フェスタ_おりえ-2
なかなか、おりえの姿は見つからなかった。
探してないときにひょっこり出てきて、探してると全然出てこない。
まことに厄介な女である。
もしかして、わざと俺から隠れて……焦らしているんじゃなかろうな!
ええい、可愛いやつめ。
で、長いこと歩き回った末に見つけた場所は、校庭。
「あっ、たつにゃん!」
むむぅ、向こうから話しかけてくるとは!
不意を突かれてドキドキするぜぇ……。
「お、よ、よう」
自分の口から、予想外に、裏返った声が出た。
「たつにゃん! あたしの手紙、見なかった?」
「これか?」
ポケットから出して見せる。
「そう! それっ!」
「お前な、こんな回りくどい手法をとらんでも、ちゃんと告白してくれれば、お友達からお付き合いしてやるところだぞ」
「ぬぁ!? 見た? 中身、見たのっ!?」
「ん? 中身? 中身は、見て――」
言い掛けたその時――!
げしっ
スネを蹴られた!
「痛い!」
「ってゆーか、何かんちがいしてやがるにゃん!」
そして、また蹴った! スネを!
げしっ!
また!
「まだおりえのターンはおわっちゃいないにゃん……というわけか……」
「てやぁ!」
そしておりえの足払いの一撃で、ついに俺は倒れた。
「うぁっ!」
びしゃ。
泥の地面に俺は倒れた。
門……遠くに校庭奥の裏門が、横になって見える。
星が、視界に舞った。少し頭もぶつけたらしい。
過度な暴力だ……っていうか、何で俺蹴られてんの……。
服が汚れてしまった。ていうか、痛いんですけど。
「もうやめて! もう俺のライフは……」
「うるさいにゃん!」
げしっ。
「ハナッェセ!」
俺は、妙な声を上げて痛がるしかない。
実はあまり痛くはないけど、雰囲気が痛いというか、心が痛いというか、何というか……。
「それにしてもおかしい……おりえは、俺のことが好きなのでは!?」
「そんなわけない! たつにゃんなんかに誰も興味ないもん!」
そこまで言うか……。
全く興味を持たれていないのは悲しい……。
「新手の逆ナンかと思って胸躍らせた俺がバカだったぜ……」
「返して、手紙」
そう言ったおりえは、ようやく俺をゲシゲシするのをやめた。
立ち上がって手紙を返す。
俺はすっかり泥まみれになってしまった。
「で、そりゃ一体、誰に宛てた手紙なんだ。大好きな人へ、とか書かれてるけど」
「中、読んだんじゃないの?」
「読んでねぇよ」
「あ、そうなんだ。蹴っちゃってごめんにゃん」
「いや……まぁ……いいけど」
おりえ相手に怒っても大人げないというか……。
なんか可愛いから許そう。
「でも、たつにゃんには関係ないにゃん」
「そうはいかんにゃん」
「何がだにゃん?」
「ここは乗りかかったフネだにゃん。おりえの恋の手助けをしてやろうと思いついたにゃん」
お節介が今、露呈した。
「いらないにゃん」
「そう言わずににゃん」
「余計なお世話にゃん」
「で、お前は誰が好きなんだ?」
「言いたくない!」
「言えよぅ」
「何でよぅ!」
「気になるからだ」
「たつにゃんには関係ないったら関係ない!」
「イニシャル! イニシャルだけでも。頭文字のアルファベットとかでもいいから」
「それ言ったら答えになっちゃうもん!」
「そうなのか」
「とにかく! 教えないっ! これ以上しつこくしたら、風紀委員呼んじゃうからねっ!」
おりえはそう言い残して、とてててっと走って逃げて行った……。
って、何か途中から目的変わってないか?
俺は、文化祭準備でおりえを手伝おうとしてたんじゃなかったっけ……。
「……まぁいいにゃん……」
俺は呟き、校庭を後にした。