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フェスタ_大場蘭(RUN)

「さぁ、誰を手伝うの? たっちゃん!」


 俺は、心の中で、メガネの女の子を思い浮かべた。髪質は、少々ごわごわだったが、とても可愛いくて、且つ何となく、こう、洗練……みたいなものがある女の子を。


「その顔は、大場崎蘭子ちゃんかな」


「な、何故わかったんだ、志夏よ……」


「すぐ顔に出るからナ。たっちゃんは」


「そうなのか……」


 そうだとしたら気をつけねばな……。


「大場崎さんなら、サボって屋上に居るんじゃないかしら不真面目だから」


 不真面目らしい。


「とりあえず、行ってみたら?」


 屋上……か。


「ああ。行ってみるよ」


「いってらっしゃい」


 俺は生徒会室を後にした。





 で、屋上に来てみると、大場崎蘭子の姿があった。


 青空の下で何をしているかと思えば、なんか、本を読んでいた。


 メガネを掛けて外で読書していたので、何だか知的な感じに見えたのだが、


「へぇ、ボインちゃんの反対って、ナインちゃんいうんやな……」


 何か、ものすごく変なことを言っていた……。


「あの、大場崎蘭子さん」


 接近して横から話しかけてみた。


「ん? なんや?」


 俺の方に顔を向けて、メガネをクイッと持ち上げた。


「何、読んでるんだ?」


「流行語の本」

 ばばんと表紙を前に突き出して、見せびらかしてきた。


「へぇ……」


 見ると、古い感じの流行語の本を手にしていた。


 何年前の流行語が紹介されている本だろうか。少なくとも今の本じゃない。


「ウチ、フツーじゃないみたいやねん」


「そうなのか?」


 見た感じ、かなり可愛い普通の女の子に見えるが。


「フツーの女の子になりたいねん」


「それで、流行語を勉強してるわけか」


 訊くと、こくりと頷いた。


 そして、再び本に目を落とす。


「チョベリバかぁ。今の女子高生はこういう感じの言葉使うんやな」


 おい、それ、いつの時代の高校生の話だ。


「なぁ、達矢くん。ポケベルて何?」


「ナウなヤングのトレンドアイテムだ」


「うおお、達矢くんも最先端流行語操れるんやな。尊敬するわぁ」


「……つかぬことを訊くが、大場崎さん」


「あ、ちゃうよ」


「は? 何が?」


「ウチ、大場蘭やねん」


「え?」


 大場蘭?


「大場崎蘭子いうんは、偽名やねん。そして……実は驚くべきことにメガネもダテやねん」


 言って、大場蘭はメガネを外してスカートのポケットに入れた。


 よくわからんが、確かに偽名と伊達メガネを使ってる時点で普通ではないかもしれないと、今思った。


「で? 何? 何か言い掛けたやろ?」


「ああ、そうだ。その本な」


「ん? コレ? これがどないしたん?」


「どこで買った?」


「さびれた無人の古本屋」


「古本屋でトレンドを追い求めるのは何かおかしいだろ」


「え? だって、流行語の本は流行しとるから店に売られてるんとちゃうの?」


「店にもよるが、古本屋はたいてい何の本でも売るんだよ。主に古い本をな」


「じゃあ、もうチョベリグとか使えん言葉なん?」


「使ったが最後だ」


「そんな……ウチの努力は何だったんやろか……」


「あまり言いたくないが、無駄だったということだな」


「この……これっ、このページにあるズベ公いう単語も使ったらあかんの?」


 本を見せてきた。


「そうだな……」


「ところで、ズベ公てどーいう意味なん?」


「えっとだな……」


 と、その時、中庭の方から、いくつかの叫び声がきこえてきた。


「うぉりゃぁ!」


「上井草まつりィィ! 覚悟ォオオオ!」


「おるぁああああああ!」


 不良っぽい男たちの、野太い声だった。


 なにやら騒がしい。


 そこで、大場蘭と共にフェンスから身を乗り出して、中庭を上からのぞいてみると……。


「おらぁ!」という女の声と、ドゴーンという鈍い大きな音。


「「「「ぐはぁああ!」」」」


 なんか、上井草まつりが不良をぶっ飛ばしていた。


「あたしにケンカ売ろうなんて、百年早いのよ、雑魚が」


 言って、倒れている不良を蹴飛ばした。


 まさに不良……。


「いいか、大場蘭。今中庭で暴れてたあいつみたいのをズベ公という」


「へぇ……」


「まぁ、使い方としては『アイツはマブいスケなんだが、ズベ公なのが玉に瑕』という感じだと思う。今の言葉で言うと『ギガンティックカワユスけどバッカルコーン!』みたいな訳になる……気がする」


「昔の言葉も、イマの言葉も、ムズすぎるわぁ」


「ああ、正直俺も、この使い方で合っているのかどうかわからんし、あるいはこれすらも既に古いかもしれん」


「ダメやんか」


「ああ、ダメなんだ」


 だがもう、こういうのは一周回ってどうでもいい気もしてる。


「ウチ、どうやったらフツーになれるん?」


「さぁ……」


「新しい流行語の本買わんとな」


「ちなみに、どこで買う気だ?」


「商店街の裏路地にある古本屋」


「何度も言うように、古本屋でトレンドを求めるのは……」


 言うと、大場蘭は俺の言葉にかぶせるように、


「あっ、せや」


 思いついた顔で言って、


「えっとな、でもな、ウチは昔から忙しくて、流行追ってるヒマなかったんよ。だから、たとえ古くてもイマからでも取り返せないかなって思て……」


 そんなことを言った。なんか、いいわけっぽい。


「忙しいって? 家の仕事でも手伝ってたのか?」


「まぁ……そんな感じかな」


 そんな感じらしい。


「とにかく、ウチはイマまでフツーじゃなかったんよ」


「へぇ」


「肩に猫のぬいぐるみのっけたりしててな」


「は? ぬいぐるみ?」


 また変なこと言ってるな……。


「……達矢くん、もしかして、ウチのこと、よう知らん?」


「当り前だろ。さっき生徒会室で会ったのが初めてだからな」


「そういうことも……あるんやな……」


「いやいや、これが普通だろ。何をおかしなことを言っとるんだお前は」


「やっぱウチにフツーは無理なんやろか」


「どうなんだろうな……」


 何か、わけわかんない子だな……。


 小さくて、思わず連れ去りたくなるレベルの、すげえ可愛い子だけど。


「あ、せや。ちょうどネコの話出たから話すけどな」


「何だ、ネコがどうした」


「ウチ、ネコ好きやねん」


「まぁ、割と多くの人がネコ好きだよな。そういう意味では普通な部分があったんだな。良かったじゃねぇか」


「今は普通とかそういう話やないねん」


「……どういうことなの」


 何なのこの子。


「実はな、肩にぬいぐるみ乗せてたんには理由があるねん」


「はぁ……そうなんですか」


「うん。あれな、タマって名前やねん」


 あれってのがどれだかわからないから、ついていけないぞ……。


「ウチは、右肩にポチ、左肩にはタマを乗せるのが夢やったんやけどな……。ポチもタマも死んでもうた」


「そうなのか……」


 俺はかわいそうなものを見るような目を向けた。


 しかし大場蘭は、それに気付かず、遠い目。


「ポチは従順な子ぉやった。素直で可愛くてな。それとは対照的にタマは素直じゃのうて、いつもポチとケンカしとった。本当は、仲良うしたいのにプライドが高くてな。そんなタマが突然死んでもうて……後を追うようにポチも……」


「そうっすか……」


「悲劇やった……」


 とてもたいへんな悲劇だったらしい。深刻そうに言った。


 これは、もしかして、ペットロスというやつか。飼っていた生き物を失ったショックで元気がなくなってしまうという現象。もしかしたら、この大場蘭という女の子は、それが理由でこの町に来てしまったのかもしれない。


「でも、もう居らんなんて信じたないやんか」


 信じたくなかったらしい。


「だからウチは、肩にぬいぐるみを抱いたんよ」


「なるほど……」


 生返事した。


「あ、真剣に聞いとらんな!」


 いやそりゃそうだろ。俺は大場蘭が肩にネコしょってんのを見たことないし、ポチともタマとも面識ないんだから。


「とにかく、そういうことやねん」


 そういうことらしい。まぁ、よくわからんが、大場蘭が犬も猫も好きだということだけは理解したぞ。


「なぁ、達矢くん。あれ、何やろ」


 ふと、大場蘭は上空を指差した。


 俺は、その場所を見上げる。


 そこには――


「何だぁ、あれ」


 古風な鍵の形をした巨大な物体が落ちてきていた。


「隕石やろか?」


「さぁ……」





【フェスタ_RUNルート おわり】



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