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フェスタ_達矢-2

 朝、険しすぎる坂の道を登る。


 既に視界には、一日にしてカラフルに染まった校舎が見えていて、周りを歩く人々も、皆お祭りムードで活気に溢れていた。


 一日にして、街の風景が一変していた。


 俺の両側をゆっくりと流れる景色には派手な色に染まった風車の柱が何本もあり、これが本当に昨日通った道なのかと疑いたい。


 俺が何もしないうちに、街が変わってしまった。


 それが良いことなのか何なのかは不明だが……。


 お祭りだというからには楽しむのが当然の行動というもの。


 俺は努めてテンションを上げながら、学校までの道をリズミカルに歩いた。





 門に辿り着いた。


 門には派手なアーチが掛けられ、


『ウィンドミルフェスティバル!』


 というカラフルな文字が躍る。


 眺めるだけで楽しくなるようなポップな文字だった。


 門をくぐると、様々な声が響く。


「いらっしゃいませー」


「安いよー安いよー。やきそばー。たこやきー」


「中華まんいかがですかー」


「いやっほう!」


 活気に溢れていた。


 やきそば、たこやき、チョコバナナ。


 金魚すくいに、型抜き、射的。


 色んな出店が軒を連ね、それは、まさにザ・お祭り。


 人が大勢いて、それは生徒たちだけではなく、街の住人、皆。大人から子供まで。


 その匂い、その音、その空気。


 地元の近所にある神社でやってたお祭りの雰囲気に近いものがあった。


 そして、その真ん中に、謎のオブジェがあった。


「なんだ、これは……」


 それは、喧騒(けんそう)の中で呟いてしまうほどに、場違いだった。


 喩えるなら、みそ汁の中に洋ナシが入っているような、そんな感じだ。


 とにかく賑やかなお祭りの雰囲気に溶け合わないような、オシャレで浮いた存在。その周辺だけ空気が違うような。カタチとしては、キラキラと銀色で、曲線的で、力強く流れている感じだった。


 色んなモノがあるなと思いつつ、校舎内に歩を進めてみる。


 下駄箱は撤去されていて、人々は土足で歩いていた。


 やれやれ、後で掃除が大変そうだぜ。


 で、一階廊下。


 顔を上げて廊下を歩けば、多様な看板が見える。


『演劇部』

『美術部』

『華道部』

『茶道部』

『剣道部』

『卓球道部』


 とか、色々。


 どうやら一階は部活動の出し物が中心らしい。


 その時だった。


「いやだぁー! やんないー!」


 そんな叫び声と共に、体の細い、女子の制服の子が一人で駆けて来るのが視界に見えた。


 あれは、確か、浜中紗夜子だな。体が細くて、制服の腕にイタリアっぽい色のラインが入っている。


 何だ。何の騒ぎだ。


 そしてその子は俺の姿を認めると、思いついた顔で言うのだ。


「あっ! たっちー! ちょうどよかった。かくまって!」


 とかなんとか言われちゃって。


「かくまうだぁ?」


 しかし、周囲を見渡してみても遮蔽物(しゃへいぶつ)がない。どこに(かくま)えば良いんだよ。


「恋人のフリ!」


 言うと、何と紗夜子はいきなり抱きついてきた。


「なっ!」


「ほら、抱きしめて!」


「えっ、あっ……おう……」


 言われるがままにギュッと抱きしめた。


 何この、突然のうれし恥ずかしイベント……。


 あったかくて、髪から良い匂いがする……。


 そこへ、すぐに何人かの生徒たちが走ってきた。数えてみれば六人。それぞれ統一感の無い格好をしていて、男子が二人、女子が四人といった感じである。


「あれ? どこ行ったんだ……?」


「オバケ屋敷のオバケ役として手伝ってもらおうと思ったのにな」


 と男子二人が言えば、残りの四人の女子達も次々に、


「可愛いから置物にしようと思ったのに」

「是非演劇部に……」

「いや、ここは美術部に」

「バンドやろうぜ!」


 なんだこのまとまりの無い集団は……。


「紗夜子、お前、何したんだ……?」


 小声で話しかけてみる。


「知らないよ。悪いことしてないのに、追いかけまわされてるんだよ」


 紗夜子が小声で答えた、その時。


「あ、そこのカップルさん」


 紗夜子を追う集団の一人が、話しかけてきた。ギャルっぽい女だった。


 ビクッと体を震わせる紗夜子。


「こっちにィ、女の子走って来ませんでしたァ?」


 どう……するか……。


 僅かばかり悩んだ末に、俺は、


「何見てんだよ、コラァ!」


 不良演技をすることにした。


「ジャマすんじゃねぇよ!」


 男子二人は怯んだ。


「あ……すんません……」

「おい、あっち、探してみようぜ」


 そして、


「さよこたーん。どこー?」


 集団は何処かへ走り去って行った。


 見えなくなったことを、しっかりと確認して、俺は紗夜子を解放した。


「ふぅ。ありがと、たっちー」


「お、おう。こちらこそ」


「え? 何が?」


「あぁ、いや、なんでもない」


 抱きしめイベントがドキドキで幸せだった、なんて口に出したら軽蔑されそうである。


「あ、そうだ。たっちー、お礼にコレあげる」


 言って、紗夜子は俺の手に何かを握りこませてきた。


「何だ? これは……?」


「パスタ半額券。理科室でパスタ屋やるから寄ってね。じゃねっ」


 紗夜子は走り去って行った。


「…………」


 パスタ半額券を手に入れた。




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