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風車は力強く回転を繰り返し規格外の強風は坂を駆け抜けてゆく  作者: 黒十二色
番外編_大場蘭(ドキドキ☆真夜中の学校探検)
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大場蘭の章_5-2

 坂道を登って登って、学校に着いた。


 そして階段を登って登って、屋上の引き戸の前に立った。


 押し開ける。


 ガララッと軽い音で戸は開かれ、その先には、予想外で目を疑う光景が、広がっていた。


 何人分ものざわつき。不良どもが集団になって群がっている。その数、えっと、五人か。


 五人が誰かを囲んでいる。


 隙間から、どんな子が囲まれているのかを見ることができた。


 囲まれているのは……制服姿の女の子?


 後姿しか見えなかったが、まだ見たことの無い、知らない子だった。


 とりあえず後姿かわいい。痩せている女子の後姿は七割がた美しい。


 さて、女の子の様子を、じっと注視してみる。女の子が少し動いて、横顔が見えた。


「…………(困)」


 おっと困ったような表情をしているぞ。


 どうするべきか、と考えたが、やはりここは助けるしかないだろう。


 明らかにトラブルだ。


 大量の不良に囲まれているのはどう考えても乙女のピンチ!


 大量の働きアリに囲まれている蝶の死骸とかだったら不憫(ふびん)に思いながら見逃すところだが、囲まれているのが可愛い背中した生きた女の子なのだ。


 これは勇気を出す場面!


 そう、今俺は、男らしいことをしようとしている!


 俺カッコイイ!


 俺輝いてる!


 そんなことを考えて自分を鼓舞してみる。


「おい。貴様ら!」


 俺は、強そうに言った。


「「「「「アァ!?」」」」」

 五人組の不良どもは一斉に振り返った。


 まずい……一斉に振り返られると、かなり迫力があるぞ……。


 見た感じはモヒカンとか金髪とかリーゼントとか居るし、体のでかいやつもいる。メガネは、弱そうだけど逆に不気味だ。みんな目つき悪い。


 女の子も「あっ……」と呟き振り返る。


 うわ。可愛い。


 背は小さくて、少しだけ日に焼けた肌と、かといって運動部っぽくはなく、バランスよく整った顔。何よりも、何と言ったらいいのか、周囲を魅了してやまないような不思議な雰囲気がある。少女漫画にでも出てきてキラキラしちゃいそうな空気だ。


「てめぇ、何だゴラァ! 何の用だァ? あぁん?」金髪。

「邪魔すんじゃねぇぞオラァ!」赤モヒカン。


 髪形でそれが不良とわかりやすい感じの不良が、威嚇の大声を出してくる。まるで野生動物のごとし。


 そして、髪を鋭利な感じに固めたリーゼント不良が、


「Aさん、自分が片付けてきます」


「うむ。そうか。頼んだD」


 返事をしたのは、ひときわ巨大で筋肉もりもりの不良だった。こいつが一番強そうだ。


 しかし、最強っぽいヤツがいきなり出てくるというのは、あまり無い話。まずは下っ端が「ボスの手を煩わせませんぜ」的な思想でもって吹っ飛んでくるものだ。


 というわけで不良の一人が、俺に向かって突っ走ってきた。握りこぶしを携えながら。


 俺は、「ふっ……」とバカにしたように息を吐いて、「やれやれ、気の短いヤツだぜ」とか言った。


 虚勢である。


 女の子の前だから強気になっているのかもしれない。


 まぁ、ご存知の方も居るかもしれないが、先に言っておこう。


 俺は喧嘩が……弱い。


 そりゃもう、非常に弱い。


 非戦闘員である。


 ただやられるだけの一般小市民だぜ。


「くらえぇえええ!」


 当然、繰り出される不良の右拳なんてのは見えない……ってあれ?


 何と、俺は敵の攻撃を回避した。


 見える。見えるぞ!


 俺にも敵の攻撃が見える!


 ヒュッ。


 空を切った不良の右腕。


 ヒュッ。


 もう一度避けた。


「見える。見えるぞぉ!」


 感激のあまり叫んだ。


 こんな攻撃、まつりの攻撃に比べたら、スピードも威力も、圧倒的に劣る!


「な、ナニィ! 俺の攻撃を避けただと?」


 リーゼントの不良Dくんが小者オーラ全開で叫ぶと、今まで冷静に事態を見守っていた不良かどうか判別が難しい矮躯(わいく)のメガネ男が、


「そんなバカな! 不良Dさんの電光石火の攻撃を回避するなんて! それも二度も!」


 とかって、メガネを持ち上げながら驚愕していた。


「そ、そうか……度重なるまつりとの戦闘で、俺もレベルアップしているのか!」


 そうだ。だから敵の攻撃が見える。


 ここに転校する前の俺だったら、間違いなく一撃ノックアウトされていたに違いない。しかし、今は違う。散々まつりにぶっ飛ばされた経験が、俺を変えた!


 パシィ!


 俺は、今度は不良の右拳を捕らえた。


「な、なにぃっ!?」

 リーゼントを揺らして顔面を崩す不良。


「ふっ、ハエがとまるかと思ったぜ」


「そ、そんなぁ、我らのグループ随一の戦闘員、不良Dさんの拳が効かないなんてぇえええ!」


 メガネが叫ぶ。


「す、すごい」


 美少女の感激したような声を、俺の耳が拾った。


 やばい……まじで俺、輝いてるかも!


 キラキラしちゃってるかも!


 とかそんな調子に乗ったことを考えた瞬間、左半身に衝撃。


 ぼこん!


「うぐぁ」


 不意をつかれて、殴られた脇腹が痛くて、俺はしゃがみこんだ。


 メガネ男の不良Eが叫ぶ。


「な、なんだって! あのAさんが自ら敵を殴るなんて!」


 どうやら不良Aというヤツに殴られたらしい。


「やべぇ! 死人が出るぞ!」


 モヒカンが慌てた様子で激しく唾を飛ばしながら叫んだ。


「死人って……そんなにヤバイ奴なのか?」


「いつも口だけのAさんだけど、本気になったらきっとヤバイんだ!」と金髪イケメン風。


 って、お前らも本気になった不良Aを見たことねぇのかよ。


 巨体を揺らして、不良Aは向かってくる。


「死ねぇ! 風紀委員補佐ァ!」


 殴りかかってきた。まるで上から叩き潰そうとするように。


 しかし、まつりの度重なる攻撃によって鍛えられた俺の動体視力は、それを、あっさりと見切った!


 ドゴォン!


 コンクリ破片、舞う。


 屋上の床が抉れた。


 おおう……なんという破壊力か。


 しかし、何とかなるんじゃないかって気もしてる。上井草まつりの攻撃を浴びまくっても生きているのだから。


「いや、言っておくが、俺は不死身だ」


 自らの胸に親指を立てて、格好つけてみる。


「それでも死んでもらうぞ、戸部達矢ァ!」


 不良Aは虚空に向かって叫び、オーラを爆発させた。


「…………」


 やべぇ……すげぇ「気」だ。不良Aの周囲の空気の色が変わってる。そして何か髪の色が派手に変色している。


 どういう原理なんだ。七つの球を集めて願いを叶えるアレの黄色い髪になって強くなるスーパー何とかさんみたいだな。


「Aさんが……ついにリミッターを解除してスーパー不良になっちまった!」


 メガネの叫び。

 安直だし……何ていうか、大丈夫かな……。


「戸部達矢! 最大のピンチ!」赤モヒカン。


 お前に言われたくない。


 確かに、何となくピンチように思えてきたけど……。


 そして、女の子はポツリと呟く。


「トベタツヤっていう名前なんや……」


 ――ってお前はっ!


 落ち着いてフムフム頷いてる場合じゃないだろ。


 俺のピンチは、お前のピンチだぞ!


 のんびり屋さんも程ほどにしなさいよ!


「オレの血糖値は53万です」巨漢不良A。


「ん、えっと、それ、やばいんじゃないの?」


 俺が言うと、メガネが横から叫び出す。


「何人もの医者を驚愕させた驚異の血糖値!」


 モヒカンも目立ちたいらしくメガネくんを隠すように前に出て、


「サードオピニオンでは名医もサジを投げたほどの(オトコ)の中の漢!」


 しかしメガネくんも負けてはいない。モヒカンの前に素早く回りこみ、


「パフェを医者に禁止されているAさんの強さは、ハンパじゃないっすよ!」


「甘いもの大好きィイイイイ!」


 巨漢が叫ぶ。


 何かもう、わけわかんねぇ。わけわかんねぇけど、この男の攻撃力が高いことは理解できる。この威圧感。この空気。


 上井草まつりには劣るが、なかなかのプレッシャーだ!


 そこで俺は、奥の手を使うことにした!


「おい貴様ら! あまり不良なことばかりしていると、まつりに言いつけるぞ!」


 とか、ひどく格好悪い言葉。情けない奥の手。


「か、上井草まつりだと!?」驚く金髪。


「ひぃいぃ!」怯える赤モヒカン。


 名前だけで怯んだ。


 しかし、


「だから何だ」と巨漢は平然。


「それがどうした」とリーゼントも平然。


 効かないヤツには効かないらしい。


 そしてメガネに至っては、


「君は君だろう。そして上井草は上井草ではないか」


 不良にあるまじき優秀発言!


 リーゼントはハッとした顔をして、


「ははぁん……さては、ブラフだな。Aさん、こいつには攻撃力が無いんですよ。やっちまいましょう」


 見破られた。


 ピンチ、終わらない。


「てめぇに言われなくてもそうするんだよ!」不良A。

「ひぃい、すみませんすみません」リーゼントはヘコヘコする。

「Aさん、今は仲間割れしている時ではないっす」メガネ。


「うむ、そうだな」


 そして、不良Aは俺の方に向き直った。


 そこで俺は、


「…………ふっ、お前の攻撃など、さっきの一撃で既に見切ったぜ」


 そう言って、格好つけてみた。


 まつりの真似をして腕を組んで、見下ろすような視線を送ってみる。


「ほう、ならば、これが受けられるか、かぁぁめぇh――」


「Aさんダメっす、そのワザは禁忌っす! 俺らの存在が消されちまう可能性があります!」


「ふっ、確かにお前の言うとおりだな、D。威力がありすぎるワザを持つのも困りものだな」


 何なんだ、一体。


(オトコ)なら、其の拳で闘うべきというわけだ。ならば、行くぞ! 皆、オレに力を分けてくれ! この強大な敵、戸部達矢を倒す力を!」


「「「「はいっ!! Aさん!!」」」」

 そして、不良どもは、目を閉じ精神を集中させた不良Aの背中に向かって両手を伸ばし、手の平を向けると、瞳を閉じて「はぁああああああ」とか「こぉぉぉぉおお」とか小声で言ったりしていた。


 何なの、これ。


 しばらくその光景を無言で見守っていると、やがてムキムキ不良Aが目をカァッと見開いた。


 不良Aは、首だけを背後に向けて、


「貴様らのパワー! 確かに受け取ったァ!」


 叫ぶと、今度は俺の方に向き直り、


「くらえ、戸部達矢! 魂の一撃をォオオ!」


 烈しいオーラを纏って突進して来ると、頭上から、思い切り拳をたたきつけてきた。


 目の前に、巨大な拳が迫る。


 俺がピンチなためか「きゃぁああああ!」とかって怯える女の子の声。


「くっ」


 俺はその場から飛び退いた。


 揺れを伴った轟音が響き、またしても屋上の床が抉り取られて、コンクリートが舞う。


 実は手抜き工事なんじゃないのかって思うくらいにすぐ壊れるなぁ、ここ。


 バッゴォオオン!


 激しい音を伴って、またコンクリート、舞う。


 大きな破片が空に舞い上がった。


 そして、そのコンクリートの行く先は……。


「うぇっ? きゃああああああああ!」


 何と、女の子に、一直線。


「むっ?」


「あ、あぶないっ!」


 俺は叫んだが、間に合いそうもない!


 女の子の顔が、みるみる青ざめる。


 絶望の色に変わる。


 頼む、避けてくれ。そう心の底から呼びかけたが、女の子は逃げるどころか、その場に座り込んでしまった。


 このままでは、このままでは……。


 しかし、その時であった。


「うおおおおお! RUNちゃあああん!」


 謎の言葉を発しながら、俺を攻撃しようとしていたはずの不良は飛び上がり、両手を広げ、身を挺して女の子を守った。


 つまり、コンクリの塊が、彼を襲った。


 ゴスン!


「うぐぁ!」


「「「「Aさああああああああああん!」」」」


 頭を抱えてしゃがみこんだ彼女が顔を上げると、女の子は「あ……」と小さな声で呟いて、頭から血を流して倒れた不良Aを見ていた。


 不良Aは、彼女を見ながらニコリと笑って親指を突き立てて、


「我が生涯…………――ガクッ」


 とか言って気を失った。


「「「「Aさああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!」」」」


 大騒ぎだった。


「大変だ! Aさんがやられたぞ!」

 モヒカンが叫ぶ。


「何という凶暴な男だ、戸部達矢!」

 金髪も叫ぶ。


「いや、俺は何も……」

 俺が呟く。


 実際、何もしてないんだが……。


「「「「覚えてろよおおおお!」」」」


 やられ役の常套句を叫びながら、四人がかりで御輿(みこし)でもかつぐように不良Aの巨体を持ち上げて逃げ去っていった。


「…………」


 残された俺たちの前には、ヒュルリーと春らしくない寒風だけが残されていた。


 小柄な女の子の方を見ると、寒そうにぶるっと震えた。


 これは、俺の紳士らしい一面を見せるチャンス!


 上着でも掛けてあげよう。


 ――ってこんな時に限って、上着を着てない俺!


 制服で来ればよかった!


 と、心の中で地団駄踏むくらいに悔しがっていると


「ありがとうな」


 関西っぽいイントネーションで、礼を言って来た。


「あぁ、いや、まぁ……」


「なんか囲まれて、こわかったんよ」


 また関西っぽい発音で言った。


「まぁ、この町は不良っぽい奴らが多いからな。気をつけろよ」


 俺はそう言って、去ろうとした。


 クールな男は名乗らず去るものなのだ。


 特に、不良から助けた見返りなどというものを求めては格好悪いからな。


 そして、踵を返した時、


「――待って」


 女の子はそう言った。


「何だい、お嬢さん」


 ここで、振り向かずに去って行くとかなりカッコイイ出会いを演出できるのだろうが、可愛い女の子のことは無視できない中途半端な優しさが邪魔をした。


 そして、なぜか紳士口調までが飛び出してしまった。


「何か用だと言うのかね」


 これじゃ完全にふざけた人である。


 しかし、一度紳士になってしまった以上、戻るタイミングが見つからないのだ!


「もっと、お礼がしたいねん」


 あら可愛い子っ。


「いや、構いませんよ、別に。私が助けたかったから助けただけですし」


 そしていつまで紳士口調を続ける気なんだ俺は!


 そろそろ紳士はやめよう。


 自然体、自然体に戻るんだ。


 深呼吸。


 よし、オーケー。


 これでいつもの自分に戻ったぞ。


「じゃあウチのボディーガードになってくれへん?」


 何か突飛なことを言い出したぞ。


 ボディーガード。はっきり言って、それは何となく嫌だ。


「えっと、それは遠慮しておく」


 またトラブルに巻き込まれそうな気がするからな。この女の子からは、何となくトラブルのニオイがする。俺の第六感の中のトラブルメイカーセンサーがブルブル震えて反応してる。


「なんでー☆」


「『なんでー☆』じゃねぇよ。休みの日に屋上で不良に囲まれて……」


 と、そこまで言って、気付いた。


 不良に囲まれていたということは、ひどいことをされたに違いないと!


「ていうか、何かひどいことされたのか? スカートめくりとか」


 俺は訊いたが、


「そんなんされへんかったなぁ」


「じゃあ何されてたんだ……?」


「なんかな、『握手して』とか、『サインちょうだい』とか、ちやほやしてきた」


「どういうことだ……?」


 そんな、有名人みたいな……。


 すると、女の子は指をパチンと鳴らして、思いついたジェスチャーをしながら、


「あ、せや」


 と言った。


 何語だ……。いやまぁ関西語か。でもちょっと不自然なような印象を受けた。


 そして言うのだ。


「ウチ、お礼にサイン書いたる」


「え……?」


 意味がわからなかったが、彼女は素早くどこからか油性ペンを取り出し、


「ちょい失礼」


 言いながら、俺の白めの服を引っ張りつつ、ペンのキャップを外したかと思ったら、サラサラっとペンを走らせ、


『RUN☆』


 とかでかく書きやがった……。


「これで、お礼になった?」


「えっと…………」


 何この異常な子。


 俺の白い服に、謎のラクガキをしてくれやがって。


「読める? ウチの名前なんやけど」


「……ルン?」


「ふつー、ランって読むやろ、アホか」


 言いながら、頭を叩かれた。


 ツッコミっ!?


 やばい。なにこれ。うれしい!


 女の子にツッコミを入れてもらえるの幸せ!


「ラン、か。ありがとう」


「達矢くん、叩き心地ええな」


勿体(もったい)なきお言葉ぁ!」


「変態かっ」


 ぺしん。


 またツッコミをくれた!


「はっ……危ない。危なく籠絡(ろうらく)されるところだ。俺がツッコミに弱いと知っての行為かぁ!」


「達矢くんって、なんか面白い子やなぁ」


 面白いだと?


「その言葉にも弱いんだぜ!」


「なんというか……好きや」


「す――」


 って、え? 好きって? えぇ?


「ウチのものにならへん?」


「何そのプロポーズみたいなの」


「ちゃうちゃう。ウチのマネージャーにならへんかってことやねん」


 マネージャー?


「何だそれは。アイドル歌手じゃあるまいし」


「……え……ちょっ、ほんまにウチのこと知らんの?」


 言われてみると、何処かで見たことがあるような気もするが、どうだろう。この女の子の言葉の端々から推測するに、芸能人か何かなんじゃないだろうか。だが、俺は芸能方面には限りなく疎いんだ。


「すまんが、わからん」


「あ、そう……」


 一瞬、暗い顔をした後、すぐにホッとした顔をして、最後は向日葵みたいにパッと明るくなった。


「まぁ、ええか。とにかく、ウチと……えっと、その……何て言えば良いのかな……」


「――友達か?」


「それ! それ、なって!」


「まぁ、構わんが」


「で、ゆくゆくはウチの手下とかになって」


 こんなヤツばっかだな。この学校。


 上井草まつりみたいなことを言ってくるやつが多すぎだ。正直、手下になんかなりたくないぞ。一度まつりの手下になったが、それは近いうちに返上する予定なのだ。


 できるだけ早く、風紀委員補佐なんていう屈辱的なポストを返上して、上井草まつりの傘の下から独立するのだ!


「手下になどならん」


「なんでー☆」


「なんでもだ」


「ウチ、優しくするよ?」


 ちょっと、グラっとした。


 気持ちがRUNに傾きそうになったぞ……。


 まつりは全く優しくないからっ。


「ていうかな、もう名前書いたんだからウチのものや」


 RUNはそんなことを言いながら、俺のシャツを指差した。


 確かに『RUN☆』と書いてあるが……。


 いやいや俺はモノじゃねぇぞ。


 昔、小学生の頃、俺が買ったはずの消しゴムを、クラスメイトに奪い取られたことがある。担任教師が、「持ち物には名前を書きましょう」というようなことを言ったため、クラスでは、


『名前が書いていないものは誰の所有物でもない』


 というような理論がまかり通る状況になり、名前を記していなかった俺の消しゴムは、クラスメイトに奪い取られ、その子の名前を書かれてしまった……そういうことが大昔にあった。


 そんな名前を書いてなかった消しゴムに名前書いて自分のものだと主張する小学生じゃねぇんだから。俺を勝手に奴隷化しないでくれ。


「ところで……寒くないか? 屋内(なか)に入らないと風邪引くぞ」


「ウチは、もう少しここに()る」


「え? 何でだ。何か待ってるのか?」


「何か、飛んで来ぉへんかなって」


「はぁ?」


「解き放たれたいねん」


「よく意味がわからんのだが」


「わかんなくてええよ」


「そうっすか……。まぁ、風邪ひかないように気を付けろよな」


「ありがとうな」


 そうした会話を終えて、俺は屋上を後にした。


 ガラリと戸が開いて、ピシャンと閉じる。




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