RUNの章_4-1
※笠原みどりの章、四日目から。
そうだ。学校へ行こう。
心の中で呟いたのは、転校から数えて四日目の湖畔であった。
学校に行くと、きっと何かいいことがある。
何でかは知らんが、そんな気がする。
歩く。授業の無い日の学校へ続く坂道。
思い返せば、この坂道には良い思い出が無い。まだ転校してきたばかりってことを考えれば、無理もないことかもしれないが、それにしたって鮮明で一生消えないであろう嫌な記憶ばかりがある。
それは、上井草まつりの遠ざかっていく背中であったり、その時の心の痛みだったり、膝を傷めた時の激しい肉体的痛みだったりするわけだ。
――そう、かけっこ対決。
仲良くなった看板娘、笠原みどりを上井草まつりの魔の手から救うという目的だったのだが、見事にみじめな敗北を喫した。
そんなこんなで、風紀委員補佐となった俺。
風紀委員補佐って一体何をやるんだいと問われれば、よくわかんないと返す他ないのだが、とりあえず同じく風紀委員補佐という立場についている風間史紘くんを見ていると、どうも絶対服従の下僕であるようだ。
つまり、負け犬として上井草まつりのイヌと化しているのが今の俺が置かれている立場なのである。
俺の黒いシャツが、風に揺れる。
休日に登校するとはいえ、登校するからには指定の制服でも着用すべきなのだろうが、しかしあのクソみたいな学校は、校則なんてものが厳しいとは到底思えないから大丈夫だろう。
普通に考えれば、雨も降ってきそうな天候だし学校に行くなんてのは考えられない。でも予定調和みたいなものには反抗したいではないか。
何というか、「普通」に考えればこうだとか、ああだとかってのは、可能性を狭めることだぜ。
固定された思考は袋小路を生んで、それが人生の袋小路になって非生産的な生物になってしまうなんて可能性もあるんだ!
それは退化である。
矮小な意識に捕らわれてはいけない。もっと客観的に多角的に物事を見なければな。つまり、「何となく学校に行くのはありえない」という感覚を否定して、固定行動からの脱却を図ろうというわけだ。
何か、途中から自分で言ってて意味がわからなくなった。
とにかく、この坂を登って学校へ行こう。
ふと、笠原商店の前に来たところで立ち止まる。
どうしようかと一瞬迷ったが、特に買うものも無いと思い、学校に向かうことにした。
しばらくすると、雨が降ってきた。
「何とっ……」
傘の無い俺は頭を押さえながら走ったが、すぐに土砂降りに変わって、それが意味の無いものだと気付いてやめた。
笠原商店に寄って、傘でも買っておくんだったと後悔した。
雨の中、走って、走って、また走って、ずぶ濡れになって学校に着いた。
「ふはは……」
何か、笑うしかない。寒い。濡れねずみ状態は心身ともに寒い。
しかし、さむいさむい言っていても仕方がないのだ。
もう、濡れてしまったのだから、この際仕方ない。
ぶらぶらと歩き回るのはさすがに迷惑かと思うし、生徒会室に乗り込んでいくなんてもっての他だし、となれば、残った選択肢は、あれしかない。
そう。ずぶ濡れになったので、もういっそ、さらに濡れてしまおう!
俺たち人間は、成熟した社会を持つにつれて、雨に濡れることを嫌がるようになってしまった。ここは、初心に返って、傘の無い生活というものを思い出し、古代の人々に敬意を払うというのはどうか。
要するに、もうヤケクソである。
俺は、階段をひたすら上って、屋上の戸の前に立った。
そして、勢いよく開ける。
その向こうには!
――女の子が居た。