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風車は力強く回転を繰り返し規格外の強風は坂を駆け抜けてゆく  作者: 黒十二色
番外編_大場蘭(ドキドキ☆真夜中の学校探検)
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大場蘭の章_5-4

 屋上の戸をガラリと開くと、RUNが居た。


「あれ? どないしたん? 達矢くん」


「いやぁ、この女に連れられてな……」


「はわぁあああ! ホンモノォオオ!」


 騒いでいた。


 RUNは少々不快そうな顔を見せつつ、


「誰、この子。達矢くんのカノジョ?」


「はっは。まさか」

 軽く笑いながら返した。


「あ、あのさ、RUNちゃん。あたし、上井草まつりと言います。よろしく」


「何だ? 妙に大人しい挨拶だな。いつもみたいに腕組んで威圧しないのか?」


「何言ってんの、殺すよ?」


「う、すみません」


 すごい目力でにらまれたぜ……。


「上井草まつりさん?」


「うああ! すごいよ達矢! RUNちゃんがあたしの名前を口にしたよ!」


 歓喜するまつりとは対照的に、おもいっきり顔をしかめたRUNは、


「達矢くん。何なん? この子」


「ちょっと頭のおかしな子なんだ。優しくしてやってくれ」


「あァ? 何だって? 死ぬ?」


 キッと視線で射抜かれた。


「すみません……」


 こわい。


 まつりは、再びうれしそうにキャピキャピしながら、


「RUNちゃん、この町、どうですか?」


「どうって?」


「なんてゆーか、感想とか、あります?」


「どうもこうも、最悪や」


 まつりは「……さ、最悪……」と呟いて、ずーんと落ち込んでいた。


 何なんだ、一体。


「なんか知らんが髪パリパリになるし」


 髪を触りながら不満を口にした。


「コンビニ無いし」


 確かに無い。


「不良多いし」


 さっき囲まれてたしな。


「しかも聞いた話やと、番長みたいな女が学校シメてて居心地悪いらしいし」


 今、目の前に居るのがその番長みたいな女だが。


「もうチョベリバー」


 いつの言葉だ。風化レベルの死語だぞ……。


 まつりは話を逸らそうとしつつも、明らかに普段からは考えられない口調で、


「て、ててて、ていうかRUNちゃんはぁ、何でこんなところに居るんですかっ?」


 さっきからどうしたんだ、こいつ。なんか挙動が不審だぞ。本当にまつりだろうか。中の人が変わってるんじゃないのか?


 RUNは答える。


「この屋上におるとな、何かが降りてくるような気がするねん」


「UFOとか?」と俺。


「茶化さんで欲しいんやけどな」


「てめぇ達矢、ふざけんなよ」


 おこられた。


「すみません……」


「降りてくるって言ったら、何か創作的なイメージの源泉シャワーとかに決まってるでしょうが! RUNちゃんは……アイドル歌手なんだから!」


「アイドル歌手だと?」


 そうだったのか……。


 言われてみると、はるか昔に何処かで見たことあるような気もしないでもない。


「おい、知らなかったってことか? 不敬罪で独房入れるぞてめぇ!」


 その声に、俺がビビっていると、RUNは、


「あぁ、そんなんええんよ」


「いいってさ! RUNちゃんが優しくてよかったな!」


 何なんだ一体。ていうか、独房なんてあるのかよ。


「まつり、お前、さっきから変だぞ。何が目的だ」


「目的は! RUNちゃんが欲しい!」


「は?」「へ?」

 俺とRUNは突然の変な告白に揃って首を傾げた。


「RUNちゃんはあたしのだ!」


 何か、壊れてきてないか、こいつ。大丈夫かな……。


「ウチ、別に、あんたのもんじゃないんやけど」


「くっ」


 悔しがった。


「サインならあげたってもええよ」


 RUNは、どこからか油性ペンを取り出してくるくるっと回して見せた。


「サイン……それは欲しい! でも、それ以上にRUNちゃん本人が欲しい! 大好き! 抱きしめたい! 結婚して!」


「申し訳ないねんけどな。お断りや。全部」


 ずずーんと落ち込んでる……。


 そしてRUNは、取り出した油性ペンをしまった。サインを書いてくれるって話も撤回されていた。


「達矢ぁ! どういうことだ!」泣きそうな上ずった声。


「えぇっ! 俺?」


 そんな感じで俺が怒られそうになった時、


「あっ、達矢くんいじめんといて」


 RUNが(かば)ってくれた。


「そういう作戦かぁ! 貴様ぁ!」


 俺は胸倉つかまれて揺すられる。


「な。何言ってんだ。何が何だかっ」


 どういう作戦だと思ってるんだ。ていうか、別に何も(たくら)んでねぇぞ。


「そして、達矢くんはウチのものになる予定やねん」


 こいつも突然何を言ってんだ?


「くぅううっ!」


 まつりは悔しそうに、小型犬のような声を出した。


「ウチ、達矢くんのことすっきゃねん」


「すっ――」


 すっきゃねんって……えっと……。


「好きってことか?」と俺は信じられなくてききかえす。


「――ってえぇええっ? お前、RUNちゃんに何をしたぁああ! ていうか達矢! それならRUNちゃんをあたしによこしなさい!」


 会話の次元が何かおかしいだろ、こいつら!


 人間同士の会話をしやがれ!


「ウチはモノやない。そう人間は、モノやない」


 今現在、お前は俺をモノ扱いしてるけどな。


「それにな、その命令はおかしいやろ。ていうか、命令なんてものバカ正直に遵守する必要ないやんか」


 たしかに。


「くぅぅうぅぅ!」


 まつりはイルカみたいな声を発した。そして、言うのだ。


「あたしは、RUNちゃんのこと好きなのにぃ!」


 しかしRUNは、


「ウチは達矢くんのことが好きやから、その気持ちには応えられん。な?」


 いや、「な?」とか言われて同意を求められても……。


「え? あー……」

 返答に困るしかない。


 すると、暴力女は、


「達矢は風紀委員補佐なんだから風紀委員に従いなさいよぅ!」


 偉そうに命令してきた。


「あぁ……えっと、昨日はソレになるって言ったが、昨日の夜考えて、やっぱりやめることにした。風紀委員補佐のポストは返上するぜ」


 俺はここぞとばかりに言ってやった。


「そんなことが許されるとでもォ!」


 掴まれた胸倉を前後にガクガク揺すられる。


「やめてぇ、達矢くんいじめんといてー」


 その声でまつりの手が止まる。


「何でよぅ!?」


「好きやからぁ!」


 RUNが叫ぶと、


「あたしの方が好きだ!」


 まつりも叫んだ。


「えぇええええ?」驚く俺と、「え、まじで?」とか言って、あらそうなのみたいな顔をするRUN。


 それってのはつまり、上井草まつりが俺のことが好きってこと?


「あたしのRUNちゃんのことが好きな気持ちは、RUNちゃんが達矢のこと好きな気持ちより大きいって意味!」


 あぁ……一瞬どうしようかと思ったぜ。女の子二人で俺の取り合いとかになったら、もうどうして良いのかわからん。


「言うたかて、ウチとは結婚できないやんか。女同士なんやし」


「法律変えるから!」


 確かにまつりなら変えてしまいそうだが、そんなことになったら、この世は地獄と化す気もする。


 まつりが法を変えるほどの権力者というか、独裁者みたいなものになるってことだからな。世界が単純な暴力に満たされるぞ。


 RUNは不満を顔全体で表しつつ、


「なぁ、達矢くん。このうざい子ぉ何とかならへん?」


「うざい子って……」


 ずずずーんと落ち込んでいる。


「どうにもならん。こいつはこういう奴だ」


「かわいそうに……」


 今度は不憫(ふびん)そうにまつりを見つめた。


「そんな目で見てんじゃねぇ――わよぅ……」


 弱々しくそう言った。


「飼い主が必要なんやね。ウチが飼い主になったろうか?」


「なっ――」


「お、おい……いくらなんでもその発言は危険すぎる! こいつは番長なんだ! 殺されるぞ!」


「……え、それじゃあ悪の女番長って、この子のことなん?」


「まぁ……そうだ」


「最低」


「……最低……って」ずーんと沈むまつり。


「チョベリバ」


「……死語でまで……」ずずーん。


 あのまつりをここまで一方的に落ち込ませるとは、さすがアイドル歌手といったところだろうか。


「あ、せや。誰が番長でどうだとかなんてどうでも良いんやけど――」


「……どうでもいいって……」ずずずーん。


「――実はウチ、今朝女子寮追い出されてもうたんやけど」


「え? どういうことだ?」


「なんかな、毎朝絶対に朝ごはん食べんと追い出されるらしいねん」


「あぁ……まぁ、そんなこと言ってたなぁ、男子寮も」


「でもなぁ、ウチは一応、有名人やろ。朝、食堂なんて人ごみに行ったら混乱を招きかねない思うねん」


「有名の度合いによると思うが……」


「何失礼なこと言ってんの!」とまつり。「国民的アイドルなのよ! 全国区よ! 皆大好きなのよ! 正直、RUNちゃんを知らなかった達矢は非国民!」


「何言ってんだ、こいつ」


 俺がまつりを指差してRUNに訊くと、


「何言っとるんやろなぁ」


「…………」ずーん。


 また落ち込んだ。


「でも、要するにパニックになるくらい知名度が高くて人気があるってことか」


「自分で言うと、ちょっとアレやけど、まぁそういうこと」


「それで、そんなRUNが、住む場所をこの町に来て早々に失ってしまって困ってる、というわけだな」


「うん」


 こくりと頷いた。


「あっ、それじゃあ、あたしの家に――」


「嫌や」


「…………」ずーん。


「できれば、二十四時間営業のコンビニが近所にあると、ええねんけどな」


「この町には、コンビニなんて無いだろ」


「らしいな……チョベリバな町やんな」


「…………」ずずーん。


 さっきから落ち込みすぎだろ、こいつ……。


 しかし、コンビニみたいなものが近くにある寝泊りできる場所か。そんな場所に心当たりは……。


「あっ」


 ピンときた。閃いたぞ。


「どっかええとこある? 無かったら学校に泊まろう思っとったんやけど」


 学校に? 女の子が一人で? それは何か危険じゃないか。


 あやしい男に襲われたらどうするっ!


 それに、RUNの希望の条件に近い宿に心当たりがあるのだ。


「いやまて。落ち着いて聞けよ、RUN。あるぞ! 条件に限りなく合致した場所がある!」


「え? どこどこ?」


 そして俺は言うのだ。


「それは……笠原商店だ!」


「あぁ、商店街の下のほうのコンビニっぽい店か。上履きとかくれたお店。でも、あっこ、夕方には店閉まるやろ」


「だが、その店自体に居候していれば、二十四時間利用可能になるかもしれんぞ」


「あ!」


「どうだ。このアイデアは。我ながら()()えだろう」


「すごい! 頭ええな!」


「ふっ、まぁな」

 格好つけてみた。


「でも……いきなり居候(いそうろう)したいなんて頼んで迷惑やない?」


「だが困ってるんだろ。泊めてもらう代わりに働くとか、色々方法はあるだろう」


 そこで上井草まつりが口を(はさ)んで、


「ふん、そんな回りくどいことをしなくても、あたしが言えば一発でオーケーが出るわ! なんてったって、みどりはあたしの幼馴染なんだからね!」


「ほな達矢くん。ウチと一緒に頼みに行ってくれへんか? 今晩泊めたってーって」


「ああ、お安い御用だ!」


「……無視された……」ずーん。


「そうと決まれば、行くでー。笠原商店!」


「おう」


 俺とRUNは歩き出す。校舎内に向かって。


「あ、待ってよっ」


 後からまつりがついて来る。


 何だか、珍しい陣形だ。まつりが先頭じゃないってのが。


 そして、屋上と屋内を繋ぐ戸は開いて、そのまま開けっぱなしで俺たちは去った。




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