フェスタ_まつり-1
「さぁ、誰を手伝うの? たっちゃん!」
「まつりってヤツを手伝おうと思う」
俺はそう言った。しかし志夏は、驚愕の表情を見せた。
「……よりによって、そこ行く?」
「な、何だよ。何かあんのか?」
「いえ、別にいいけどね……、上井草さんなら……えっと、中庭に居るんじゃないかしら。行ってみたら?」
中庭……か。
「ああ、行ってみるよ」
「気をつけてねー」
「おう……」
何だ、そんなに気をつけるような何かがあるのだろうか……。
ともかく、俺は生徒会室を後にした。
で、中庭に来てみると、上井草まつりの後姿があった。
とりあえず、「おい、まつりー」と、声を掛けた――時だった!
「うぉりゃぁ!」
不良Gくんの声。
「上井草まつりィィ! 覚悟ォオオオ!」
これは不良Hくん。
「あ、待て、お前らっ!」
この声は誰だろう。
謎のイベントが発生した。
不良がまつりに飛び掛ったのだ。
「危ないっ!」
俺がそう言った瞬間、上井草まつりは、電光石火の移動術を見せたかと思ったら、何と俺を殴り飛ばした!
「くはぁ!」
えぇええ!?
なにこれ痛い!
何で俺宙を舞ってんの!
そして、ドサッと地面に落ちる。
「うぅぅ……」
倒れた俺の、呻き声。
起き上がると、同じように倒れている連中が居た。
「くぅ……つ、強い……」不良G。
「やべぇ……やべぇよ、こいつ……」不良H。
「何でオレまで……」男子生徒D。さっきの声はDくんのか。
累々としていた。
立っているのは、上井草まつり、ただ一人。
でも、でもさ、何で俺、ぶっ飛ばされたの?
この不良どもの一味だと思われたのだろうか。
まぁ、そうなんだろうな……。
体中が痛い。超痛い……。
霞みかけの視界の中で見た上井草まつりは、不良の胸倉を掴んでいた。
「おいコラァ、何のつもりだキミたちは!」
「お、俺たちはただ……」不良G。
「ただ……? 何よ。言ってみなさいよホレ」
「その……」不良H。
「キミたちは、かつてあたしに敗北し、手下になるって言った連中じゃなかったっけ? あのムキムキ率いる連中とはちがって従順だったはず。それが何でまた、あたしを襲うの? 死ぬ?」
脅迫していた。
そこに、よろめきながらも立ち上がった男が居た。あれは……男子生徒Dという男だと思う。何故そんなことがわかるのかと言えば、土汚れまみれのTシャツに思いっきり『男子生徒D』という文字が荒々しく躍っているからだ。
なお余談だが、不良Gくんや不良Hくんがそれとわかるのも、シャツや短パンなど身につけているものに、そう記されているからである。
男子生徒Dくんは、震えた足で立ちながら、
「ち、ちがうんす、姐さん。オレたちはただ……」
「ただ……? 何? 死にたいって?」
指をゴキゴキ鳴らしながら、まつりは言った。
「そうじゃなくて! オレたちも文化祭に参加したいんすよ!」
男子生徒Dは、悲痛な声で叫んだ。
「は?」
「姐さん! えんにちがしたいです!」不良G。
「したいです!」不良H。
「えんにちィ? そんなん……やればいいでしょ。あたしが許可するわよ。そんくらい。風紀委員の権限で」
イケメンの男子生徒Dは、ものすごく嬉しそうな顔になり、しっかりと頭を垂れた。
「あ、あざっす! 姐さん!」
「そうね……中庭に出店を並べなさい。それ以外の場所に出すのは禁止。わかった?」
「あざぁっす!」
もう感謝の言葉しかないようだった。
「ちょっと待ってね……。今許可証をあげるわ」
まつりは言って、スカートのポケットをゴソゴソしたと思ったら、色紙とマジックを取り出し、
『許可します まつり☆』
と汚い字で書いて渡した。
「姐さん……感謝っす! 自分、感動したっす!」
「早速準備にとりかかるっす! おい、行くぞ」不良G。
「はい!」不良F。
「おう」不良H。
そして、不良どもは駆けて行った……。
「…………」
この女はもしかして……不良のボスみたいなもんなのだろうか……。
「あれ? あんたは行かなくて良いの?」
まつりは、突っ立っている俺に向かって言った。
「あぁ、俺はあいつらの仲間ってわけじゃないからな……」
「へぇ、そうなんだ……」
それきり、無言。
えっと……謝罪なしかよ……。
「何見てんのよ。殴られたいの?」
「何言ってんだ、お前……」
こいつは、目線が合っただけで相手を殴るのか。
とんでもないヤツだな……。
志夏が気をつけてと言ったのも頷ける……。
「で? さっきの不良の仲間じゃないなら、何の用? たしか達矢、とかいったっけ」
「あぁ、いや、実はな、志夏にお前のこと手伝えって言われてな……」
「志夏に?」
「ああ」
まぁ、誰かを手伝えって言われて、まつりを選んだってことだから嘘ではない……と思う。
「つまり……あたしの手下になるということね!」
何言ってんだろうね、この子……。
「風紀委員補佐として、学園の風紀を守ることを誓うという意味ね」
「何なんだ、風紀委員補佐ってのは」
「何ですって。風紀委員補佐の自覚が無いの? 死にたいわけ?」
頭おかしいだろこいつ。
「何だその反攻的な目はぁ!」
そして突然!
ドゴン!
「はうぁ!」
殴られたっ!
何この暴力女!
唐突な一撃に、俺は宙を舞い、ドサリと地に落ちる。
「思い知ったかぁ!」
とりあえず俺が体を起こしたところで、まつりはビシッと指差してきた。
なんだろう。なんか……こいつと一緒に居たら、体がいくつあっても足りなさそうだ……。
一発ぶん殴って満足したのか、まつりはフッと一つ息を吐き、
「さて、それじゃあ、あたしは校舎内を見張ってるから、キミは中庭でさっきの不良どもがトラブル起こさないかパトロールしなさい」
今度は命令してきたぞ……。
「じゃあ、そういうことでヨロシクっ」
上井草まつりは、そう言い残すと、校舎内へと消えていった。
こうして、俺の風紀委員補佐としての初任務が開始された……。