フェスタ_達矢-4
階段を上って、三階。
上り切るなり、不良ども数人が、並んで正座していた。
「誰がババァだって!? 言ってごらん!」
着物を着た女の人が、見慣れない不良三人組をシメていた。
「ひぃ……すんませんしたァ」
不良は、土下座している。
「「「もうババァなんて言いません、穂高の華江姐さん!」」」
「なに、きこないねぇ」
「すみませんでした! 姐さん!」
「それから、おじいちゃんにも謝りな!」
女の人は、隣に居た老人を指差して言った。
「すんませんした! もうジジイなんて言いません!」
「いいんじゃよ。わしはジジィじゃから。ところで、わしの孫はどこかのぅ?」
老人はそう言った。
「孫……といいますと……」
と不良。
「上井草まつりという名前じゃ」
「「「なっ!?」」」
ビビっていた。
ほほう、あれが上井草まつりの祖父というわけか。
「おい、上井草まつりの身内だってよ」
ヒソヒソと会話する不良ども。
「どうする? これを利用して上井草を脅すってのもアリだろ……」
「老人だから簡単に捕らえられるはずだ」
何やらよからぬ相談が聴こえてきた。
「じゃあ、せーのでいくぞ……」
「ああ」
「せーのっ!」
「?」
そして不良どもは、
「オルァアアアア」「ウャアアア!」「トリャアア!」
とか叫びながら老人に攻撃を仕掛けた。
その次の瞬間――
「「「ぐぁああ!」」」
不良、舞う。
ドサドサドサっと、廊下に落ちた。
そして不良をぶっ飛ばした老人は、ぽつり一言。
「いいんじゃよ」
着物の女の人は溜息混じりに言う。
「はぁ……バカだねぇ……」
不良どもは、
「ち、ちくしょう、おぼえてろよっ!」
などと、いかにもコモノなセリフを残して走り去って行った。
「さ、行きましょ、上井草のおじいちゃん」
「ウチの子に彼氏なんてできっこないんじゃがね」
「そんなことないですよ。あたしだって結婚できたんだから、ね」
「みどりちゃんがウチの子じゃったらよかったのにのぅ」
「またそんなこと言って。お孫さん悲しむわよ」
「華江さん、ウチの子になってくれんかね」
「はいはい……」
そんな会話を繰り広げながら、二人は俺のそばを通って階段を下って行った……。
何なんだ、一体……。
呆然としていたその時――。
「なぁおい、君」
不意に誰かに話しかけられた。
声のした方に振り返ってみる。すると、五人ほどの人間が俺を見ていた。
「な、何だよ……」
「浜中紗夜子クンという体の細い女子を見なかったかい?」と男。
「どこ逃げ回ってるんだか、見つからないのよねェ」と女。
またこいつらか。
さっき紗夜子を追いかけていた連中に、また話しかけられた。
「いや、知らないッス」
俺は答えた。
「ねぇ、理科室前で張り込んでれば戻ってくるはずって言ったけど、全然戻ってこないジャン。このままじゃフェスティバル終わっちゃうよ」
理科室……ねぇ……。
確かに、ここは理科室前だった。
あぁ、そういえば先刻紗夜子は言っていた。
『もしも理科室にパスタ屋があったら寄ってね。じゃねっ』
見ると、確かに『パスタ屋★はまなか』とか書いてある看板が見える。
しかし、明かりも点いていないし、誰かが居る気配も無く、イタリアっぽい匂いもしない。営業していないようだ。
おそらく、こいつらが理科室で待ち伏せしているがために紗夜子のパスタ屋は営業すらできないというわけだろう。
なんだか不憫だな、紗夜子……。
「うーん、どこ行ったんだろうなぁ。オバケ役、やってほしいんだけどなぁ」
「演劇部に」
「美術部に」
「卓球道部に」
「置物に……」
大人気だった。