フェスタ_達矢-5
更に階段を上ると、四階。
三階と四階は、三年から一年までの、クラスの出し物が多く並んでいた。
紗夜子の理科室は例外として。
俺が所属……するはずの三年二組の教室もここ四階にあって、そこそこに繁盛しているようだった。
三年二組の出し物は、オバケ屋敷。しかし、今はオバケ屋敷の気分ではなかった。
俺は自分のクラスの前……いや、自分のクラスと言っても、ただの一度も顔を出していないが……とにかく、そこを素通りして、階段を上った。
上って、上って、突き当たり。
屋上に出た。
すると、女の子が二人……。
振り返った二人と目が合った。
「よ、よう」
「あれ、達矢じゃないの」
何だこの馴れ馴れしい女は。
たしか、生徒会室で会ったとは思ったが。髪の短い、どことなく気の強そうな。えっと……確か、紅野明日香って名前だったか。
「達矢くん? 屋上に来たってことは、達矢くんもサボリなん?」
メガネ女子の大場崎蘭子も居た。関西弁であった。
「お前の中では屋上に来るとサボリなのか?」
「当り前やん」
当り前らしい。
「てか転校してきたばっかなのに、いきなり文化祭とか言われても、ねぇ」
「せやなぁ」
「何だ、お前らも転入してきたばっかなのか?」
「そうよ」と明日香。
「うん」と蘭子。
俺は、二人の横に並び、フェンスの向こうに広がるカラフルに染まった街を見た。
夏めいて温かい、静かな風が吹いている。
「ねぇ、今さ、蘭子とね、何でこの街に来たのかって話してたんだけどさ、達矢は何やらかしてこの街に来ることになっちゃったの?」
「あ、それウチも気になる」
「別に、そんな面白い話じゃないぞ」
「良いわよ。別に。言ってみて」
「単に遅刻と無断欠席を繰り返してだな……」
「「それだけ?」」
二人して、目を丸くしていた。そして、
「「やだ、運悪ッ。近付かないでよ」」
とか二人揃って言ってきた。
何だこいつら。打ち合わせでもしてんのかって思えるくらいに綺麗に重なったぞ。
「フフッ」
「あははっ」
笑い合ってるし……。
そんな時――
『生徒のお呼び出しを申し上げます。三年二組の大場崎蘭子さん、紅野明日香さん。生徒会長がお呼びです。生徒会室まで来てください』
校内放送が流れた。
「うげぇ、呼び出された」
「あー、サボリがバレたんやろか」
「一緒にフケよっか」
「おいおい……不良だな……」
「でも、志夏さんから逃げ切るんは無理や思うけどな」
「やってみなければわからないわ。何だか楽しそうだから逃げちゃおうよ」
「明日香ちゃん、不良やな」
「蘭ちゃんに言われたくないけどね」
「フフッ」
「あははっ」
二人、また笑い合い、
「それじゃあ、達矢。そういうことだから。志夏に会ったらよろしく言っておいてねっ」
「ほな、またなー」
二人はそう言って、仲よく屋上から出て行った……。
「何なんだ……一体……」
この街には変な奴しかいないのか……?
この街に来るような奴が変なのか、この街に来ると皆変になっちまうのか。どっちだろうな。……まぁ、どっちでも良いか……。
また、そよ風が一つ、通り抜けた。
夏のにおいがする風だ。