表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
359/579

RUNの章_5-1

 早朝に目覚めた。


 今日も休日。授業は無い。


 雨は弱まりながらも昨日から降り続いていたようで、少し肌寒さを感じる目覚めだった。


 休日二日間の天気が崩れるってのは、何となく損した気分になるぜ。


 と、その時である。


 ぐるぐると腹が鳴って、空腹を告げ、カップそばのお世話になった。


 生徒会長にして寮長にして級長の伊勢崎志夏が、町のど真ん中で空気汚染発生中だから避難しなければならないみたいなことを言っていたが、その空気汚染なんてのはデマだって話もしていた。


 まぁ結局、町がどんな状況に置かれようが、俺にできることなんてたかが知れているわけで。


 とはいえ、汚染発生とされているのは、いつも風が吹き抜ける坂道。みどりの店のある商店街のあたりって話だから、ランちゃんに会うために学校行くついでに様子でも窺ってみようと思った。





 朝食、後、部屋でダラダラ。


 昼になり、降っていた小雨も上がり、空が晴れた。


 良い天気が戻ったところで外に出て、俺は学校へと向かった。


 途中、笠原商店に寄ろうかどうしようか迷ったが、店番が誰も居なかったので、直接学校に向かうことにした。


 一刻も早く大場蘭に会いたかったというのもある。


 学校に着いた俺は、階段を上って、上って、屋上へ向かう。


 戸を開けて、屋上に出ると、既に大場蘭が居た。


 痛んでボサボサの髪が風に揺れている。


 相変わらず、元気の無い感じだ。もしかしたら、昨日ライブ映像を見たことで、より元気無さそうに見えているのかもしれない。


「おっす、大場蘭」


 横に並んで手すりを掴み、声を掛けてみる。


「あ……戸部達矢……だっけ」


「そうだ。憶えてくれたんだな」


「まぁ……」


「そういやさ、思い出したんだが、お前、昔に歌手やってたんだよな」


「あァ……昔ね」


 何となく目を逸らされた気がした。


「単純な興味なんだが、何で歌、やめちまったんだ? あんな素敵な声を持っているのに」


 フミーンの話では、事務所とのトラブルがどうのこうのと言っていたが……。


「あァ……それね……ま、大した話じゃないねんけどな」


 そして、彼女は語りだした。


「ウチな、めっちゃ働いたんよ。めっちゃ忙しくて、何ていうか、権藤・権藤・雨・権藤ってカンジで」


 使う言葉が時々微妙に超古いな、この子。


「そいでな、目ぇ回して倒れそうなくらい歌って、歌って、休む間もなくって、なのに、もらったお給料がな、あまりにも安かったんよ」


「そうなのか……。まぁでも、その世界、そういう話、たまに聞くけどな」


「うん。でな、ウチと同じように働いても働いてもお金もらえん子、同じ事務所に結構おってな」


「それで?」


「正義心に駆られたんやろな……義憤ってのかなぁ……インターネットのとある掲示板に『○○(会社名)背中から撃ち殺したる。』って内容のことをちゃちゃっと書き込んだんよ」


「……おい……それって……脅迫……」


 かなり重い犯罪だ。


「うん。刑事はんが来てな、威力なんちゃら妨害とか何とかで補導されてもうた」


「……バカだろ」


「てへへ」


 照れるところでもねぇだろ。大反省すべきところだ。


「事務所が事件自体を揉み消して、ウチは震える手で引退表明のFAXだけ送信したんよ『私自身の都合で引退します』ってな。我ながら大馬鹿やったわー」


 頭をかきながら、言った。


「ああ、(かば)いようのないほどのバカだな」


「うん。そいでな、しばらく、わりと長いこと自宅謹慎した末に、更生のためにこの町に送られてくるハメに……」


 言って、溜息を一つ吐くと、大場蘭は黙り込んだ。


 最初は、フミーンが言うように、何かしらの落ち度が事務所にあったのかもと思っていたが、話を聞いて考えが変わった。


 こいつが悪い。


 全く同情できない。


 脅迫書き込みは許される行為ではないぞ。


 歌が上手かろうが何だろうが、犯罪は犯罪だ。


 沈黙を破ったのは大場蘭だった。


「反省は……反省はしとるんよ。でも……」


「でも……?」


「もう、歌う資格は……無いかなって……」


 強風吹き上げる中、大場蘭は白い空を見上げてそう言った。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ