フェスタ_おりえ-3
やることがない……。
他の生徒たちは、祭りの準備で活気に溢れているというのに。
俺は何もすることがなくて、一人、浮いた存在になってしまっているように思える。
おりえを探してみても見つからないし……。
困った。
と、そんなことを考えながら、喧騒に包まれた廊下を歩いていた時、
「はにゃーーーーん!」
聞き覚えのある叫び声が響き、見覚えのある小さな女の子が向かってきたと思ったら、トスン、と俺の腹の部分にぶつかった。
あれ、こんな場面、ついさっきもあったような、
「わっひゃおう!」
高い裏返った声。女の子の奇声だった。
女の子は俺の腹に跳ね返された後、尻餅をついた。
「いたぁい……」
下を見ると、女の子が居た。
小さい子。
どう見ても幼い感じの、ロリな子。
どう見ても穂高緒里絵だった
「何ダッシュしてんだ。廊下は走っちゃいけないんだぞ。危ないから」
「それどころじゃないにゃん!」
「何言ってんだ」
「助けて、たつにゃん!」
「はい?」
「好きな人が、捕まったにゃん!」
「ほう!」
これだ!
こういうドラマチック展開を俺は待ってた!
「詳しく状況を説明してくれ。喜んで協力しよう!」
「ありがとぅ!」
「それで、どうしたんだ」
「あたしの好きなDくんが、まつり姐さんに捕まっちゃったにゃん!」
「まつり……って……」
えっと、まつりって言うと、あれだよなぁ。すっごい目つきの悪い女で……。
「まつり姐さんは風紀委員で、悪いことした人を片っ端から病院送りしたり独房にぶち込んだりする頼りになる姐さんだにゃん」
「えっと……キケンな奴なんだな……つまり……」
「あたしは、まつり姐さんのこと好きです。でも、Dくんの方がもーっと好きです!」
「そうっすか……」
「それで、Dくんが暴力行為の罪でしょっぴかれちゃったの」
同情できないんだが。
「それは……Dくんが悪いんじゃないのか?」
俺が言うと、おりえは首を大きく横に振った。
「ちがうにゃん! 植木の陰から一部始終みてたけど、Dくんは平和的に解決しようとしてたの。なのに、不良さんたちが止まらなくて……まつり姐さんは『めんどくせぇえええ、全員しねぇええええ!』って言って、ぶっとばして、九割以上が病院直行」
想像するだけで地獄絵図なんだが……。
「その中で、まつり姐さんほどじゃないけど、そこそこに強いDくんは、最後まで抵抗を続けたけど、結局、暴力行為の現行犯で逮捕されたにゃん」
「そうなのか……」
「どうにかして、助けたいんだにゃん!」
「好きだからか?」
「そう、Dくんが大好きだから!」
「だが、おりえは、まつりと仲良いんだろ? 頼み込んで釈放してもらったらどうだ? あいつだって、まがりなりにも女の子。愛のためなら、何とかしてくれるかもしれんぞ」
「ダメだにゃん」
「何でダメなんだ」
「ブレちゃダメだって言ってた」
「どういうこと?」
「えっと、つまりね、これは、まつり姐さんじゃなくて、別の友達が言ってたんだけどね……えっと、『簡単に決められたルールを曲げたり、仲がいいからって贔屓してたら、治安維持機関は著しく信用を失って機能しなくなって、それが学校全体の治安に及ぼす影響はあまりに大きいっしょ』って言ってた」
「けっこうマトモなこと言う奴だな。誰が言ってたんだ」
「マリナ」
っていうと、宮島利奈っちか。
ほほう……こんな町にも、何とかマトモな人間が居るのかもしれない。
「で、とりあえず、俺は何をすればいい?」
「一緒に来て!」