上井草まつり。
「あの、機嫌良いなら解放してくれませんかね……」
「それはできない相談だな」
そして、まつりは、廊下のカベの前で立ち止まった。
「おい、何でこんな所で止まるんだ。ここは何も無いカベだぞ」
「ふっ、実はこの何の変哲も無い壁が、あたしの魔法によって変わるのよっ」
「魔法? お前、そういう夢のある子だったの?」
で、まつりは、
「マジカルマジカル、フェスティバル!」
呪文を唱えるようにそう言って、
「うおらぁ!」
バゴン!
正拳突きで壁を崩落させて大穴を空けた。
何なのこの子。
「ほらな、隠し部屋が現れた」
まつりがしたり顔で指差した穴の中を見ると、確かに空間があって、下り階段がある……。
「何で隠されてるんだ……?」
「この階段を下れば、特別室」
「其の下り階段の奥には、漆黒の闇が広がっているようであった」
「そうだ、達矢。ここは極悪人専用特別更生室。しかも……」
「しかも……?」
「しかも、喜べ。今まで一度も使われたことない部屋だぞ」
「何故そんな部屋に俺が入れられねばならんのだ……?」
「戸部達矢の名は、未来永劫、キミが死しても語り継がれることになるだろう」
言って、ビシリと指をさしながら、
「初の特別室入りは戸部達矢という記録がな!」
「うれしくない! うれしくないです! 不名誉な記録を残さないでくれ!」
「いいからとっとと入りやがれっ」
げしっ。
俺はまつりに蹴落とされ、階段を転げ落ちた。
「ごゆっくり!」
そして、俺が入ったかと思ったら、目の前の鉄扉が自動でガダンと閉じた。
そこは無明の闇の中。
「ひぃあ……」
俺は怯んだ。
目の前の、その闇に。
本当に何も見えない。一筋の光も無い。
……こわすぎるぞ。
しかし、この闇の恐怖に打ち勝てれば、俺は悟りを開ける気もしている!
――だが無理だ!
絶対無理だ!
「暗いのこわいんじゃぁああああああああ!」
俺は恐怖に負けて叫んだ。