上井草まつりの章_1-4
休み時間になった。
俺は、授業中と同じように、窓の外に見える回転風車を眺めていた。
規則的な回転は、何となく飽きない。単調なので、眠くはなるが。
というわけで、眠くなってしまったので机に突っ伏して、まどろみかけたのだが、その時、声が聴こえてきた。
「なに、志夏、何か用?」
知ってる名前を耳にして、ちょっと目が覚めかけたが、まぁとりあえず眠いのでもう一度、まどろもうと試みる。
「上井草さん。また遅刻? 毎度のことながら呆れさせられるわ」
級長らしく、注意していた。
どうやら相手は、朝、俺を撥ね飛ばした不良女のようだ。
「やっはぁ、ごめん志夏。次から気をつける」
「毎回その言葉聞いてる気がする。でも、まぁいいわ。それよりも今日転入生が来たわよ。挨拶したら?」
俺の話。
目が覚めてしてしまったではないか。だが、志夏の話によるとあの女は要注意人物。あまり関わり合いにならない方が良いかもしれない。そこで俺は、たぬき寝入り作戦を選択した。
「ほう、どれどれ? お、あの窓際最後尾で机に突っ伏してる子だね」
その言葉の後に、足音と、大きな気配を感じた。
そして大きく息を吸い込む音が聴こえたと思ったら、
「ヘイ!」
耳元で大声ェっ?
俺はビクっと体を震わせた後に勢いよく起き上がった。後頭部に何かがぶつかった。
あぅあ、耳が、耳がキーンっていってるぅ。
「いったたた……」
見上げると、ぼやけた視界の中で、美人が鼻を押さえて悶えてた。美女が台無しだった。
「あ、すまん。大丈夫か?」
どうやら先刻の後頭部へのダメージは、上井草まつりの顔面への頭突きとなったようだった。
「てめぇ、いきなり頭突きかよ!」
何たる言葉遣い!
台無し美人!
「だから、謝ってるだろうが」
俺は左耳を抑えながら言った。鼓膜とか破れて……ないようだ。左耳抑えててもちゃんと音拾えるみたいだからな。右鼓膜の危機は去った。
女は、いい笑顔で、
「ま、いいか。あたしはこのクラスの風紀委員。上井草まつり。よろしくぅ!」
「風紀委員? なのに遅刻なのか? ダメじゃないか」
「いきなり初対面の人間にダメとか言うな。このダメ人間」
矛盾してる。初対面の俺にダメって言ってる。
「ていうか、初対面で耳元で大声はやめておけ」
「あたしは頭突きされた。痛かった」
「お前が大声出さなければ何の問題も無い出会いだったんだ」
「屁理屈を」
どこらへんで屁理屈をこねたと言うんだ。極めて真っ当なことを言ったぞ、俺は。
「まぁいい。俺は戸部達矢だ」
自己紹介した。
「よろしく、達矢」
いきなり呼び捨てかい。
「ああ、よろしく、まつり」
俺も呼び捨てで返した。
「ところで、キミ、どっかで見たことあるんだけど……」
「まぁ、そうだろうな。朝、職員室の前で会っただろうが」
すると上井草まつりは思いついた顔で、
「……あぁ、ちょっと肩がぶつかっちゃった人だ」
ええと……ちょっと? ぶつかっちゃった?
俺は宙を舞うくらい吹っ飛んだんだが、それが「ちょっと」って言えるのだろうか。それに、ぶつかったって言うよりは、撥ね飛ばしたというのが正しいだろう。
しかし、俺が複雑な表情をしているのを気にする様子もなく、上井草まつりは、
「よぅし! とにかく、キミは我が三年二組の仲間だ! 大丈夫。おかしなことをしなければすぐに馴染めるわよ!」
良い笑顔で、言っていた。
何だろう、こんな変な風紀委員が居る場所に、馴染める気がしないんだが。