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フェスタ_まつり-5

 しばらく、客の居ない時間が続いた。


 あまり客の入りはよくないようだ。


 そりゃまぁな。あからさまな不良がやってる店なんて、信用なさすぎで買いたくないってのはある。関わりたくないと言ったほうが正確かもしれん。


 まぁともかく、中庭に人は少なかった。


 不良をこわがって遠回りで別の門から入るお客さんも多いみたいで……不良どもをメインゲート付近に配置したのは、明らかな配置ミスだろう。


 そして退屈さに負けて欠伸をした時だった。


「バナナ。全部ください」


 え?


 お客さんの登場である。ちょっとツンデレぽいオーラのある可愛らしい女の子だが。確か名前は……明日香だか紅野だか、そんな感じ。


 しかし、今、バナナ全部と言ったか、この子……。


「全部ください。全部」


 えっと全部?


 全部だと?


 俺は我が耳を疑った。


「はやく、ほら、一刻も早くバナナが私のところに来たがってる」


「お、お嬢さん。バナナ全部なんて、何に使うんだい」


「食べる以外に何があんのよ。小指の骨折るよ?」


「いきなり骨折る宣言すんなよ……こわいぞ」


 このまちは本当にこんなヤツばっかなのだろうか。


 おそろしくて、こんな町から逃げたくなるぜ。


「一万円で、全部買い取る!」


「い、一万円だと?」


 なんという大金!


 しかし……この金は『不良A派』『男子生徒D派』のどちらに入るのだろうか……。


 バナナを叩き売っていたのがD派だが、チョコバナナを売っていたのはA派だ……。


 普通に考えれば。D派に入るべきお金のように思えるが……。


「「「一万円だと……ざわざわ……」」」

 不良どもが、ざわついている。


 やっぱ理屈じゃねぇんだろうな……。


 この一万円が、また争いの火種となりて……。


「じゃあ、バナナはもらっていくわねっ!」


 女はバナナを抱えて歩き去って行った。


 早速、バナナをもぐもぐ食べながら。


 ……何なんだ、この街の連中は……。


 変なヤツが多すぎだぞ……。





 さて、バナナが売れてしまったらバナナ屋も商売できない。


 つまり、やることがなくなってしまった。


 ということは、あれだ。ヒマだ……。


 と、そこへ、


「戸部くん」


 ダンボールを抱えた笠原みどりがやって来た。


「ん? えっと、笠原みどり……だったよな? どうしたんだ」


「商品の補充。叩き売り用のバナナがなくなっちゃったでしょ」


「あぁ、そうだな……」


「はい、これ」


 俺は差し出されたダンボールを受け取った。


「わざわざありがとな」


「うん、まぁ、でも、あたしのお店は、こっちの不良集団に全面協力してるから」


「こっちの団……というと……男子生徒Dくんが率いる比較的マトモな団の方か」


「どういうわけかカオリがね、不良集団同士で売り上げ対決するって言ったらこの集団に肩入れしちゃって」


「カオリ? 誰だっけそれ」


「あ、穂高緒里絵って子のこと、あたしはカオリって呼んでるの」


「そうなのか」


「それじゃ達矢くん、頑張ってバナナ売ってね」


「おう……」


 そしてみどりが去っていったその時だった!


「そのバナナ。買い取るわ。ダンボールごと。一万円で」


「またお前か……」


 女は、俺の手に一万円を握らせてきて、かわりにダンボールを奪い取った。


「「「「これで、あわせて二万円……ざわざわ……」」」」


 そして女は去っていく……。


 ただ争いの燃料だけ投下して。


 何なんだ一体。


 と、そんなタイミングで中庭全体がざわついた。


 何か起きたんだろうか。


 騒ぎの中心に目を向けると、そこは人間モグラたたき会場。


「もう一回……言ってくれないかね」


 不良Aさんが、小さな子に語りかけている。


 その小さくて、ヒラヒラした姫様系の魔法少女のごときシルエットの女の子は、Aさんの巨大な体にも怯むことなく、言葉を返す。


「人間モグラたたき。マニアモードに挑戦します。ストレス解消に」


 なんか、お姫様っぽい格好をした子が人間モグラたたきのマニアモードに挑戦しようというのだ。

 あれも確か、フェスティバル実行委員会の子だ。浜中紗夜子とかいったか。

 その子が五十円を手渡すと、不良は言った。


「てめぇら! VIPなお客さまだぞ! モグラ用意!」


 整列した。


 今度は先ほどよりも多くの不良が。


 というか、いわゆる『男子生徒D派』の連中も並んでいた。


「「「「アイアイサー!」」」」


「点呼!」A。

「イチ!」B。

「ニ!」C。

「サン!」D。

「シ!」E。

「ファイブ!」F。

「シックス!」G。

「セベン!」H。

「エイツ!」男子生徒D。


「よし! 準備!」


 そして男子生徒Dのモグラたたき装置がゾゾゾゾゾっと移動してきた。


 二つの装置が並んだ。モグラたたき装置で、女の子を挟む形だ。


 あれがマニアモードの形らしい……。


 反目し合ってると思ったが、案外仲良しじゃねぇか……両不良集団……。


「お嬢さん。後で後悔するなら今ですよ」


 いや、不良のAさん。その日本語、何かすげぇおかしいぞ。


 何も始まっていないのにどうやって今、後悔するんだ。


「いいよ、始めて」


 紗夜子は自信満々の様子。


「叩ける時間は百秒間たたき放題! それでは、スタート!」


 そして、不良どもが高速で首を出したり引っ込めたりを開始した。


 その瞬間!


 ぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴっ!


 叩く音だけがする。


 しかし……紗夜子の手元が見えない!


 何だあれは。


「足りない! ありったけのハンマーをちょうだい!」


 紗夜子が叫んだ時、


「マナちゃん! ぱす!」


 どこからか現れた穂高緒里絵が大量のピコピコハンマーを投げた。


 それらは紗夜子の手元で消えた。


 ぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴpっ!


 相変わらず、手元が見えない。


 ただ時折ハンマーが舞っては落ちる。


「すんげぇ……」通りすがりの男子生徒。

「あいやぁ……」通りすがりの中華料理屋の女子店員。


「「「「「あばばばばばば」」」」」


 不良どもは喋る間もなく叩かれまくっている。


「あの技は……ハンマー投げ叩き!」


 通りすがりの筋肉質の男。いかにもロケットとかが好きそうな感じの筋肉質の男が、まるで見知った技を見たかのように叫んでいた。


 何だそれ。


「あれは、プロだ。プロのモグラたたきニストだ!」


 いやいや、プロって何それ……。


 モグラたたきニストって。


 そして、しばらく叩きまくった末……。


「ふぅ、すっきりした!」


 言って、叩くのをやめ、


「あ、たっちー発見」


 俺を発見し、


「次はたっちーのターンだよ。ばいばい!」


 俺にピコピコハンマーを渡した紗夜子はどっかに去っていった……。


「何なんだ……」


 本当に何なんだ、一体……。


 俺の手にはピコピコハンマー。


 視界には、不良ども。


「えっと……じゃあ……俺も叩いていいかな」


 俺がそう言った時――


「いいわけねぇだろコラァ!」


 リーゼントの不良Dが言えば、


「てめぇに叩かれるのだけは納得いかねぇんだコラァ!」


 チャラチャラ系不良も叫んで、


「人間モグラたたき最悪じゃねぇか!」


 硬派で俺の味方かと思われていた男子生徒Dまでが俺に怒りを向け、


「うおおおおおお!」


 バリバリバリっ。


 不良Hの手や足によってダンボール製モグラたたき装置が壊され、中から多くの不良が飛び出してきた!


 目的は……どう考えても俺を殴るためっ!?


「くたばれ戸部達矢ァ! おるぁああ!」


 リーゼントが拳を握って向かってくる!


 俺は逃げる!


 ダッシュで。


「オレらの二万円は置いてけオラァ!」


 不良じゃなけりゃ普通にイケてる不良Gくんが追いかけてくる。


 ダンボールの破片を纏った不良どもが、俺を追いかける!


 逃げる逃げる。


 逃げる。


 逃げて逃げて、渡り廊下にまで来た時――


「「「「ぐはぁああ!」」」」


 一斉に不良が吹っ飛んだ。


 振り返れば、倒れた人々のその中心で、上井草まつりが立っていた。


「まつり……」


「大丈夫? 達矢」


 まさに、救世主。


 ピンチになると来てくれる、暴力的な女の子。


 恋に落ちそうだぜ……。


「まつりさん。好きになっても良いですか?」


「えいっ」


 ぺこっ。


「いてっ」


 まつりがどこからか取り出したピコピコハンマーで、俺の頭は叩かれた。






【フェスタ_まつりルート おわり】



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