フェスタ_みどり-2
クレープ屋の屋台の中で、みどりは言った。
いや、もしかしたら、そこはクレープ屋台ではなく、地上に突如として出現した、ただの地獄だったのかもしれない。
「おいしい……かなぁ?」
はっきり言えば、マズイ。逃げ出したくなるくらい不味い。
「…………」
しかし、俺は妙な紳士ぶりを発揮して、それをはっきり言えなかった。
「どう……言ったら良いっすかねぇ?」
「あたしに訊かれても……」
そして俺は、曖昧な表現で逃げ切りを試みることを選択した。
今になって思えば、それは重大で致命的な過失だったかもしれない……。
「新鮮な味っす」
「ホント? うれしい! どんどん作るね!」
あ、いや、ホメてないっす。今まで食べたことのないくらいヤバイ味で、「新鮮な体験しちゃったな俺」っていう意味の新鮮だったんだけども。
「食べて、食べて。どんどん食べて!」
「う……うれしそうだな……」
「初めてあたしのゴハンが美味しいって言ってくれる人に出会ったんだもん!」
言って、嬉し涙まで流してる。
って、泣いてるっ?
泣くほど嬉しいというのか。
止まらない涙を、何度も拭っている。
こ、これは「マズイ」とは今さら言えない……。
「はい、クレープ☆」
差し出される、新たなクレープ。
何度も、何度も。
だから、言うまでもないことだろうが……。
文化祭が始まるまでもなく、俺の体調は、崩壊した。
【フェスタ_みどりルート おわり】