大場蘭の章_6-4
さあ、掃除が終わって、今日一日元気の無かったまつりと別れて帰るフミーン。
俺たちはその後をつける。
鈍感なフミーンは、俺たちのバレバレの尾行にも気付く気配を見せない。
教室を出て、廊下を歩き、階段を降りて、昇降口で靴を履き替えて外に出た。風車並木の坂を下り、商店街を抜け、湖に突き当たったところで右に曲がる。湖畔の道を歩き、白壁の住宅街を横目に進む。ショッピングセンターの前を横切り、また坂を登った。そして辿り着いた先は……病院。
「病院……?」
「……みたいやね……」
確かにフミーンはこの中に消えていった。
とすると……誰か家族が病気で入院しているのだろうか……あるいは、フミーン本人が病気なのか。
「どうする?」
RUNは、メガネをクイッと持ち上げて訊いてきた。
「どうもこうも、フミーンのことを知りたいのだろう」
「うん」
大きくこくりと頷く。
「だったら、行ってみるしかないだろう」
俺はそう言って、歩き出した。病院に向かって。
「うん」
RUNもついて来る。
俺たちは二人、エントランスの自動扉から中に入った。
で、コソコソとしていると、
「あの……どうかなさったんですか? 受付はあちらですけど……」
「うわぁああ」
「ひぃああ」
二人してビックリしていた。
「あ……あの……あ、面会ですか?」
声の主は、白衣の人。ナースさんだった。
「あ、えっと、そうです。風間さんは居ますか?」
「風間さん……303号室の風間史紘くんのお友達ですか?」
「ええ、そうです」
「史紘くんの飼い主です」
こらこら、余計なことを言うんじゃないよ。
「は?」
ほら、怪訝そうに訊き返されちまったじゃないか。
「あ、それで、303号室ですね。ありがとうございます」
「あの、お名前よろしいですか?」
ナースさんが名前を訊いてきたので、
「戸部崎達矢丸です」
偽名を使ってみた。
「大場崎蘭子です」
こいつも偽名を使った。
偽名コンビが、ここに誕生した。まったくどうでも良いことだが……。
「えと、トベザキさんとオオバサキさんですね……風間くんは、病室に居ると思いますので……」
「はっ、了解でござる」
俺は敬礼した。
「わかったわ」
RUNは秘書風にメガネをクイッと持ち上げた。
「三階の303号室へどうぞ」
「はっ、ありがとうございまする」
「あじゃーっす」
二人、それぞれふざけた感じにお礼を言って、階段へと走った。
「あっ! 病院内は走らないでくださいー!」
おこられた。
「すみませーん!」
謝った後、静かに階段を上った。