大場蘭の章_7-12
「よっ」
部屋の中に居たフミーンに話しかける。
フミーンは、ベッドの上に座ったまま、こちらを見た。
「あれ? 達矢さん?」
驚いていた。
「元気か?」
訊くと、
「病気ですよ」
笑いながら答えた。
「へぇ……何の病気なんだ? 今日は欠席したって話だが」
「ただの虚弱体質ですよ。生まれつきの」
「そうなのか」
「でも、虚弱なだけで人間っていうのは生命の危機なんです」
「そうなのか」
「具体的に言うと、僕の場合は、心臓が危ないんです」
「びっくりしたら倒れちゃう、中世ヨーロッパ貴族みたいなもんか?」
「まぁ、そうですね」
言いながら、史紘は笑った。
「やっぱり、達矢さんは面白いですね」
「じゃあ……あんまりびっくりさせない方が良いのか?」
もしも、RUNに会って、びっくりが原因の心臓発作になって死んだりされたら、困るな……。
「いえ、持久走でもしない限りは、簡単には死にませんよ」
ってことは……持久走をしたら簡単に死んじまうってことか……。
それは、とてもとても儚い……。
でも、持久走なんてしないからな、RUNに会わせても死んだりしないんなら、屋上に連れて行くか。
「じゃあ、ちょっと屋上に行かないか?」
「屋上? 何でですか? 話が全然繋がらないですけど」
確かに。
今のは不自然すぎる流れだったかもしれない。
自分の不器用さがちょっとばかし憎い。
「えっと……まあ行けばわかる」
「はぁ……」
「とにかく、行くぞ」
俺は、フミーンの腕を掴んで、無理矢理立たせると、そのまま腕を引っ張って病室を出た。
階段を上って、屋上へ。
屋上に辿り着いた。
引き戸を開けた。
「何なんですか、達矢さん」
「何って、だから、来ればわかるから黙って着いて来い」
俺は言って、フミーンの背中を押した。
フミーンは引き戸を抜けて、屋上に出た。
そして、フミーンの視線の先に、RUNの背中が見えた。
「……達矢さん、あの人、誰ですか?」
「見てればわかる」
そして、俺たちが来たのに気付いて、RUNは振り返った。
アコースティックギターを肩にかけていた。
「え? ま、まさか……なんで……RUNちゃ……?」
そして彼女は、大きく息を吸って、
歌を、歌った。