大場蘭の章_Ending...
フミーンは泣いていた。
負けないで、負けないで。
繰り返す歌を聴いて。
何故だか俺も泣いていた。こんな年齢になって人前で泣くとは思わなかった。でも、案外年齢なんて関係ないのかもしれない。
歌い終わったRUNは、一つ息を吐いて、
「長いはずなんよ。フミくんの人生は」
涙声で、そう言った。
「天使とか悪魔とかの召喚の呪文よりも、長い名前の都市の正式名称なんかよりもずっと。円周率よりも長くあって欲しいんよ。フミくんだけやない。みんなの人生が」
フミーンは黙って耳を傾けている。
「でも、それはやっぱり、叶わへんのやろな……」
「そうだな……円周率はちょっとな……長すぎる」
「うん……」RUNは涙を拭い、「だからな、少しでも、誰かに『楽しい』を与えられるように、ウチは歌を歌うべきやないかなって思ったんよ」
フミーンも涙を拭った。しかし、拭っても次から次へと流れてきてしまうようだった。
「一人でも多くの人の心に響くように。それが、歌える人間が背負った……宿命みたいなものやって思うから……」
俺たちは静かに、フミーンの言葉を待った。
「僕は、生きようと、思います。負けないで」
「うん、よかった。ウチも、歌おうと、思います」
笑顔のRUNがそこにいた。
「ありがとう。ありがとう……」
「がんばろうな。ウチも、頑張るから」
「はい……」
RUNは、フミーンの頭をぎゅっと抱きしめた。
それから……。
寮に帰った俺は、「朝ごはんを食べなかったことによる退寮処分」になっていたことを知り、RUNと一緒にみどりの家に泊めてもらった。
翌日には、「不発弾が見つかったことによる強制避難」が開始された。
その日、その朝、フミーンと一緒に町を出ようと迎えに病院に行ってみると、
「風間史紘さんなら、昨日退院されましたよ」
ナースさんはそう言った。
「「え?」」
俺とRUNは、二人、信じられないといった声をだした。
「なんでも、学校も転校されたそうで……」
「「なっ……」」
「あ、それで、戸部さんと大場崎さんが来たら、この手紙を渡して欲しいって……もしかして、戸部さんと、大場崎さんかしら」
「はい、戸部です」
「大場崎です」
RUNは伊達メガネを素早く掛けた。大場崎という名前の時は、メガネを装着したいらしい。
俺は手紙を受け取って、封筒から取り出して読んでみる。
『ずっとここにいたいけど、ずっと皆と笑っていたいけど、いつかは、終わりをつけなくちゃならないから。いざとなったら逃げてしまいそうな僕は、一度だけ、少しだけ格好つけたくて、別れとか告げずにいなくなろうと思います。一足先に、町を出て行きます。ただ、願うのは、みんなの、幸せを。達矢さん、RUNちゃん。本当にありがとう。まつり様に、よろしく。』
信じられなかった。何で居なくなってんだ、ふざけやがって。
「よろしく……じゃねぇだろうが!」
「……なんか、なんか、むかつくな」
「ああ……」
「後味、悪いねんな」
「ああ、最低のバカヤロウだ。今度会った時には、きつく、本当にもう、きつく言ってやらないとな」
「……せやな……」
『さようなら。』
【大場蘭の章 おわり】