大場蘭の章_7-5
世界が明るくなった。
時刻は朝五時半。
「もう大丈夫だぞ、RUN」
「幽霊は、昼とか夜とか関係なく出るもんやって聞くけどな」
「ええい、何を言っている! これ以上俺をこわがらせてどうする!」
「あぁ、ごめん。ごめんな」
「まぁ……良いけども……」
「あっ……せや。朝になったんなら、ウチ、制服に着替えたいんやけど……」
「そうか。では見ててやるから着替えろ」
「は? 見ててやるって……?」
「いつ幽霊が来るかわからんのだろう! 俺は、お前を視界から外したくないのだ。誰かがそばに居てくれるという安心感が欲しいんだよ!」
アツく、俺は言い放った。
「達矢くんの前で脱げって?」
「……だって、こわいから」
「ウチの下着姿見たいだけなんとちゃう?」
「ちゃうちゃう」
「あ、せや。明るくなったし、着替えついでにシャワー浴びてくるわ。この学校の一階にシャワー室があるらしいし」
「待ってくれ」
俺はRUNの体操服の裾を掴んだ。
「キャァ、ちょっ、何!」
「俺を一人にしないでくれ!」
「だから、女の子のシャワーについて来ようて?」
「いや……そ、そういうわけではないが!」
「じゃあ何なん?」
「シャワーなんて浴びなくてもいいじゃないか」
「汚いやろ」
「大丈夫だって。ファブリ○ズ的なものしとけば大丈夫だって」
「何アホなこと言うとんねん」
「とにかく行かないでくれぇ!」
「ええい、寄って来るな」
「ここに居てくれなきゃやだ!」
「この変態!」
「何を言う。オバケとか幽霊とかがこわいだけだ!」
「ウチかてこわいけどもう朝やねん! 岩の裂け目からお日様出とるやろ!」
「そんなものは関係ない! ひとりにしないで!」
「情けないな! それでも男なん!?」
「おま、お前だってこわがってただろうが! あの青白い生首!」
「ウチは女やからええねん!」
「そんな理屈が通るか!」
「とにかく、ウチはシャワー浴びたいねん」
「そのままでも十分良い匂いだぞ」
「……へ、変態やな」
「何だと、こんな紳士に向かってぇ!」
「ウチは女の子やねん! 一日一回はシャワー浴びるんは当り前やろ! まして、寝たし走ったし……」
「良いんだ! お前の匂い大好きだ! だからどこにも行かないでくれ」
「キモい!」
「どう思われてもいい! 変態とでも何とでも呼べば良いだろう! だが何処にも行かないでくれ!」
「こわがりすぎやろ! ええかげんにせい」
「頼む! シャワーなんて、もっと後でも浴びれるだろうが!」
「今じゃなきゃ嫌やねん!」
「あれだけの目に遭っておきながら、この学校の七不思議の怖ろしさがまだわからんのか!」
「霊はお日様に弱いって相場が決まってるから大丈夫や!」
「そんなの意にも介さないような近代的な幽霊だったらどうする!」
「とにかく、すぐ帰って来るから、良い子で待っとって。な?」
子供をなだめるように言った。
「やだ!」
子供みたいに返した。
「絶対。絶対に出ない。な?」
「本当か? 絶対だな? 嘘だったら許さんぞ!」
「わかったから、ええ子で待っとって、な」
「シャワー浴びたらすぐに帰って来いよ! 約束だぞ! 絶対だぞ!」
「わかったって」
「待ってるからな!」
「はいはい……」
言いながら、RUNは机から畳まれた制服を拾い上げ、教室を出て行った。
俺は自分の席に座ると、恐怖からか、机に伏して目を閉じた。
眠れはしなくて、ただ恐怖にガタガタと震えているしかなかった。
心の中で、RUNよ早く帰ってきてくれと語りかけながら。