RUNの章_時代はRUN世-8
昼休みの廊下を六人が練り歩く。
みどりを先頭に、どこからか用意した『まつりちゃん被害者の会』と書かれた戦国時代の軍旗みたいな形をした巨大な旗を持って。
周囲の生徒たちのヒソヒソ声が、風に乗って聴こえて来る。
「内乱らしいわよ、風紀委員補佐が二人ともRUNちゃん側についたって……」
「それどころか、風紀委員の幼馴染が全員反旗を翻したらしい」
「しかも理科室の幽霊まで一緒だって……」
そして、三年二組の教室の扉を開くと、まつりが居た。
「よお、皆! 遅かったじゃ――」
言い掛けて、言葉を失ったようだ。
「まつりちゃん。こういうことだから」
「は、反乱……」
「少しは反省すると良いのよ! バーカ!」
みどりさんはお怒りのようだ。もうちょい大人しくておしとやかな可愛い子だと思ってたんだが、猫かぶってたんだな。
「な……ななな……なんで、カオリまで、マ……うそ……マナカまで?」
驚いた顔。
いい気味だぜ。
と、その時、高らかな笑い声が響いた。
「ハーッハッハッハ! 上井草まつりィ! 仲間にも見捨てられたようだなぁ!」
RUNちゃん親衛隊を名乗る不良どもまでやって来た。
さらに、アイドルオタクっぽい集団までやって来て、
「RUNちゃんと勝負しようなんて、百年早いんだよ! 思い知ったか、上井草ァ!」
まつりは完全に孤立した。元々孤立気味だったのに、俺たちにまで裏切られたまつり。かわいそうな、まつり。
「……あ、あの……まつりさん! 僕は――」
「こら風間くん。まつりちゃんのためにならないってさっき言ったでしょ! 甘やかしたらつけあがるだけなんだから、このバカは」
「そ、そうでした、すみません、みどりさん」
「フミーン……お前もか」
「さぁ、おとなしく、あたしたちに今までのことを詫びなさいよ! そしたらまた味方になってあげてもいいわよ!」
「そ、そんなこと言われて、誰が謝るか!」
「またプライドとか言うの? 良いの? あたしとか戸部くん抜きで、RUNちゃんと対等に勝負できるとでも!?」
何か、予想以上に強硬な態度だな、みどり。
「それは……」
「負けたら、風間くんも戸部くんも、RUNちゃんのものになっちゃうけど、それでも良いの?」
「…………うぅ」
「ごめんなさい、と。あたしや、マリナや、カオリや、そして何よりマナカに。言うべきなんじゃないの?」
「やだ!」
「何で!」
「やだから!」
「わからずや!」
「強要された謝罪になんて、意味ないもん!」
「何それ! いつも、まつりちゃんがやってることでしょうが! 『あやまりなさい』って上から目線で言って、頭下げないと暴力だもん!」
「ううっ……」
「独裁。弾圧。そんなんじゃ、誰もまつりちゃんに清き一票なんて入れない! 票が入るとしても、そんなの、穢れちまった一票でしょ! そんなんでRUNちゃんに勝てるの? 勝っても、勝ったって言える?」
「べ、別に、RUNちゃんと戦いたくなんてないもん」
「じゃあ、ほら、RUNちゃんに頭下げたら?」
「へ? ウチが何?」
ランちゃんはランちゃんで当事者の一人だと言うのに暢気だった。
「やだぁ」とまつりは泣きそうな声を出す。
「やだぁ、じゃないわよこのクソガキ!」
「なっ……」
「今まで、どれだけの人が圧政の下で苦しんで来たと思ってるの?」
このみどりの言葉に対しては、クラス中が「そうだそうだぁ!」と答えた。
「皆を解放しなさいよ! この甘えん坊さん!」
「なんだよ! みどりのくせに!」
「ふん、暴力でしか人の上に立てない人なんて、あたしの貧困な語彙じゃ『無能』以外の言葉で言い表せないわ!」
「…………無能……」ずーん。
精神ダメージを受けている。
「他人に多大な迷惑かけてしか生きられないようなら、死んじゃいなさいよぅ!」
「…………」涙目だった。
うそだろ……。
あの、上井草まつりが泣きそうだ。
「これも、いつもまつりちゃんが言ってることなんだからね! いっつも。『死んじゃえ』って!」
「う、うるさい!」
「今、ここに宣言します! 『まつりちゃん被害者の会』会長である。あたし、笠原みどりは! RUNちゃんを応援します!」
クラス中に「うおおおおおおおおおお!」と歓声が響く。喝采だった。超盛り上がってる。
「RUN! RUN! RUN! RUN!」
クラス中を包み込むコール。
「RUN! RUN! RUN! RUN!」
さらにランちゃんコールは広がっていき、学校全体からランちゃんコールが響いてる。
「ちっくしょおおお! 全員死ねぇええええ!」
まつりはそのRUNを後押しする声の中を悔しそうに叫び、涙を溜めながら教室の外に駆け出て、
「うぁあああああああん」
そのまま遠ざかっていった。
「RUN! RUN! RUN! RUN!」
学校中がランちゃんの味方だった。
ふと、みどりの横顔を見ると、とても心配そうな表情をしていた。
「みどり、良いのか? 追いかけなくて」
「知らないわよ。まつりちゃんなんて。それに、まつりちゃんが大人になるチャンスだもん。そんなことより、RUNちゃんの所に行きましょ……ってあれ? RUNちゃんは、いずこへ?」
「あれ?」
見当たらないな。さっきまで教室に居たはずだが……。
「となれば……」
行き先は一つしか無いだろうな……。
喧騒を逃れて、屋上に行ったのだろう。
「心当たりが?」
「ああ、行こう。屋上だ」
「うん。皆! 行くよ!」
被害者の会は拳を突き上げる。
「「「「おーーーーー!」」」」
屋上に向かう事にした。