大場蘭の章_7-3
保健室に着いた。
「開けるよ」
「おおおおう! バッチコイ!」
彼女の手が引き戸を開けた。
「誰もおらんな」
「ふっ、まぁな。そうそう怪奇現象が起きてたまるか」
俺はやれやれと言うようなジェスチャーをしつつ言ったが、次の瞬間、RUNの口から衝撃的な言葉が発せられた!
「でも……さっきまであったはずの人体模型が無うなっとるな」
「なにぃいいっ!」
「ほら、見て。さっきまであっこにあったやろ?」
ああ、確かに、あった。
半分筋肉繊維むき出しの人体模型が。
それが今、無い。
何故?
どうして?
どういうことなのこれ。
RUNの少し汗ばんだ手をもっと汗ばんだ俺の手がギュッと握った。
手を繋いで保健室内に入る。
戸は開けたまま。
「やっぱ、霊の仕業やろか」
「ええい、何処へ行ったのだ、人体模型ぃいい!」
「……ん?」
RUNが何か声を出した。
「何だ! どうしたんだ! RUN!」
「なんかな、今、廊下にチラっと何か見えたような……」
「ていうか待て……。俺は引き戸を閉めた記憶が無いのだが……何故……何故引き戸が閉じているのだ!」
「やっぱ、おるんや」
「何がっ!?」
「霊?」
「はぁあああ!?」
「悪霊じゃないとええな」
「悪霊だとっ? そんなもん存在しないだろうが! 存在するはずがないのだ!」
「でも……」
「でもじゃない!」
「いや、だって」
「だってじゃない!」
「こわいん?」
「うるさいっ!」
「子供かっ」
ペスン。
頭を叩かれた。
「痛い……」
ちょっと落ち着いた。
「だが、こわいだと? 俺がこわがるわけがないだろうが、この学校には、そんな霊とか存在しないと思うんだよ! そんなことくらい――」
騒いでいたら、突然RUNの手の平が俺の口を塞いだ。
「しっ。何か、聴こえへんか?」
RUNは、耳を澄ませるような姿勢をとった。
繋いでいた手を離し、耳に手を当てている。
俺は黙った。
口にあったRUNの手も離れる。
「えぇ、何が聴こえるってぇ?」
俺も耳に意識を集中する。
えっと……。確かに廊下から声がするぞ……。
「ねぇねぇ、昨日のテレビ見た?」
「いや、やっぱ朝の挨拶は最初はおはようから入るのが良いか」
「おはようっ」
「うーん……やっぱ……おかしいかな」
「おはよう」
「うーん……違うんだよな……」
「グッモーニンっ」
「うーん……」
そんな声。ひとりごとのようにブツブツと。なんだこれは。
「お……おい……RUN……何だこの声……」
「さぁ……」
さらに廊下の声は言う。
「やぁ、とかでも良いかなぁ。なぁ、どう思う?」
だ、誰に訊いているんだ?
そして、
「何でもええやん」
大きめの声で、廊下の声に答えるように、RUNは言った。
なんという勇気!
廊下から、「えっ……」と戸惑ったような声。
そして、RUNは扉に向かって歩き出し、扉をガラッと開けた!
なんという勇気!!
そこにあったものを見て、思わず俺は、
「うひゃああああああああ!」
大声で叫んだ。
服を着た人体模型!
この場にあるまじきオシャレな服装の人体模型。
なんでオシャレしてんの!
何これ!
「何じゃこりゃぁああ!」
そして、その人体模型以外に人が居なかった。
「まさか! この人体模型が喋っていたというのかぁあああ! ていうか、何で服なんて着てるんだこの野郎おおおお!」
「た、達矢くん。達矢くん。落ち着いて!」
「ええい、落ち着いていられるか! 人はいつか、落ち着けない瞬間に出会う!」
「何言うとんねん。ちょっと人体模型がお散歩してただけやろ」
「人体模型がお散歩するもんかぁああ!」
「こわいん?」
「ああこわいね! ここまで来るともうこわいね! いや、ある意味こわいものなんて、もはや無くなったね!」
「じゃあ次は美術室行こ」
「ああ、いいぜ。いいとも! いいだろう! 絵でも何でも増えてたらいいじゃねぇかこの野郎!」
美術室に向かうことになった。