大場蘭の章_7-4
で、再び美術室。
「じゃあ、開けるぞォ」
「おう」
そして、ガラリと引き戸を開ける。
「増えてるぅうううう?」
「あらホント……」
額に入った大きな絵が数枚置かれていた。
「ええい、アジなマネをぉお!」
「大丈夫?」
「大丈夫だ! さぁ、次は何処だ!」
「上の階の男子トイレとかどう?」
「望むところだ!」
そして、RUNの手を取って走った。
階段を上る。
「さあどこだ、その男子トイレは! かかってこいやぁ!」
「もう見えとるやろ」
「ああ、コレか! お前はここで待っていろ。お前は女だからな! 俺が確認してくる。ここには何があるんだっけ?」
「携帯ゲーム機で遊んでるような音」
「わかった!」
そして懐中電灯を持って男子トイレに入ると、
カチカチッ……カチカチカチッ。
音がした。ラップ音ってやつかこれ。
「ふはははっ!」
確かに携帯ゲーム機で遊ぶような音が聴こえるぞ!
俺はすぐに外に出た。
「どやった?」
「なんかカチカチ音がした! もうやだ! 逃げる!」
そして俺は、RUNの手を掴んだ。
また走る。
もう霊っぽいものの存在から少しでも遠ざかりたいのだ。
「あっ、達矢くん。そっち理科室――」
「何だとぉおお!」
理科室には女の霊が居るって話だぞ!
そっちはこわいじゃないか!
俺が急に立ち止まり、
「キャァ」
勢い余ってRUNが転び、それに引っ張られる形でバランスを崩した俺も転んだ。
そして懐中電灯を手放す。
カラカラカラ……と廊下を転がる懐中電灯。
その拍子に懐中電灯のスイッチが切れて、闇が訪れた。
「あ、すまん……大丈夫か、RUN」
「メガネメガネ……」
どうやらメガネを探しているようだ。って、
「いや、お前メガネなんて掛けてなかったろ。探検を始めた時は」
「ああ、せやった。メガネは教室に置いて来たんやった」
「ていうか、こんな時に、ボケてんじゃない! あ、そうだ。怪我してないか? どっかぶつけたりとか……」
「大丈夫。達矢くんこそ」
「俺もそれは大丈夫だ」
体の方は大丈夫だけど、ちょっと精神の方がやばいかもしれない……。
「あ、それよりも真っ暗やん。懐中電灯は……」
「お、おう……すまん、今、落としちまった。一緒に探してくれるか?」
と、その時だった。
不意に、世界がポウッと少し明るくなる。
薄暗い視界。
RUNの顔が息が掛かりそうなほど目の前にあるのが見えた。
背後で、誰かが懐中電灯をつけたのだ。
――って……えぇ……?
それってつまり……?
俺とRUN以外の誰かが懐中電灯を点けたということ……。
え……まさか……え?
幽霊さんでしょうか……。
いや、まさか……そんなものは……。
ありえないぞ……。
俺とRUNは、おそるおそる振り返る。
するとそこには――、
「だぁーれぇーだぁーーー」
生首ィイイイイイイ!?
顎の下から懐中電灯の光を当てたような顔!
首から上が浮かび上がって目の前にィイイイイ!?
何だこれはぁああ!
「キャアアアアアアアアアアア!」
「ウワァアアアアアアアアアアアアア!」
二人、叫び、驚き、怖れ、また叫び、走って逃げた。
「ギャァア!」
「アアアアア!」
三年二組の教室に逃げ込んで、部屋の隅でRUNと抱き合った。
「たたたたた、達矢くんっ! 今の何?」
「あわわわ! さぁっ! 何だ! 生首? いや、しかし……」
「達矢くん! この学校こわい!」
「ホントにな! とんでもない学校だぜ!」
「もうやだぁ……」
二人、ガタガタ震えていた。
「お、お前が真夜中の学校探検をしようなんて言い出すから!」
いつまでも抱き合っているわけにもいかず、俺はぬくもりが離れていくのを悲しく思いながらも、抱き合うのをやめた。
だけど、離れたくないと思った。
「ごめん。ごめんなさい。ごめん」
「もういい。もういいが、とにかく、今はお前と離れたくない! 俺を一人にしないでくれ!」
「ウチも同じ気持ちや! 一緒におって!」
「ああ! 手を繋いでいよう!」
手を、繋いだ。しっかりと。
「うん、ごめんな、達矢くん」
「嗚呼、思い出す度に恐ろしい……」
「あっこ、理科室の前やったな……あれが理科室の幽霊……なんやろか」
「おそるべし……理科室の幽霊……」
ガタガタ震えて手を繋ぎながら、恐怖の夜は過ぎていった。
隣に、確かな温もりを感じながら。