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フェスタ_達矢-6

 しばらく屋上でボーっと街を眺めていた。


 それはそれで飽きることは無いのだが、今日はフェスティバル。


 ようやく俺にも、少しは祭りを楽しもうという気力が生まれた。


 そして俺は再び、建物内に足を踏み入れた。





 しばらく校舎内を歩き、二階に人だかりを発見した。


 ここは……。


『パソコン同好会主催・ゲーム大会会場』


 あぁ、さっきまつりが出場するって言っていたやつか……。


 人垣を掻き分けて進んでみると……。


「さぁ、次! かかってきなさい!」


 上井草まつりが調子に乗っていた。


 筐体が二つ、周囲よりも少し高い台の上に置いてあり、その片方のチャンピオン席に、上井草まつりの姿。もう片方は空席だった。


『さあ、悪の女王・上井草まつりを倒すヒーローは現れるのか!』


 マイクで拡張された司会の男の声が響く。


「ちょっとキミぃ! その言い方って無いでしょうが!」


『ひぃ……すみません。でも、演出っていうか、そういうのって……』


「あたしが悪役なんておかしいでしょうが! せめて戦うプリンセスとでも紹介しなさいよぅ!」


 その瞬間、最前列で観覧していた小学生くらいの女の子が、ふきだして笑った。


「プリンセスって」


「おい……今笑ったそこの女。勝負よ」


「え? あ、わ、あたしッ!?」


 まつりは、最前列に居た小学生くらいの女の子に勝負をもちかけた。


「さぁ、壇上に上がりなさい!」


「え……っ……えっと……ごめ……」


「謝罪はいい。あがれよ」


 小さな女の子は、萎縮(いしゅく)しながらも、壇上に上がった。


『おーっと、ここで小さな挑戦者だぁ! かわいらしい少女は、上井草まつりを止められるのかぁ!?』


「さっさとレバーを握れよ。ほら握れ。さあ握れ」


「は……はいっ!」


 まだ幼い、小学生くらいの女の子は、まつりににらみつけられながら言われるがままに筐体の前に座り、レバーを握った。もう泣きそうだった。


『それでは、レディー……ファイ!』


 そして、格闘ゲームでの戦闘がはじまった。


 しかしすぐに終わった。


「うえーん」


 泣いた。


 まつりの圧勝。


 そりゃな……。


 だが大人げなさすぎだろ、まつり……。


『おおっと、これで上井草まつり、68連勝! もはやこの街に敵は無いのかァ!』


「なるほど……まさに悪の女王……」


 俺がついつい呟いてしまった時――


「達矢ァ! 聴こえたぞ! 誰が悪の女王だ!」


 聴覚も優れているのか、悪の女王は。


 なんて言ったかな、こういうの……そう、


 地獄耳。悪の女王にはピッタリじゃねえか。


「今度は達矢が血祭りだな。ほら、壇上に上がりたまえよ」


「お、おう……」


 俺は返事し、ある決意をした。元々、ゲームをやるつもりなんてのは、さらさら無かったのだが、泣かされた可愛い女の子のカタキを取ってやろうという思いを抱いたのだ。正義心に動かされ、俺は舞台上に上がる。そして、筐体の前に座る。


『さあ、続いての挑戦者は、この男! 遅刻と欠席を繰り返し、かざぐるまシティ送りになった愚かな男、戸部達矢!』


「おい! ここに来ちまったくだらない罪状まで紹介することねぇだろ!」


『果たして都会からやって来たこの男が、上井草まつりの牙城(がじょう)を崩すことができるのかァ!』


 だが、とにかく、そう、俺は都会の街から来たのだ。このゲームだってレベルの高いゲーセンで何度もプレイしてきた。


『さぁ、それではいってみましょう。レディー……ファァイ!!』


 ようし、ここはひとつ、都会のレヴェルに揉まれた俺の実力を見せ――


『YOU LOSE……』


 と筐体は言った。


 瞬殺されただと……?


 屈辱の敗戦。


「はっはは、おととい来やがれってんだ!」


 うぜぇ。


 しかし……こいつは強い……。


 俺だって結構強い方だぞ。このゲームはかなりやり込んだんだ。それをあそこまで一方的に……。


 少女のカタキを討とうなんて少しでも思った自分が恥ずかしいぜ……。


『さぁさぁ、もう上井草まつりに挑む猛者は居ないのか。この街のトップは上井草まつりになってしまうのだろうか!』


 会場は、静まり返っていた。


 誰も、まつりに挑戦しようとしない。


 このままでは、まつりがチャンピオンになってしまう。


 それは何だか嫌だ。


 だが、まつりは強い。


 やはり上井草まつりが、ゲームチャンピオンになってしまうのだろうか。


 そう思った時だった――。


「待ちな」


 一人の男が現れた。


『おおっと、挑戦者かぁ!?』


「…………」


 その男は、割れた人垣の中から壇上に上がり、


「おれと勝負だ」


 まつりに勝負を申し込んだ。


『おおおおっと! 70人目の挑戦者は、将来を期待されたインテリでありながら、上司に嫌われ左遷されたと噂される若山三木雄! 彼が救世主となるのかぁ!?』


「へぇ、少しは、できそうじゃない」


「あぁ、おれは何でもできるんだ」


 俺は席を若山という男に譲り、舞台を降りる。


 あとは、若山さんに希望を託すしかない。


 きっと、皆が祈っただろう。


 上井草まつりを倒してくれ、と。


『悪の女王、上井草まつり。70連勝なるか! それでは、いってみましょう。レディー……ファァアアイ!』


 そして、息を呑む熱戦。互いに譲らぬ大激戦の末……。


『YOU WIN!』


 若山のキャラが、ガッツポーズした。


「うおぉおおおおおお!」


 大歓声。


 そう、上井草まつりが敗北したのだ。


「うそっ、あたしが……負けた……?」


「これが都会のトップレベルだ。お嬢ちゃん」


「うあーん……まけたー!」


 まつりは叫びながら、その場を去ってしまった。まさに敗走。


 俺は思わず「一体何なんだ、あいつは」と呟くしかない。


『さぁ、若山さん。こちらのチャンピオン席へどうぞ』


「ん、あぁ」


 そして、若山がチャンピオン席に座った。


『さぁさぁ、このまま挑戦者が現れなければ、若山三木雄がチャンピオンになってしまう! 会場はもう、諦めムード。このまま終わってしまうのだろうか!』


 司会の男が言った、その時だった。


「はい! 挑戦します!」


 会場に、響いた高い声。


 どっかで聴いたことあるような声だった。


 その挑戦者の正体は――。


「あっ、お姫様っ」と、女の子は短い腕を声の主の方に伸ばした。


 確かに、姫っぽいヒラヒラの服とかティアラとか装備している子で……でもあれは……。


「紗夜子……?」


 そう、浜中紗夜子だった。


 どういう経緯であんな格好してんだろうか。


 とにかく、紗夜子は舞台に上がった。


「むかつくっ!」


 何故か、憤っていた。


 何なんだ一体。


『ど、どうしたんでしょうか。挑戦者、怒っています。幼馴染の上井草まつりを負かした若山に腹を立てているのでしょうか』


「違うの。なんか、演劇部の人に捕まって、いきなり主役やらされて、何なの。何なの、もう!」


 地団駄を踏みそうな勢いである。


「わたしのやりたいこと、全然できなくて、ちょうむかつく! だから……ストレス解消する!」


 そして紗夜子は、筐体の前に細いからだで、どかりと座る。


『さぁ、それでは早速お手並み拝見。インテリ対理科室の幽霊。レディー……ファイ!』


 それは、あまりにも一方的だった。


 まさに、暴力。


 ゲームの神が、ここに降臨したかのようだった。


 静寂の中、観客の呟きが耳に入ってくる。


「うお……あれが繋がるのかよ……」


「なんつーコンボ……」


 そして若山は嘆くように叫んだ。


「な、何だこの圧倒的な力は!」


 そして――きゅぴーん。と画面が光り、派手派手な超必殺の大技が決まって、勝負は着いた。


『PERFECT☆』


 筐体も、弾んだ声を出した。


『ちょ……挑戦者、チャンピオンを子ども扱い! なんという強さだ! これは文句ないでしょう。69連勝の上井草まつりを退けたインテリ、若山を相手にパーフェクト。チャンピオンは浜中紗夜子に決定しました!』


 近くで見ていた真面目系の女子は言う。


「すごいよね、あの子。さっき、隣のクイズイベントでも教師に圧勝でチャンピオンになってたよ」


 その隣に居た普通っぽい男子がハァハァ言いながら、


「やべぇ……紗夜子たんに惚れそうだぜぇ……」


 そして壇上の紗夜子は。


「すっきりした! ばいばい!」


 言って、プリンセスファッションをヒラヒラさせて会場から走り去って行った……。


「うぉおおおおおおおお!」


 ただ、紗夜子を讃える大きな歓声だけを残して……。


「……何者なんだ……浜中紗夜子……」


 俺は一人、熱狂の中で呟いた。




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