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RUNの章_時代はRUN世-7

 モイストで髪の毛をボサボサにされた上、くすぐられてグッタリする笠原みどり。


 なんかもうマウントとられて散々殴られてグッタリする俺。


 上井草まつりという名の嵐が去った保健室で、フミーンだけが無傷だった。


「不公平だ」


「何がですか?」


「何故フミーンだけが無事なんだ……」


「そりゃ……僕は何もまつりさんに悪いこと言ってないですもの」


「買収したんだろう! 八百長かこの野郎」


「僕には、あまり殴ったりしないですけど、細かい嫌がらせが凄まじいですからね……」


「ああ、シャープペンで背中を刺されたりな」


「僕の気持ちが、少しはわかりますか?」


「あれは屈辱的に思えたので、ちょっとカッとなってしまうな……」


「僕もね、ただ黙って背中を刺されているのも嫌ではあるんですけど、でもそれ以上に大好きだから何も言わないわけですよ」


「むしろ嬉しいということだな」


「そっ――」


「このドM野郎」


「違うんですよ! 僕はドMなんかじゃないわけですよ! ただ……」


「ただ、まつりが大好きというわけか」


「そっ……そうですけど……達矢さんにそんな風に言われたくないです」


「何で好きなんだ? どのくらい好きなんだ?」


「そんなの、理由なんていらないわけですよ! どれくらい好きかって言ったら、こんくらいですよ!」


 フミーンは言って、手を大きく広げてみせた。


「病気だな」


 まつりが好きなんて病としか思えない。


 そりゃ確かに案外可愛いところはある気もするが。


「そうですよ。好きですよ! 病気ですよ! 入院してますよ! それが何か悪いんですか!」


「ああ悪い。な、みどり」


「そうね。もうあんな子供っぽい子うんざり。少し反省すれば良いんだわ。堪忍袋の緒が切れたというものよ」


「ほほう、みどりも同じ気持ちか」


「モイストしないって約束したのに、あっさり破るし」


「フミーンがいくら庇おうとも、それはまつりのためにならんぞ」


「まつり様のため……」


「そうね。ここらで世間のルールってやつをわからせてやればいいんだわ! 社会では、はみ出し者は村八分されるのは当り前なんだから」


「ほほう、とことん意見が合うようだな」


 そして俺はフミーンに視線を送る。


「まつり様のためというなら……僕も協力しますけど……」


「――わたしもっ!」


「おっと……利奈さん、いつの間に」


「今さっき廊下でモイストされたのよぅ」


「そうか、普段まつりに色々されてる人って多いんだな」


「そりゃそうでしょ」


「――あたしもだにゃん!」


 誰だ、このロリな女の子……。


 いつの間に保健室に入ってきたんだ……。


「あら、カオリじゃない」


「穂高緒里絵ですにゃん、以後よろしくにゃん」


「そっか……カオリもいっつもほっぺた引っ張られてるものね……」


「うむにゅん」


 どこの言葉だ……。


「変な友達が居るんだな……。おりえさん……だったか」


 すると、おりえは、


「ちょっと、たつにゃん! 初対面なのに変な友達とか失礼だにょ!」


 言われたくなかったらまずマトモな日本語をしゃべれ。


 あと、お前も初対面なのにいきなり「たつにゃん」とか呼びおって。


 馴れ馴れしいことこの上ないぞ。


「とにかく……メンバーが増えるのは良いことだわ! まつりちゃんをイジメ返すことができるっ!」


「なんか、燃えてるな、みどり……」


「当然っ!」


「あまり、やりすぎないで下さいよっ、あれでいて繊細なんですから」と繊細そうなフミーンが言った。


「それは、風間くんよりもあたしの方がよっぽど知ってるけど……でも良いのよ、人はね、傷つきながら成長していくものなの! 今までが過保護すぎたのよ!」


 利奈とおりえが拳を突き上げ、「「そうだそうだぁ!」」と声を上げる。


 さらにみどりは、新たな仲間を見つけたようで、


「そして、そこっ! 入口で聞いてるバカ!」


 俺たちは保健室入口に注目した。


「…………あ……」


 体半分だけ出してこちらの様子を見つめている制服着た子がいた。


「誰だ、ありゃ」


 ここにきて、さらに新キャラとか……さすがに覚え切れないぞ……。


「マナカ。こっちに来なさい」


 その肌が白くて細っこい子は、緊張した足取りで手招きするみどりの所へ寄った。


「この子は、浜中紗夜子。ほら、挨拶して」


「…………」


 紗夜子は黙ってペコリと頭を垂れた。


 後、みどりのカゲに隠れた。


「ごめんね、この子、変な子なの」


「この部屋に変じゃない人間が居るのか?」


 いや、この町に……と言った方がいいか。


「確かに」とみどりは小さく笑う。


「わたしは、紗夜子」


 紗夜子は意を決して、みどりのカゲから出てきて平たい胸に左手を当てて名乗ってきた。


 紗夜子か。可愛い名前だ。


「俺は戸部達矢だ。よろしく」


「たっちー……」


 もしや、俺のことだろうか。


「それにしても、久しぶりね、マナカ……。理科室から出てこられるようになったの?」


「だって……この町にRUNちゃんが来たって情報があったから……」


「へぇ……誰から聞いたの?」


「ネットの掲示板でお祭りになってて。……会いたいな、RUNちゃんに」


「じゃあ、あたしたちと一緒に活動すればすぐに会えるわよ!」


 何が何でも仲間に引き込みたいらしい。


 別に、みどり軍団に入らないでも、ランちゃんに会うことくらいはできるはずだが……。


「あ、そうだ。紹介しなきゃね。あのね、戸部くん。ここだけの話……あたしと、まつりちゃんと、マリナとマナカとカオリはね、幼馴染なの」


 何だ突然……。


「ええっと……」


 笠原みどり(サハラ)と、

 上井草まつり(マツリ)と、

 宮島利奈(マリナ)と、

 浜中紗夜子(マナカ)と、

 穂高緒里絵(カオリ)の、


 その五人が幼馴染で、そのうちで上井草まつり以外がここでまつりに反旗を翻そうとしているわけか……。


 つまり、今、この場に居るのは、その四人に加えて、


 俺、戸部達矢と、


 風間史紘(フミーン)も。


 その合計六人。


「それでね、簡単に言うと、マリナとマナカはひきこもり」


「ちょっ! サハラ! わたしは違うっしょ! 図書委員だもん!」


「わたしも、理科室登校だよ」


「ね? マリナは図書館にひきこもってて、マナカは理科室にひきこもってるの」


 ニコニコ笑顔で説明してくれた。


 わけわかんねぇぞ……。


「変な友達持ってるんだな……ホントに……」


 友達というか幼馴染だったか。


「ねぇ、それで、RUNちゃんは?」と浜中紗夜子。


「はは、ざまぁないわね、マナカ。わたしは、もうRUNちゃんと喋っちゃったもんね!」


 利奈は何かと紗夜子と張り合いたいらしい。


「ずるいー」


 そして、穂高緒里絵が、みどりに質問責めする。


「RUNちゃんってどんな子だったにゃん? やっぱ可愛い? 関西弁? 歌すごい?」


「そうねぇ……どう、風間くん」


 みどりは右から左に受け流して、風間史紘に解答権を渡した。


「どうもこうも! RUNちゃんサイコーーー! フゥウ!」


 ダメだこいつ。イカレてやがる……。


「変な子だぞ。それは間違いなく」


 いや、だが図書館登校とか、理科室登校に比べたら大したことないか……。


「楽しみだにゃ。RUNちゃんに会うの」おりえ。


「RUNちゃん♪ RUNちゃん♪」紗夜子。


 それにしても……大場蘭のために、こんなにも人が集まるとは……。


 おそるべきは、大場蘭の影響力か。


「さて、それじゃあ、皆! ここに、『まつりちゃん被害者の会』の発足を宣言します!」


「「「「おーーーー!」」」」

 みどりの宣言に、俺以外の四人が元気よくこたえた。


 何か知らんが団結していた。


 フミーン、俺、みどり、利奈さん、緒里絵さんと紗夜子と。


 六人で反旗を翻そうということらしい。


「我ら、生まれた時は違えども、まつりちゃんにイタズラされる時は一蓮托生! 良いわね!」


「「「「おーーーー!」」」」

 またしても俺以外の四人が、元気よくこたえた。


 ここに、保健室の誓いは立てられた。


 五人の視線が、返事をしなかった俺に集中する。


 被害者の会……ねぇ……。


 まぁ俺も、ちょっとまつりには逆らいたいし、参加するのも良いかな。うん。


「おー!」


 ちょっと遅れたけども、俺も拳を天井に向けて突き上げた。




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