大場蘭の章_5-3
RUNと名乗る女の子と別れた後、階段を降り、校内の廊下をぶらぶらしたところ、
「ウワァアア」
リーゼント不良のものと思しき悲鳴が響いた。
「な、何事だ?」
突然、すぐ近くから尋常じゃない悲鳴が聴こえたので、そっちへ向かってみる。
廊下を駆けて角を曲がると、
「ひいいい、やめて、やめてぇ!」
「そーれ、おっちーろ。おっちーろ」
廊下の窓で、謎の攻防が繰り広げられていた。
上井草まつりが、不良Cを窓の外へ落とそうとしていた。
窓枠にかけられた腕を引き剥がそうとしている。
かろうじて指で支えられているモヒカン赤髪の不良Cくんの命運は、いまや風前の灯火!
ていうか、まてよ……おいおい……ここは三階だぞ……。
「ひぃい、やめて。やめてくれぇ!」
「ウフフ」
やべぇ……まつり様こえぇ……。
そして――。
「うわぁあああ!」
窓枠から手が離れ、不良Cは落ちていった。
どぐしゃっ。
「ざまぁ」
いやいや、何してんの! 人死ぬぞ! 三階から落ちたらっ!
俺は慌てて窓の下を確認する。
すると、庭に累々と倒れていた不良ども五人組はのそのそと立ち上がり、
「「「「おぼえてやがれ!」」」」
叫んで走り去って行った。
「何で生きてるんだ……あいつら……」
「キミがそれを言うかなぁ……」
「まぁ確かに……」
俺も不死身である。普通の人間とは違うのだ。いくらまつりといえども、不死身でない男にはあそこまでの暴力は振るわないだろう。
「あ、達矢。聞いたぞ。不良Aを倒したんだってな! さっそく風紀委員の仕事を果たしたなっ! えらいぞ!」
褒められた。
だが、俺はその風紀委員から脱退しようと決意しているのだが。
と、まつりはふと首をかしげ、
「ていうか、何でキミ学校に居るんだ。今日も授業は無いだろう」
「お前に会いに来たのだ」
そう、風紀委員補佐のポストを返上するためにな!
「そ、それって、つまり……どういうこと?」
何故だかまつりは恥ずかしそうに言った。
「いや、まぁ……何ていうか……」
窓から落ちていった不良のことを思うと、なかなか言い出せない……。
「歯切れ悪いなぁ! 何なんだよ!」
「ん? どうした、まつり。何か顔赤いぞ」
「う、うるさい!」
「風邪か?」
「違うっ!」
「そうなのか……」
そして、まつりは、少し視線を落とし、すぐに何かに気付いたようにはっとした。
視線の先は……俺の腹の辺り……。
何故そこらへんを見てはっとした表情をする?
まさか……チャックが開いている!?
もしくは、股間が膨らんで――。
そんなことを思った瞬間、
「うわぁあああああああああああ!」
突然、まつりが叫んだ。声を揺らしながら。
「うおぁ! な、なんだ、急に……」
驚くじゃねぇか。
「キ、キミ、それ、それっ!」
俺の股間周辺を指差してくる。
「……俺の股間がどうかしたか?」
「違うっ! 服! それ! 服!」
「服…………?」
俺の白い服に、『RUN☆』とか書いてある。
股間ではなく、これを指差していたわけか。だが何故だ。
「あぁ、これな。変な女にラクガキされてな。迷惑してんだ」
「女って……その子! どこに居るの?」
「あァっと……屋上に居ると思うぞ。でも、それがどうかしたのか?」
「どうもこうも! このサインの筆跡! 間違いなくRUNちゃんのものじゃん!」
「そういや、RUNとか名乗ってたな」
「うっっっっっそおおおお!? ホンモノぉお? ホンモノぉおお!?」
「どうしたんだ、さっきから、なんかお前おかしいぞ」
「だってだって! え? 知らないの? RUNちゃんって言ったら……」
「何なんだ?」
「ええい、話している時間が惜しいっ! 屋上だったよな! 行くぞっ!」
「え? お、おう……」
俺はまつりに腕を万引き犯人のごとく腕を引っ張られながら、屋上へ連れて行かれた。