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風車は力強く回転を繰り返し規格外の強風は坂を駆け抜けてゆく  作者: 黒十二色
番外編_大場蘭(ドキドキ☆真夜中の学校探検)
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大場蘭の章_6-2

 教室に着いて、席に座り、しばらくすると教師が入ってきて、朝のホームルームが始まった。


 教師は言う。


「えー、本日は、転校生が来ています」


 ざわっ、ざわざわと教室の空気が揺さぶられた。


 ある男子は言う。

「今度はどんなヤツかな」


 そして別の男子が言う。

「この間は期待はずれだったからな」


 もしや、この期待はずれってのは俺のことか?


 さらには、斜め前に座っていた女子が、

「ステキでオシャレで面白い男子だったら良いな。戸部くんじゃ、ちょっとね」


 よくもまぁ、本人を至近にしてそんなことを言えるものだ。


「それでは、転校生さん、入ってきて」


 教師が廊下に向かって語りかけると、メガネを掛けた女子が入ってきた。


 そして、教卓の横に立つ。


「おいおい……」


 あれは、どう見ても……RUNちゃんじゃないか。明らかに。


 RUNは、ペコリと頭を下げると、


「どうも、大場崎蘭子です」


 大場崎蘭子……。


 そんな名前だったのか。


 ていうか、何でメガネ……?


 視力良くないのだろうか。


「なんだぁ、女の子かぁ」

「でも可愛いぞ。なんか、RUNちゃんに似てる感じだな」

「いや、ないだろ。RUNちゃんは視力良いし、本名は大場蘭じゃん」


 クラスの連中は口々に訊いてもない感想を述べた。


 本名が大場蘭。


 とすると……偽名で変装か。正体を隠すために。


 教卓の横に立つRUNは、


「ご覧の通り、地味でメガネっ娘なウチやけど、どうかよろしくお願いします」


 地味? メガネっ娘?


 何か嘘っぽいことを言って、ぺこりと頭を下げた。


 控えめな拍手が響く。


「では、大場崎さん。あの一番後ろの席にどうぞ」


 教師は言って、俺の隣の空席を指差した。


「はい」


 RUNは返事して、俺の隣の席に座る。なお、窓際最後方が俺の席。


 そして言うのだ。


「よろしく、戸部達矢くん」


「お、おう……よろしく。えっと……大場崎蘭子さん……か」


 言うと、彼女は突然、俺の耳元に顔を寄せてきて、


「偽名や。ほんまはな、大場蘭っていう名前やねん」


「そ、そうなのか……」


「あとな、メガネも伊達やねん」


 メガネをクイクイッと持ち上げながら。


「そうっすか……」


 それだけ言うと、RUNは俺の耳元から離れ、着席した。


 ていうか、いきなり耳元で囁かれるとドキドキするんだが。


「なぁなぁ、メガネ、似合う?」


「まぁ、そうだな……似合うけど、俺は無いほうが好きだ」


 個人的な好みだが。


「ふーん」


「ていうか……なんでメガネなんかしてるんだ」


 すると、小声で答えてくる。


「だって、パニックになってしまうやろ。それを避けるために、こうして偽名と変装を用意しとるんよ」


「そうなのか」


 それにしては、何かバレそうな名前だがな。


 大場蘭と大場崎蘭子……。


 あんまり違いが無い気がするぞ。


「ところで、達矢。この髪型、どう思う?」


 自分の髪をふわさっと払って訊いてきた。


 いきなり話を変えてきたぞ。どうすればいいんだ。


「どうって…………」


 見たところ、あまり変わったようには見えないが。いや、しかし心なしかキューティクルが復活したようにも見えるな……。


「少し髪にツヤが出たか?」


「そう! その通り!」


「そ、そうか。当たってよかったぜ」


「じゃん、コレ見て」


 RUNは、何かを見せびらかしてきた。


 緑色のパッケージのシャンプーみたいなモノ。


「……何、これ」


「みどりちゃんが、ウチのボロボロの髪を見かねてオススメしてきたんよ。モイスターソースっていう商品らしいんやけどな」


「モイスターソース……美味そうな名前だな」


 オイスターソースみたいだ。


「食べたら死ぬらしいで」


「そうなのか……」


 なんかガッカリだぜ。


 どうやら、髪の毛にしっとりツヤツヤ感を取り戻させてくれる素敵な商品らしい。綺麗に見えるし、いい匂いもする。


「とにかく、念願のしっとりツヤツヤ髪を手に入れたんよ。みどりちゃんのおかげで!」


 うれしそうだった。


 みどりのおかげ、ね。


「料理は下手だけどな」


「やめて、それは言わんといて……もう許して……」


「あぁ、そうか……すまん」


 もうトラウマのようだ。


「ていうか、なんか、運命感じひん? いきなり席隣同士て」


「運命ねぇ……」


「これから、楽しみやんなー」


 何だか楽しそうだった。


「では、以上でホームルームは終わり。一時限目は自習だ。それじゃあな」


 教師はそう言うと、教室を出て行った。ていうか、ホームルームが続いていたのか。RUNとの会話に夢中でそれを忘れてたぜ。


「勉強教えたってな、達矢くん」


「それは、できない相談だ」


 俺の脳みそは限りなく低スペック。どうでも良いことに対する記憶力は良い方だが、勉強なんて無理。勉強すると眠ってしまうタイプの人間なのだ。教室という空間は、いつも俺にまどろみをくれる。それは、良くないことなのだろうが、俺にとっては素晴らしいことなのだ。


 ほら、今、そんなことを考えている間にも教室という空間に置かれただけで、俺はもう眠りそうだぜ……。


「あ、せや。ウチ、ちょっと級長さんに挨拶してくるわ」


 言って、RUNは席を立った。


「おう」


 俺はといえば、返事をした直後、机に突っ伏し、すぐに眠った。




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