フェスタ_達矢-7
ゲーム大会の熱狂から逃れるように、俺は校舎の外に出た。
「あ、たつにゃん」
中庭の謎のオブジェの前でいきなり話しかけられたぞ。今度は何だ。
ていうか、
「誰……だ?」
「ひどいにゃん。昨日、生徒会室で会ったのに、もう忘れたにゃん?」
えっと……言われてみると、確かに居たような気がする。
「あぁ……確か……穂高緒里絵とかいう……」
猫っぽいポーズをキメていたバカっぽい女子か。
「そうだにゃん」
「にゃんにゃん?」
「にゃんにゃん」
と、にゃんにゃん会話を繰り広げていた時であった。
「……二人とも……そんなところで恥ずかしい会話繰り広げないでよ……」
おっと、この子は確か……笠原みどり。何となくしっかりしてそうな雰囲気がある。
「ああ。すまん。つい、な」
「ところで、戸部くん」
「ん、何か用か? みどり」
「まつりちゃん見なかった? さっきから探してるんだけど、見つからなくて」
「あぁ、まつりならさっき、ゲーム大会で敗北して走り去って行ったぞ」
「えっ……まつりちゃん、そんなのに出てたの? 文化祭実行委員の仕事放っぽって?」
「あ、あぁ……まぁ……そうなのかな」
まぁ、文化祭実行委員の中で、真面目に行動している人間がどれくらい居るだろうか。
上井草まつり。
笠原みどり。
紅野明日香。
風間史紘。
宮島利奈。
浜中紗夜子。
穂高緒里絵。
大場崎蘭子。
戸部達矢。
伊勢崎志夏。
以上十名の中で……。
まぁ、みどりと史紘と志夏の三人くらいなんじゃないかと思う。
何となくだが。
志夏に関しては、本当に真面目なのかわからないし、真面目な生徒会長だったら、いきなり「明日文化祭です」とか言い出さないとは思うがな……。
まぁとにかく、みんな不真面目……と、そういうことだ。
そんなことを考えた時、
「ところで、二人とも、お腹、空いてない?」
みどりが訊いてきた。
まぁ、腹が減ってると言えば減ってるが……。
「あ――」
俺が答えようとしたところ、
「っ…………!」
おりえに腕をグイグイ引っ張られて遮られた。
何なんだ一体……。
思って、おりえの方を見ると……
首を大きく振りながら、
「減ってない! お腹減ってない! 減ってない! 減ってない!」
何だか必死だった。語尾にニャンをつけるのも忘れるくらいに必死だった。俺はその必死さに応え、
「お、俺も減ってないぞ……」
そう答えると、
「そっか……残念。お弁当作ったのに。まぁ、お祭りで、色んなお店あるもんね……。食べ歩きとかしちゃうよね……」
何だかガッカリしていた。
「あ、でも――」
少しなら食べてやっても良い――と言おうとしたのだが、
「……!」
非力なイメージのある穂高緒里絵が肩が抜けるくらい腕をグイグイ引っ張ってきたため、その言葉を発するのをやめた。
「何でもないっす」
「そっか……」
みどりが言って、溜息を吐いたその時だった!
「見つけた! みどり!」
上井草まつりの声がした。
「え?」
声を漏らし、振り返るみどり。
すると、まつりは、風をモチーフにしたような謎のオブジェの上に立って、ほの寂しい胸を張り、腕組みをしつつ俺たちを見下ろしていた……。
で、「とうっ!」とか言いながら、飛び降りたかと思ったら綺麗に着地して、俺たちに駆け寄ってきた。
「いけない、まつり姐さんのあの表情は、モイスト顔だにゃん!」
何だモイスト顔ってのは。モイストというだけに湿ってでもいるってのか?
「逃げて、みどりさん!」
「えっ、ちょ、あ、うん!」
戸惑いながらも頷いて、みどり駆け逃げる。
「あっ! まてぇええ! モイストさせろー!」
それを追いかけていくまつり。
「いやぁああ! こないでー!」
二人……去っていった……。
残された俺とおりえ……。
賑やかな中庭で、ぐぎゅるるー、とおりえのお腹が鳴く音が聴こえた。
「腹、減ってるんじゃねぇか」
「うむにゅん……」
「でもアレか。あんなに嫌がるってことは、もしかしてみどりの料理ってのは……」
「……殺人的だにゃん」
そこまで言うか……。
「とりあえず、何か食べるか?」
「食べよー」
中庭には、多くの屋台っぽい出店が軒を連ねている。
ここで食べ歩きしないテはないぜ。