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RUNの章_時代はRUN世-5

「…………」


 歴史の授業中……なんだが、背後のまつりから異様なプレッシャーを感じる。後ろ髪がチリチリと焼け焦げるんじゃないかってほどの炎が、まつりから発せられている気がする。おそろしい限りだ。黙って固まっているしかない。


「…………」


 教師はチョーク片手にカツカツと歩きながら、


「えー、世界史を考える上で、最も重要なことは何だと思う? 笠原」


「えっと、気持ち?」


「いや、そうだな、それも大事だな。可愛い答えだ」


 何だ、この教師……。


「では、上井草」


「誰が誰をぶっ殺したとか憶えれば良いんですよね」


 殺伐としすぎだろ……。


「違うだろ、バカな答えだ」


「あぁ?」

 たぶん、教師を睨みつけたのだろう。


 教師の声は明らかにひるんでいた。その教師は一つ深呼吸してから、


「つまり、あれだ。歴史というものは、流れを知るのが最も重要なんだ。まぁ……誰かが誰かを殺したことによる気持ちの動きを考えるのも、ある意味では正解かもしれんな」


 そして教師は、俺に向かって、


「では、教科書を読んでみろ、戸部。303ページだ。座りながらでいいからな」


「あ、はい」


 そして、読み始める。


「えっと……大規模な資源獲得競争によって疲弊した大地の復旧計画は未だ完了しておらず……」


 プスッ。


「はうぁっ」


 何だ、背中に刺激が。何かに背中をチクッと刺された!


「クスッ」


 後ろで笑ってる女……。


 以前こんな感じのものを見た記憶がある……。


 確か、フミーンが背中をペンでチクチク刺されてたな。


『気を付けて下さいね……』


 フミーンの声が、脳内再生された。


 こういうことかぁ。しかし、気を付けても回避はできんぞ……。


 プスッ。


 また、背中をシャープペンの先でチクッと刺された。


「くっ……」


「フフッ」


 こいつ……俺でストレス解消してやがる。


 教師の方を見てみたが、見て見ぬフリとは……。


 それでも、教科書を読まねば解放されない以上、読むしかない。


 チクチク刺されながら。


「各地に残された様々な問題も棚上げされたままである。ゲリラ紛争、民族差別、テロ、核武装国急増問題等、未だ人類は一つにまとまることができない」


 チクチク刺されまくりながら、それを我慢しながら読んでいく。声は震え気味だった。


「現在の平和な世界は、非常に微妙なバランスの上に成り立っているのである」


「つまんなーい。反応してくんなーい」


 プスプスッ。


 こいつ……ッ。


「今後、いつ世界が戦火に包まれてもおかしくはない。些細なことが新たな世界大戦が表面化する引き金になり得るのである」


「よし、そこまでで良いぞ」


 ようやく背中チクチクから解放されるようだ。


 だが、このままでは気が収まらん。


 俺は、教師の声を無視してこう付け加えた。


「たとえば、シャープペンで背中を刺したりすることから戦争になるかもしれないのです」


 教師は慌てて、


「お、おい、余計なことを……」


「達矢ァ! 貴様! ケンカ売ってるのか!」


 ガタタンと音がした。


 おそらく、まつりが立ち上がった音だろう。


「ケンカ売ってんのはお前だろうが!」


 俺も立ち上がり、振り返って言う。


「何だとぉ?」


「まつり! あんまふざけたことしてると、ランちゃんのマネージャーになるぞ!」


「なっ、なるな!」


「お前みたいな異常者には、ついていけん!」


 すると教師が冷静に、


「おい、お前ら。廊下でやれ」


「そうだ達矢! 廊下に出やがれ! その腐った根性を修正してくれる!」


「何だと! こっちのセリフだ!」


「よし、来いやぁ!」


 まつりは言って、教室の外へ。


「望むところだぁ!」


 俺も怒りつつ、まつりに続いて教室を出た。





 そして廊下に出た時、頭に瞬間的にのぼった血がサァッと引いていき、相手が、あの上井草まつりだったことを思い出した。


「あの、調子こいてすみませんでした……」


 土下座した。小さくなって背中を丸めた。冷たい廊下におでこをつけた。


「あぁ?」


 腕組をしたまま俺を見下ろすようにして見ている。


 顔を上げたら、鬼の面のごとき恐ろしい顔。こわい。


 骨折られる、と思った。


「背中刺されたので、ついついイラっときちゃいましたけど、そんな、逆らう気持ちは、あまり無かったんです……」


 情けないが、まつりに逆らっても痛いことにしかならないからな……。


「すみませんでした」


 ここは、とりあえず謝っておくべきだろう。


「というわけで、教室に戻ります」


「待て」


「何でしょうか……?」


「無傷で教室に戻れるとでも?」


 なっ……。


「待ってくれ……何故指をパキパキ鳴らしてらっしゃる?」


「キミを殴るためだ」


「あ、謝ってるだろうが」


「時に、謝罪など意味が無い場合がある」


「い、今がその時なのか!? よく考えろ!」


「考えた結果が、今、問われる」


 何を言ってるんだこいつ。


「問われる? って……何だ」


「そう、拳で」


「ま、待て。まつりさんにストレスが溜まっているのはよくわかった。だが、それを俺に向けるのはいかがなものか。いや人間に向けるのはどうか!」


「じゃあ何に向ければいい?」


 薄く、笑いながら……。

 おそろしい……。


「そうだな……ボールとかどうだ? 卓球とか。球技でリフレッシュだ」


「じゃあ、キミがボールになれ」


「どうあっても殴る気なんですねっ!」


「当然! 風紀委員さまに逆らった罰だ!」


「そんなだから『うざい子』って言われるんだぞ!」


「――っ! ……き~さ~ま~!」


 はっ!


 まずい……。


 ついに逆鱗に触れてしまった!


「ころすっ!」


「ご、ごめん嘘! 今のナシ!」


「もう遅いわァ!」


 まつりは叫ぶと、俺に向かってダッシュして来た。


 そして繰り出される、右拳。


「ひぃいい!」


 俺は悲鳴を上げながらも、何とかそれを避けた。


「避けるな!」


「死ぬだろうが!」


「しね!」


「嫌だァ!」


 俺は悲痛に叫んで、廊下を蹴って駆け出した。


「まてぇえええええ!」


「許してぇえええ!」


 しかし追いつかれ、涙目で、引き倒され、


「くたばれぇええええええ!」


 どかーーーーーん!


「けふぁ!」


 思いっきり蹴られた。まるでボールを蹴るように。


 俺の体は宙を舞い、やがて視界は、暗転した。




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