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RUNの章_選挙当日-1

 選挙当日のことである。


 俺は、登校し、皆を発見し近付いた。


「あのアホ、またか」


 みどりが怒っていた。地団駄を踏みながら。


「どうしたんだ? みどり」


「どうもこうも……」


「まつり姐さんが、遅刻してるにゃん」穂高緒里絵。


「カオリ、違うわよ。言い切れるけど、遅刻じゃない」宮島利奈。


「すっぽかす気なのよ」笠原みどり。


「そんなことしたら、RUNちゃんへの侮辱ー」浜中紗夜子。


「というかね、人としておかしいの。あのバカ。いい加減大人になってるかと思ったけど、全然ダメじゃないの」


 みどりがイライラした様子で言うと、利奈は、


「まぁ、まつりがそんな急に大人になれたら苦労しないっしょ」


「逃げれば何とかなると思ってて、今までそれで何とかなっちゃってたから……」


「甘やかしてたわたしたちが悪いのかもね」


 すると紗夜子がポーカーフェイスを崩さずに、


「まだ皆に迷惑かけてたの?」


「それは、マナカが言うことじゃないでしょ。あんたも迷惑かけまくりでしょうが」


 すかさずみどりがツッコミを入れる。


「……そうでもないよー」


「あるっしょ……」と利奈。


「心配だにゃぁ……まつり姐さん」


「心配するだけ損よ。駄々こねてるだけなんだから」


「でも、RUNちゃんに対して失礼じゃん」と紗夜子。


「ていうか、筋金入りのひきこもりだったマナカまで引っ張り出すなんて、RUNちゃんパワーってすごいんだね」


 ん? そう言ったこの子も図書館にひきこもってたとか聞いたけどな。


「それはそうですよ! RUNちゃんは現人神です!」


 フミーン(コイツ)の信仰も、だんだんとヤバくなってきたな。


 いつの間にか神様にまでなっちまった。


 みどりは腕時計を確認しつつ、


「とにかく、もう皆体育館に集まってるんだから、まつりちゃんを連れてこないと……」


「不戦敗でRUNちゃんの勝ちで良いんじゃない?」


「マナカ……そんなことになったら、まつりはどうすると思う? マナカの想像以上にまつりはアホでガキよ」


「うん、おそらく、マリナの言うとおり。不戦敗になんてしたら、大暴れするわね……。また、学園が血の海になるわ……」


 ()()学園が血の海ってどういうことだ。またってことは、以前にも血の海になったことがあるのだろうか。上井草まつりならやりかねないと思うが……。


 みどりの話では、かつてフミーンをイジメていた連中を片っ端から血祭りにして見て見ぬフリした生徒も全員ぶん殴ったことがあるという。それ以降、フミーンに手出しする(やから)はほとんど居なくなったのだという。


 だとしたら、そういう規模の暴力をするのは造作もないのかもしれない。


「マナちゃんは、ずっと理科室に居たから知らないんだよ。まつり姐さんが何ひとつ成長してないこと」


 散々な言われようだな。


 その言葉に対して紗夜子が、「それは……わたしのせい?」と言えば、利奈が、「何言ってんの。そんなわけないっしょ」と反論。みどりが怒りの口調を保ったまま、「まつりちゃん本人のせいに決まってるわよ」と言って、溜息を一つ。


 宮島利奈は、みどりに視線を送る。


「というわけで、サハラ。迎えに行きましょう」


「そうね」


「どうせまた自分の部屋の布団の中で女々しくメソメソしてるはず」


「でもマリナ、武装が必要じゃない?」


 なんだそれ物騒だな。


「うん。だから、わたしの家に寄って……壁を壊すハンマーとか……」


「スタンガンは、ウチの店のを持ってくわ」


「緊縛用ロープも笠原商店にあるよね」


「うん」


「普段のマツリには百パー勝てないけど、メンタル的に参ってる時のマツリなら、サハラと二人でかかれば何とかなるっしょ」


 その時、利奈とみどりの会話に穂高緒里絵が割って入り、


「あたしも、家にある日本刀持って行っていい?」


「「ダメに決まってるでしょ」」

 銃刀法違反だ。いや、正当な防衛を目的としていない場合のスタンガンの携行も法律違反だろうが。


 そうは言っても『かざぐるまシティ』は無法地帯そのものだからな。


 この町は、もう日本とは違う国だと考えた方が良いだろう。


「わたしもフライパン持って行っていい?」


 紗夜子さん、何故フライパン?


 料理でもするのか。


「フライパンで何する気? ていうかマナカは、まつりを刺激しすぎるから、来ない方が良いわ」


「金属バットなら良い?」と紗夜子。


「ダメだってば」


 アブない奴ばっか……。


 そこで、俺も心配になって、


「俺も行こうか? こう、女の子だけでまつりをどうにかするのは……」


 だが、


「君は、ぶっちゃけ、足手まとい」


 来なくて良いらしい。


「そうね。『対弱ってる状態のまつり戦』のスペシャリストであるマリナ(勝率わずか七分五厘)から見て、そういうことなら……」


「はっきり言って、戦力として計算できない」


「なっ……」


「そういえば、競争で正々堂々勝負してボロッボロに負けてたしね」


 屈辱的な思い出を……。


「そうなんだ。それならなおさらっしょ。今のまつりはオリの中の猛獣と同じ。オリの中でウジウジしてる手負いのトラみたいなもんね。だから命の保証はできないっしょ」


「うんうん」


「というわけだから、サハラ。行こ」


「そうね……」


「いや、だが……」


 心配だ……。


「じゃあ、戸部くんには、重要な任務を与えるわ」


「重要な任務?」


「ええ、そうよ。その任務とは!」


「任務とは……?」


「体育館に集まった全校生徒を飽きさせないために、場つなぎをお願いするわ」


「何だと……」


「面白いことをしたりして、場を盛り上げておいてね」


 無茶なことを!


「待て、みどり! そ、そんなのできるわけがないだろうが! 転校初日の挨拶での俺のスベりっぷりを見ただろうが!」


「もう転校初日じゃないんだから、甘えたこと言ってんじゃないわよ」


「なっ……」


 みどりさん厳しいっ!


「ほら、サハラ。行くよっ」


 利奈は言って、みどりの手を引っ張っていく。


「じゃ、そういうわけだから頼んだわよ」とみどり。「あ、カオリとマナカ貸してあげるから」


「え? お、おう」


 おりえは、「はにゃーん」と言いながら手を振って、紗夜子は「がんばってね、サハラ」と無表情で言い放つ。


「ちょ、ちょっと……みどり?」


「よろしくね~」


 みどりと利奈の背中が遠ざかっていく。


 どうしろってんだ……。





「どうしよう」


 場つなぎなんて、どうすりゃいいのかわからん。


「何か面白いことすれば良いんですか?」


「そうだな、フミーン。まぁ……そうらしいが……」


 にしても……。


「マナちゃん。おなかすいたー」


「あ、じゃあパスタでも食べる? 冷蔵庫に作り置きがあるけど」


「たべるー」


「それじゃ、理科室いこっか」


「おー」


 こんな気楽な二人組とフミーンと俺で、そんなに面白いことができるとは思えんが……。


 その上、しかも女子二人は教室を早々に出て行ってしまうし。


 と、その時、ランちゃんが教室に入って来て、話しかけてきた。


「なぁなぁ、うざい子、どないしたん? 姿が見えんけど」


「あぁ……ちょっと遅刻しているようだ」


「そうなん? でも、もう皆、ホールに集まっとるよ」


「ホールっていうか、体育館だがな……」


「んでも、おらんかったら選挙にならんのやろ。この学校のシステムじゃあ、そうなっとるって生徒会長さんに聞いたけど」


「そうなのか?」


 と、きき返したところで、


「その通り!」


 どこからか生徒会長が登場した。


「志夏……」


「達矢くん。笠原さんから話は聞いたわ。前座として盛り上げてくれるそうね」


「何ぃ。そんなことを言ってたのか……」


「ええ。それを条件に、上井草さんの遅刻を不問にするって取引」


 む、取引。


「取引って言葉……生徒会長が汚職に手を染めるみたいなイメージですね」


「失敬な。私腹を肥やすわけじゃないわよ。ただ、学校の皆が楽しめるようにという行動理念に基いているのがわからないの?」


 何だか知らんが叱られた。今日の志夏さんは選挙当日だからかちょっとテンションが高い。


「いや、しかし……面白いことと言われても……なぁ、フミーン。何かあるか?」


 俺は、存在感の無い地味なフミーンに言った。


「そうですねぇ……」


 すると志夏が、


「とりあえず、漫才でもしてもらおうかしら」


「漫才だと!?」


「舞台に二人で立ってボケてツッコミをするというアレよ」


 知ってるが……。


「あ、見たい見たい」とランちゃんが飛び跳ねた。


「そう言われてもな……無理があるだろ……」


「大丈夫。達矢くんと風間くんにならできるわ」


「なにを根拠に……」俺が言って、


「そ、そうですよ!」フミーンも言う。


「やらなきゃ、上井草さんが不戦敗になって、学校が戦乱に巻き込まれることになるわよ。そうなれば、上井草さんが取る行動は……。風間くんならわかるわよね」


「脅迫かよ……」


 俺が即興漫才をやるのと学校平和とを天秤にかける気なのか!


「事実を言ったまででしょ。さぁ、舞台はこっちよ」


 言って、俺の腕を掴む。


 フミーンは何故だか慌てた様子で、


「だ、大丈夫です、できますよ! 漫才くらい!」


 何を根拠に言ってるんだコイツは。


「お前……まつりを応援してんの?」


「あ、いや、どっちを応援ってこともないんですけど……まつり様が、お暴れになられた時の惨状を僅かばかり存じ上げているもので……」


 何で急に重々しい敬語キャラになったんだ。


「それほどまでに壮絶だということか……」


「ええ」志夏は言う。「とりあえず、来なさい。これ以上何もナシで待たせると、上井草さんのいない状態で暴動が起きてしまうわ。そうなったら……どうなるか。わかるよね」


「どうなるんだ……?」


「群れ集まることで気が大きくなった人たちが好き勝手に大暴れ。鎮圧できるのは上井草さんだけ。でも上井草さんは居ない。怪我人続出。死傷者が出る危険もある。そうなったら達矢くんのせい」


「何でだ……」


「漫才をしないから」


「そんなに見たいか? 俺の漫才が」


 すると大場蘭が「見たーい」と言い、志夏は「別に」と言い放った。


 何なんだ……。


「ていうか、暴動が起きる前にランちゃんを壇上に上げて投票させちまえば問題無いんじゃないか? ランちゃんの話なら、みんな耳を傾けるだろ」


「え、ウチが?」


 しかし、志夏は、問題アリだという。


「副会長に立候補してる人間が、片方だけ投票直前に政治宣伝活動をするようなものだもの。それって不公平だと思わない?」


「公平に見えるように工作すれば……」


「何でそんな面倒で不正っぽいことを生徒会長の私が率先してやんなくちゃいけないの」


「しかし、こう、やむを得ない場合なら……」


「選挙とは、そんなに甘いものではないの」


 これもしかして、どうやっても論破できないパターンじゃないかな。何が何でも俺に場つなぎさせようとしているに違いない。


「どうしても漫才をしろと……?」


「まぁ簡単に言うとそうなんだけど、嫌ならコントでも良いわよ」


「お前……」


「コントも……ええな」とランちゃん。


「お前も……」


「やりましょうよ」とまつりのお暴れがおそろしいフミーン。


「お前もか……」


「四面楚歌ね。フフッ」


 生徒会長うぜぇ……。


「ま、とにかく。舞台はこっち。付いて来て」


「わかったよ……」


 俺は観念した。


「楽しみやんな。達矢とフミフミの初舞台」


 フミフミって。フミフミで呼び方定着してんのかよ。


「何なんだろうなぁ、もう……」


 俺たちは、体育館に向かった。





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