大場蘭の章_7-11
話しながら歩いて、病院の前に着いた。
歌を贈りたいと、RUNは言っていた。そして、そのためにこっそりギターを借りて病院に運んでもらってたりもしているらしい。
「その、歌は、もう完成してるのか?」
「曲はできとるんやけどな、詞がな」
「……未完成ってことじゃねぇか……」
「ま、何とかなるやろ」
大丈夫なのだろうか。そんなんで。
歩き、病院のエントランスを抜けて、病院内に入った。
「あ、こんにちはー」
「こんちは」
「こんにちはー」
ナースさんと挨拶を交わし、階段を上る。
そして、フミーンの部屋の前に立った。
「よし、それじゃあ、ノックするぞ」
「あ、ちょっと待って」
「どうした?」
「ちょっと、トイレ」
「そうか。じゃあ、ここで待っててやる」
で、RUNは少し歩き、振り返って言った。
「ねぇ達矢くん。思いついたんやけど」
「何だ?」
「今度はドキドキ★真夜中の病院探検とかせん?」
「まだ懲りてないのかお前は……」
病院っていったら、学校以上に幽霊が出るイメージが強いぞ。
ていうか、思い出させるな。あの理科室の幽霊のことを……。
「どうよ?」
「ダメに決まってんだろ。さっさとトイレ行って来い」
「うん」
言って、再びトイレに向かって歩き出した。
☆
私は、トイレの鏡に映った自分を見つめた。
らしくないメガネをかけた自分と、あの頃の、過去の輝いていた自分を心の中で比べてみる。
全然、違うと思った。
こんなの、自分じゃないと思った。
過去の自分に戻りたいわけじゃない。
もっと、先に進みたい。
再スタートしたい。
でも、そのためには、一度過去に戻らないといけない気がした。
輝いていた自分と、今の自分、違いは何だろう。
思って、メガネを外した。
「可愛ないな……」
バカな顔してる。
自信の無い顔してる。
歌下手そうな顔してる。
失敗して、すぐ言い訳しそうな顔してる。
「髪……かな……」
昔よりも少し、長くなった髪。
これが、一番違う。
これを、切らなくてはいけない。
私は、ポケットからハサミを取り出した。
そして、左手で髪を束にして掴み、じょきじょきとハサミを入れた。
切れた。
自分の髪が短くなって、重力によってふわっとした。
手の中の、切り離された自分の髪を見つめてみる。
「…………」
自分の顔を見つめてみる。
「よし! やるで!」
拳を握って、髪の毛とメガネを洗面所に放置したまま、私はトイレを出た。
☆
廊下の向こうから、RUNが歩いて来た。
歩いて来たんだが、戻ってきたRUNを見て、俺は驚愕した。
開いた口が、塞がらない。
「…………」
それは、言葉を失うくらいに。
「おまたせ……」
現れたRUNは、髪が短くなっていた。ついでにメガネも無かった。
トイレで切ったってことか?
普通そんなことするか?
何だこの、普通じゃない女は……。
「もしや……髪切ったか? バッサリ」
「おお、よう気付いたなぁ」
「そりゃ気付くだろ……」
かなり短くなってるし、肩とかに髪の毛が何本か乗ってたりするし。
「似合う?」
髪先を撫でながらそう言った。
「まぁ……RUNは可愛いから何だって似合うけど」
「何を言うとんねん。褒めても何も出んよ?」
「ただ、ちょっと髪型が、いびつだな」
「しゃあないやろ。時間無かったし」
「……その前に、何で髪切ったんだ? 俺にはその行動の意味がわからん」
「それはな……ウチの、決意の証拠やねん」
「決意……?」
「もう一度歌を歌うためにはな、伸ばした髪とは、お別れせな」
「そうか……」
「ウチの準備は、これでええよ」
「そうか。じゃあ、フミーンの部屋に入るぞ。いいか?」
俺は、フミーンの部屋をノックしようとした。
「待って」
「今度は何だ」
「ウチ、屋上で歌いたい」
屋上……?
「何で」
「屋上が好きやねん」
「バカと煙は高いところが好きって言うもんな」
「ウチは煙やない」
煙でもバカでもないと言い張ってきた。
「まぁ……じゃあ屋上で歌うのは良いとして……俺はどうすればいい」
「達矢くんは、フミくんを屋上に連れて来て欲しいねん」
「それは、RUNが歌うからっていうのは黙っておいた方が良いのか?」
「できれば」
「そうか、わかった」
「それじゃ、よろしくな」
言って、RUNは小走りで階段の方へ向かった。
「病院内は走らないで下さい」
「あ、ごめんなさい」
おこられていた。
「さて……」
俺は、フミーンの病室をノックする。
「どうぞー」
そして、引き戸を開けた。