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フェスタ_達矢-8

 というわけで。


 やきそばやら、ソースせんべいやら、チョコバナナやら、お好み焼きやら、お祭りらしいものを食べ歩いた。


「食べたねー」


「ああ。食べたなぁ」


 腹いっぱいだ。


「あっ、たつにゃん。金魚すくいあるよ」


「あぁ。あるな」


「たつにゃんは、何の金魚が好きにゃん?」


「食べられる魚が好きだにゃん」


「……たつにゃんらしいにゃん」


「そうだにゃん?」


「うにゃん」


「にゃんにゃん?」


「にゃんにゃん」


 と、その時であった。


「あなたたち、何でそんなに頭の悪い会話してるの」


 生徒会長の伊勢崎志夏が現れた。


 くは、恥ずかしい。


 女の子とこんな会話を繰り広げているところを見られてしまうとは!


 戸部達矢、一生の不覚……っ!


「幻だにゃん」


 何言ってんの、この子……。


「幻?」


「そうだにゃん。にゃんにゃんって聴こえるのは、気のせいなんだにゃん」


「そ、そうだったのかにゃん……」


「ところで、たっちゃん。この会話、ボイスレコーダーで録音してるんだけど、何か言いたいことはある?」


「――消してくださいお願いします」


 俺は頭を垂れた。


「それはできない相談ね」


 顔を上げると、彼女は悪戯っぽく、笑っていた。


 くっ……この意地悪生徒会長め……一体何がしたいんだ……。


『そ、そうだったのかにゃん……』

 俺の声がした。


「にゃん、って……なんていうか、たっちゃん、ばかみたいね」


「くっ……」


「気にすることないにゃん。何も恥ずかしいことないにゃん」


「にゃんだと……」


「たっちゃん…………」


 かわいそうなものを見るような目を向けられた。


「違う、今、『何だと』って言ったんだ。言ったはずなんだ!」


『にゃんだと……』

 また、俺の声がボイスレコーダーから響いた。


「くっ……くそぅ……恥ずかしい……」


「えぇ? 恥ずかしいにゃん?」


「にゃん……」と、俺の呟き。


「重症ね……」と、志夏の呆れ顔。


「ちがうんだ! ちがうんだにゃん!」


「別に私は気にしないわよ。にゃんにゃん言うのが好きだからって、人格を否定したりとかは、なるべくしないようにしたがる人間だから」


 そして俺がアホ会話の中でおりえっぽく「うむにゅん」と呟いたその時だった。唐突に、


「緒里絵ぇええええ!」


 叫び声と共に、着物を着た女の人が、校舎から駆け出してきた。


「む? おかーさん……?」


 おりえの母親らしい。


 って……あの人……さっき不良をシメてたよな……。


「緒里絵! やっと見つけたぁ!」


 その人は、駆け寄って来るなりそう言って、次の瞬間には、


 べしん!


 緒里絵の頬を平手で引っ叩いた。


「はぅ!」


 痛がった。そりゃ痛いだろう。


 思いっきり引っ叩いたからな……。


「あう……な、何だにゃん……」涙目。


「何で……何で、穂高家の家宝が華道部の展示に使われてるんだい!」


「え? どうして怒るにゃん?」


「ありゃ三億円の花瓶だよ! バカ娘!」


 言って、着物の人はおりえの頭をパシンと引っ叩いた。


「うむにゅん……痛いにゃん……」


「『にゃん』じゃないよ! さっさと返してもらってきな! 割れでもしたら大変だから!」


 しかし、おりえは、あろうことか、


「ごめんにゃさーーーーい!」


 叫びながら逃げやがった。


「あァ! コラァ! 逃げるなーーー!」


 追いかけていく華江さん。


 何なんだ、一体。この街の人、みんな変過ぎるぞ……。


 ……で、残された俺と志夏であったが。


「そろそろ……時間ね」


 目の前の女も、またわけのわからんことを言い出した。


「時間? 何言ってんだ?」


「すぐにわかるわ」


 確かに……すぐにわかることになった……。


 でも、わけがわからない。何でそんなことになるのか。


 まるで、この街に来たことそのものが夢だったんじゃないかって思いたくなるほどに、それは、おかしくて、でも現実らしくて……。


 とにかく俺は、ぼんやりと目の前で繰り広げられる光景を、眺めていた。


 上空高く飛び上がった女の子と、飛んでくるモノとの戦いを――――。


  ☆


 私は、上空高く飛び上がった。


 街を見下ろせる高さ。


 楽しそうな街だった。


 おまつりさわぎ。


 建ち並ぶ風車も、街の建物も、派手な色に染まって、風にも色がついているみたいだった。


 でも今、そんな街が壊されようとしている。


 一発のミサイル。


 上空高いところから落ちてくるその一撃を、街に落とすわけにはいかない。


 私は、風を集めた。


 私の周囲を、強い風が渦巻く。


 揺れる髪が、時折視界を遮る。


 でも、そんなの気にならないくらいに私は精神を集中させていた。


 私は神。


 風の神。


 でも、その前に、この街の守り神。


 私が、守る。この街を。


 風が、巻いた。


 私の操る風が、ミサイルに纏わりつく。


 そして容易く、軌道を変えてみせた。


 ミサイルは揺れながら海に落ち、海中で爆発した。


 水柱。


 飛沫が波の上に降った。


 次に私の目は、ミサイルを発射した物体に向いた。


 戦艦二隻に空母一隻。


「許さない……」


 私の大好きな世界を傷つけるモノを。


 絶対に。


「許さない!」


 私は叫び、再び風を集めた。


 私を中心に、風が渦巻く。


 大きな、大きな嵐になった。


 バタバタと、制服が揺れる。


 私は大きく手を広げ、その手を勢いよく前に突き出す。


「沈めぇ!」


 大声と共に三つの物体に向かって嵐をぶつけた。


 街が、怯えている。


 その恐れを、私が吹き飛ばしてやる。


 (おそ)れるのなら、私を畏れなさい。


 大嵐は、大波を起こし、大竜巻となった。


 巨大な竜巻は艦も空母もひっくり返し、巻き上げ、滅ぼした。


「はぁ……はぁ……」


 肩で息をする。


 疲れる……。


 これほどの大きな風を起こすのは、何百年ぶりだろう……。


 苦しい。


 でも……まだ終わりじゃない。


「この後には……」


 私は空を見上げた。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ。


 やっぱり。鍵の形の。隕石が。


 そして、その隕石は、海に落ちた。


 全力を振り絞っても、海に押し返すことしかできなかった。


 街が飲み込まれた。


「……こうなることは……最初から、わかっていたことだから……」


 嗚呼。


 また……やり直し……か。





【フェスタ_達矢ルート おわり】




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