フェスタ_みどり-1
※笠原みどりルートです。共通から繋がっております。
「さぁ、誰を手伝うの? たっちゃん!」
「笠原みどりって子を手伝おうと思う」
俺は志夏に向けて、そう言った。
「笠原さん……ねぇ」
「ああ、何となく、マトモそうだったからな。あの中では」
「それは、正しいかもしれないけど、でも、たっちゃんはそれで良いの?」
「どういう意味だ?」
「マトモなルートに行って、何が満足かってことよ」
「そ、そりゃ、まぁ……変なのよりはマトモな方が良いに決まってるだろ……」
「ふぅ、見損なったわ」
何で笠原みどりを選んだだけでここまで言われなきゃならないんだ……?
何なんだ一体。
「ま、とにかく、笠原さんなら、三年二組の教室に居ると思うわ。真面目だから」
「はぁ……そうっすか……」
ともかく、俺は生徒会室を後にした。
で、三年二組の教室に来てみた。
室内をチラリとのぞくと志夏が居た。
みどりの後姿も確認できた。
志夏が黒板の前に立ち、チョーク右手にクラスの意見を集めていた。
俺がコソコソと引き戸を開けた瞬間に、
「たっちゃん、遅いゾ! さっさと席につきなさい!」
「え、お、おう……」
俺は志夏に言われるがままに教室に入り、窓際後方の席に着いた。
あれ? でも志夏はついさっきまで生徒会室に居なかったか?
俺のほうが先に出てきたはずで、寄り道なんかしなかったけど、志夏に追い越された記憶は無い。そのはずなのに、もう三年二組の級長として仕事してやがる。俺の知らない生徒会長専用の抜け道でもあるんだろうか。ダストシュートとか、使われていない給食用エレベーターとか。
まぁ、それはともかく働き者だぜ。
「というわけで、三年二組の出し物はオバケ屋敷で決定ってことで良いかしら?」
教卓に立つ志夏が言った。
「…………」
異議は無かった。
しかし志夏は訊いた。
「笠原さん。本当にオバケ屋敷で良いの? 他にやりたいことは無い?」
「ふぇ? え? 何で、あたしに名指しで……」
「何か、やりたいことはないの? オバケ屋敷は笠原さんっぽくないわよ」
そんなタイミングで、俺は気まぐれに口を挟む。
「みどりなら、クレープ屋とか、良いんじゃないか? クレープ屋が似合う感じだぞ」
クレープが食べたくなったからだ。
後に俺は、この時の発言を大いに後悔することになる。
「え……戸部くんまで……クレープ……そ、そりゃ……クレープ……やりたい……」
みどりは呟くように言った。
「とにかく俺は、クレープが食べたい」
「たっちゃんがそう言うなら、クレープ屋が良いな」
志夏は言うと、
黒板に『クレープ!』と書いてマルで囲った。
「決定!」
決定したらしい。
「…………」
その時、教室は静まり返っていた。
その時の俺には、その静けさの意味がわからなかったのだが、今は痛感している。
クレープじゃなかった。
志夏に踊らされ、とんでもない選択をしてしまったと後悔している。