表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/579

上井草まつりの章_1-5

 チャイムが鳴った。放課後になったのだ。


 教師が既に帰りのホームルームを終わらせて職員室に去り、チャイムが鳴ったら帰って良いと言い残していた。


「ふぁ……あ」


 俺は大きく欠伸をし、そして思い出した。


「あ、そういや、笠原って子に会わないとな」


 転入の挨拶失敗のショックですっかり忘れていた。


 教師に上履きを彼女から受け取れと言われていたんだった。まだ学校に居るだろうか。


 志夏にでも訊いてみるか。


「って、いねぇし……」


 見当たらなかった。


 じゃあ、上井草まつりにでも。


「って、これもいねぇし」


 どうしようか。ここはひとつ、掃除してるクラスメイトにでも訊ねてみるか。


「おい――」


「ひぃぃい!」


 男は逃げてった。


 ええと、何だこれ。


 めげずに箒持った女子に話しかけてみる。


「ちょっと訊きたいんだが……」


「きゃぁああ!」


 女も箒を放り出して悲鳴を上げながら逃げた。


 えー……これ、イジメじゃない? 俺、イジメられてない?


 何で、話しかける人に悲鳴上げて距離を取られなきゃならんの。刃物持って裸で暴れてるわけでもねえのに。


「笠原って子、知りませんかー?」


 俺は、少し大きな声で言ってみた。すると、クラスメイトたちはヒソヒソと、


「笠原って、みどりちゃんのことよね」

「みどりサンに何する気なんだ」

「サイテー。鬼畜……」

「みどりは今どうしてる? 狙われてることを教えてやらないと」

「もう帰ったよ。大丈夫」


 それを耳にした時、思わず俺は叫んだ。


「てめぇら、いい加減にしやがれ! 良いから、笠原って子の居場所吐けってんだよ!」


「ひ、ひぃいい! みどりちゃんなら、坂を下った商店街にいますぅ!」

「笠原商店ってお店に居ると思いますっ!」


 ふむ、笠原商店か。


「そうか、ありがとう」


 俺は努めて爽やかに言うと、教室を出た。


 向かう先は、笠原商店。


「お前ら、何で教えちまったんだよ! みどりに何かあったらどうする気なんだ!」

「ごめん」

「ごめんなさい……」


 俺って、一体どういう目で見られてるんだ。


 まるで、腫れ物に触るみたいに扱われて……。


 泣いても、良いですか……?


 ひどく悲しい気持ちになりながら廊下を歩き、階段を下り、昇降口を出て、中庭に出た。中庭を越えて、門を出ると、急勾配の下り坂。


 顔を、そこそこの強風が襲う。目がしばしばする。涙出そう。すごい出そう。だが、男はそう簡単に泣いてはいけないのだ。大昔から、そう決まっているのだ。


 周囲にあるのは、下校する生徒の姿と、草原と、風車たち。


 背中を向けて回転する風車並木が、沈みかけの太陽の光を受けてオレンジ色に光っていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ