表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風車は力強く回転を繰り返し規格外の強風は坂を駆け抜けてゆく  作者: 黒十二色
番外編_大場蘭(ドキドキ☆真夜中の学校探検)
352/579

大場蘭の章_Ending...

 フミーンは泣いていた。


 負けないで、負けないで。


 繰り返す歌を聴いて。


 何故だか俺も泣いていた。こんな年齢になって人前で泣くとは思わなかった。でも、案外年齢なんて関係ないのかもしれない。


 歌い終わったRUNは、一つ息を吐いて、


「長いはずなんよ。フミくんの人生は」


 涙声で、そう言った。


「天使とか悪魔とかの召喚の呪文よりも、長い名前の都市の正式名称なんかよりもずっと。円周率よりも長くあって欲しいんよ。フミくんだけやない。みんなの人生が」


 フミーンは黙って耳を傾けている。


「でも、それはやっぱり、叶わへんのやろな……」


「そうだな……円周率はちょっとな……長すぎる」


「うん……」RUNは涙を拭い、「だからな、少しでも、誰かに『楽しい』を与えられるように、ウチは歌を歌うべきやないかなって思ったんよ」


 フミーンも涙を拭った。しかし、拭っても次から次へと流れてきてしまうようだった。


「一人でも多くの人の心に響くように。それが、歌える人間が背負った……宿命みたいなものやって思うから……」


 俺たちは静かに、フミーンの言葉を待った。


「僕は、生きようと、思います。負けないで」


「うん、よかった。ウチも、歌おうと、思います」


 笑顔のRUNがそこにいた。


「ありがとう。ありがとう……」


「がんばろうな。ウチも、頑張るから」


「はい……」


 RUNは、フミーンの頭をぎゅっと抱きしめた。





 それから……。


 寮に帰った俺は、「朝ごはんを食べなかったことによる退寮処分」になっていたことを知り、RUNと一緒にみどりの家に泊めてもらった。


 翌日には、「不発弾が見つかったことによる強制避難」が開始された。


 その日、その朝、フミーンと一緒に町を出ようと迎えに病院に行ってみると、


「風間史紘さんなら、昨日退院されましたよ」


 ナースさんはそう言った。


「「え?」」

 俺とRUNは、二人、信じられないといった声をだした。


「なんでも、学校も転校されたそうで……」


「「なっ……」」


「あ、それで、戸部さんと大場崎さんが来たら、この手紙を渡して欲しいって……もしかして、戸部さんと、大場崎さんかしら」


「はい、戸部です」


「大場崎です」


 RUNは伊達メガネを素早く掛けた。大場崎という名前の時は、メガネを装着したいらしい。


 俺は手紙を受け取って、封筒から取り出して読んでみる。


『ずっとここにいたいけど、ずっと皆と笑っていたいけど、いつかは、終わりをつけなくちゃならないから。いざとなったら逃げてしまいそうな僕は、一度だけ、少しだけ格好つけたくて、別れとか告げずにいなくなろうと思います。一足先に、町を出て行きます。ただ、願うのは、みんなの、幸せを。達矢さん、RUNちゃん。本当にありがとう。まつり様に、よろしく。』


 信じられなかった。何で居なくなってんだ、ふざけやがって。


「よろしく……じゃねぇだろうが!」


「……なんか、なんか、むかつくな」


「ああ……」


「後味、悪いねんな」


「ああ、最低のバカヤロウだ。今度会った時には、きつく、本当にもう、きつく言ってやらないとな」


「……せやな……」


『さようなら。』





【大場蘭の章 おわり】




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ