RUNの章_時代はRUN世-4
「おっす、おはよう」
と俺が言うと、
みどりが「おはよ」と返し、まつりも「おはよう」と言い、フミーンが「おはようございます」と言って、もう一人の誰かも「おはようございます」と言った。
挨拶をしてる中で、見知らぬ髪の長い女の子が居るんだが、誰だこれ……。
ここにきて新キャラとは。
「あの、どちら様で?」
するとみどりが、
「ほら、戸部くんには昨日言ったでしょ、図書館通いのアレな子」
ああ、例の友達ってやつか。
「ちょっと、ひどくなーい?」
「ほらマリナ、挨拶挨拶」
「はぁ……宮島利奈です。どうも、はじめまして……」
しかし、ぺこりと頭を垂れたり、思ったよりマトモな人間のようだ。
「はぁ……戸部達矢です」
「風間史紘です……」
「通称フミーンだ」とまつりが横から言う。
「達矢に、フミーンね」
宮島利奈は順番に指差しながら確認した。
「二人ともあたしの部下だかんね」
「まつり。また、部下増やしたの? 程ほどにしなよね」
「何だぁ、あたしに指図すんのか! こっちは風紀委員だぞ!」
「わたしは図書委員だもんね!」
腕章を見せ付ける利奈。
「何だと、この図書館娘が! こうしてやる!」
そして、まつりは利奈の長い髪の毛をバッサバッサした。
「モイスト! モイスト!」
「はわぁああ!」
モイストしていた。
「なぁみどり。こいつのモイストはお前にだけじゃなかったんだな……」
「うん。まつりちゃんと仲良しで髪がそこそこ長くて綺麗だと犠牲になるみたい」
「髪短いとどうなるんだ?」
「ほっぺた引っ張られる」
「それにも技名とかあんのか?」
「ムニムニってカオリが……あ、友達ね。カオリって友達はそう呼んでる。『ムニムニされたにゃん』とかよく言ってるから、それが技名でいいんじゃない?」
「ムニムニか。やれやれって感じだな……」
「ホントにね……」
呆れたように言った。
「それで、ここに何の用なの、マリナ」
すると宮島利奈は、まつりにめちゃくちゃにされた髪を涙目で整えながら言った。
「決まってるっしょ。RUNちゃんに会いに来たのよ」
まつりは気に入らないようで、拗ねたように、
「何よ……どいつもこいつもRUNちゃんRUNちゃんって……」
「当り前ですよ! RUNちゃんは史上最高なんですから!」
フミーンが火に油を注ぐようなことを言った。
「このっ……」
「あっ! ねぇねぇサハラ」
サハラぁ?
何だそれは。
「何、急に」
笠原みどりが返事した。
あ、みどり=サハラということか?
何でだ?
少し考え、気付く。あぁ……笠原で、カサハラで、最初の一文字を取り去って、「サハラ」か。
なんか紛らわしいな。
「RUNちゃん来たぁ!」と利奈。「見て、ほら、見て!」
みどりの手をぐいぐい腕を引っ張ってる。
「はいはい」
笠原みどりは困った顔をしながら、利奈に連れられ、教室に入ってきたランちゃんの所へ向かった。
「…………」
行きたくても行けないという様子で佇むまつり。
きゃーきゃー言いながら喜ぶ利奈がランちゃんの周りを跳ね回っている。
「あの……大丈夫ですか、まつり様……」フミーン。
「屈辱なのか?」俺。
「うるさい!」
悔しがっていた。
「あたしだって、RUNちゃんと御喋りしたいのに!」
と、そんな言葉を耳にして、湧いて出たのがムキムキの男。
「ふははは! だらしないな、上井草ァ!」
変なのが来た。
体の大きいあからさまな番長風不良が、ゾロゾロと部下を引き連れてやって来た。こいつらは、さっき校門でビラをばらまいていた不良集団ではないか。
「出たな、不良」と俺。
「何の用だ、不良」とまつり。
しかし、まつりと俺の言葉に対し、不良は、
「ふっ、もう我々は不良ではない!」
「はぁ?」
「我らは、RUNちゃん親衛隊!」
叫び、五人ほどの集団は一斉に赤いハチマキをキュビシと装着した。
「…………」
口をぽかんと開ける俺たち。唖然とするしかない。
「RUNちゃんの希望は、ポチをゲットすること。そのために生徒会副会長に立候補した。そうだったな!」
「はっ! そうであります! Aさん!」
ムキムキの問いに答えるリーゼント。
「そのRUNちゃんの邪魔になるのは上井草まつり、そうだったな!」
「はっ! その通りであります!」
何だ、こいつら……。
「我ら親衛隊は、上井草まつりに宣戦布告する!」
「は、はぁ……」戸惑うまつり。
不良はなおも叫ぶ。
「今朝RUNちゃんがぽつりと漏らした言葉を教えてやろう!」
「何だ」
そこで俺はピンときた。ランちゃんがまつりに大して言うことと言えば、
「うざい子……とかだろ」
「…………」ずーん。
「違うぞ戸部達矢ぁ!」不良A。
「…………」ぎろっ。
味方のはずの俺をにらみつける上井草まつり。
「すまんすまん」俺は軽く謝罪。「で、何なんだ、ランちゃんが言った言葉って」
するとムキムキ巨体の不良Aは言うのだ。
「それは……『達矢みたいな子にマネージャーになってもらいたいわぁ』だ!」
えっと……それってつまり……。
そして赤髪モヒカンが唾を飛ばしながら、
「つまり、RUN様は、戸部達矢を御所望なのじゃぁあ!」
「おっと、マネージャーとはな……」
俺はちょっと一瞬、どうすべきか迷った。
「な……なにっ……だ、ダメだぞ。達矢はあたしのだ!」
まつりは俺の腕をギュッと抱いた。
控えめな胸が当たって、密着して、なんか良い匂いがした。
でもこわい、ヒジを壊されそうで怖いから離してくれと思う。
「人間は、誰かの所有物にはならないのではないか」
おっと、ここで一番でかいヤツが不良にあるまじき優等生発言。
「そっ……そう……だけど……」
「僕たち、大人気ですね、達矢さん」
「これこれフミーン。何をうれしそうに……」
そしてフミーンは言う。
「達矢さんは贅沢ですよ! RUNちゃんに必要とされているんだからダンスして喜ぶべきです!」
「そうだそうだ!」
不良どもが拳を突き上げて応えた。
何なんだ、こいつら。
ていうかフミーンもダンスしろとか、何言ってんだ……。
まつりは俺の腕を解放して、不良を指差し、叫ぶように行った。
「ふざけんな! フミーンも達矢も、あたしの部下だ!!」
「だからどうしたというのだね」
「だから……あたしのだ!」
「言葉だけでは何の拘束力も発揮できない。証拠となる書類を見せてもらわなくてはな」
またしても不良にあるまじきインテリ的発言。知的メガネの不良Eによる入知恵でもあったのだろうか。
「それが無いなら、二人がRUNちゃんのもとへ行く事の障害にはならない。違うか?」
「だまれぇえええ!」
ドカーーーン!
「「「「「やられたー!」」」」」
不良どもは全員吹っ飛んで、開いていた窓から落ちていった……。
でも、ここ、四階だよな……。
「お……おい……まつり。あいつら死んでないか……?」
「大丈夫だ。あいつらは不死身だから」
「んなマンガみたいな……」
「それより二人とも!」
「何だ」「何です?」
俺とフミーンは身構える。
「RUNちゃんのモノになんかなったら、ぶっ殺すからな!」
「それは、お前が選挙に勝ってから言え」
「っ……な、何だ! 達矢のくせに偉そうに!」
それにしても、朝から騒がしい限りだ……。
と、そんな時、教卓を紙束でばしばし叩く音が響いた。
「はい、皆、注目ー」
生徒会長にして級長の志夏が現れた。
教室内は少しざわついた後、志夏に視線を集めて静かになった。
「今ね、全教室回って伝えてるんだけど……明日、臨時生徒会選挙があります。副会長の座を、上井草まつりさんと大場蘭さんの二人で争う……ってこのクラスは言わなくてもわかってるわよね……」
教室中が頷いた。
まぁ、ランちゃんとまつりという、当事者ふたりが居るクラスだからな。
「それじゃ、また後で!」
言って、颯爽と出て行った。
「まつりとRUNちゃんで選挙? そんなの、まつりが勝てるわけないっしょ」
みどりの友達が、無神経に言った。
「…………」ずーん。
落ち込んでいた。
しかし、不良集団が戻ってきて、
「オラァ、上井草ァ! さっきはよくも!」
「Aさん! やっちまいましょう!」
と言って襲い掛かると、まつりはユラリと立ち上がり、
「うるさあああい!」
ドカーーーーン!
「「「「やーらーれーたーーー!」」」」
まつりにぶっ飛ばされ、またしても、窓から落ちていく。
だが、彼らは不死身らしいから、死なないだろう。
「くたばれ! バカども!」
八つ当たり気味に怒鳴り散らし、踵を返して自分の席に座ると、そのまま机に突っ伏した。
「達矢さん、気を付けて下さいね……」
「何をだ……?」
「すぐにわかります」
「何だよ」
チャイムが鳴った。
「あ、じゃ、また後でな」
「はい」
そして、俺はまつりの前の席に向かう。
史紘は、窓際の席に座った。
ランに無理矢理席替えさせられたからな……。
そこで、ふと思った。何だかんだ言っても、大場蘭って、まつりと大して変わらないんじゃないか……?
少なくとも、常識が欠如しているという点は似通ってる。
ともあれ、とりあえずは授業だ。